福岡大学市民公開講座講演 福岡大学医学部 2004.12.1
医薬品医療機器総合機構 池田 正行
新薬と聞いて皆さんは何を連想されるでしょうか?癌や難病でしょうか?夢の新薬と取り上げた1年後、同じ薬を薬害の元凶と報道する新聞紙面でしょうか?動物や培養細胞相手にその効果が発見されて、様々な障壁を乗り越えて新薬が世の中に出るまで、10年あるいはそれ以上の年月がかかるといわれています。それは何故なのでしょうか?素晴らしい薬ならば、何故、世の中にもっと早く出せないのでしょうか?そういう素朴な疑問にお答えします。
新薬と聞いて,何を連想しますか?
新薬と聞いて,みなさん何を連想するでしょうか?癌や難病でしょうか?夢の薬と報道する新聞紙面でしょうか,それともそれから1年後,同じ薬を薬害あって一利無しと,正反対の報道をする同じ新聞の紙面でしょうか?動物や培養細胞相手にその効果が見出されて,様々な障壁を乗り越えて新薬が世の中に出るまで,10年あるいはそれ以上の年月がかかると言われています.それはなぜなのでしょうか?素晴らしい薬ならば,なぜ世の中にもっと早く出せないのでしょうか?
その新薬が本当に素晴らしいかどうか,誰がどうやって保証すればみなさんは安心してその薬を飲むでしょうか?その薬を売る会社や,その会社からお金をもらっているお医者さんが“素晴らしい薬”と言っても,賢い皆さんは信用しないでしょう.では,どうすれば,皆さんは安心できるでしょうか?
安心して飲める薬を見分けるには?
病院の格付け,ランキングが流行しています.病気になった患者さんは,自分の命がかかっていますから,中にはこのランキングを必死になって読む人もいるでしょう.でも,このランキングは,どこまで信用できるのでしょうか?誰がどうやって決めているのでしょうか?レストランの評価のように,病院が週刊誌の会社にお金を出して広告代わりに使っていないでしょうか?週刊誌のランキングに載らなかったために倒産したという話は聞きませんから,患者さんの方も病院ランキングを全面的に信用しているわけではないようです.ましてや,患者さんの体の中に直接入って命の行方を決める薬の評価を,週刊誌のランキングで決めるわけにはいきません.ではどうやって決めればいいのでしょうか?
薬の格付け機関と格付けの作業
第三者評価という言葉が流行しているのをご存知ですか?利害関係のない第三者の専門機関に,客観的な評価をしてもらうことです.病院の機能評価にもこの仕組みは導入されています.当然,薬にも第三者評価の仕組みがあります.その第三者評価機関が,医薬品医療機器総合機構です.
治験と新薬承認申請
その薬を売って商売しようとする会社は,試験管内での薬の性質,動物実験の結果(こういった資料を,人間に直接投与した結果と区別して非臨床データと言います)ばかりでなく,患者さんに使った実績(臨床データ)も揃えて,我々のところに提出します.この作業を承認申請と言います.承認申請のために提出する資料の量は膨大です.どのくらいの文書量かと言いますと,テレビでやっている検察庁による強制捜査の場面を思い出してください.ダンボール箱をいくつも運び出していますよね.ああいう感じです.
製薬会社が新薬の承認申請をするためには,必ず,人体実験をしなければなりません.人体実験と聞くとびっくりする人がいるので,“治験”と呼んでいます.今の今でも,日本のいたるところの病院で,何百もの治験が行われています.
あなたはネズミや犬にしか試していない薬を飲んでみたいですか?
あなたは,犬や猫が喜んで食べた物ならば安心して食べられるとは思わないでしょう.ましてや動物にしか試していない薬を飲みたいとは思わないでしょう.動物と人間の病気は違いますから,人間に本当に効くかどうか,何も保証はありません.また,動物には安全でも,人間には思わぬ副作用が起きることだってたくさんあります.でも病気を治す薬はほしい.だから,誰かが試さないといけないのです.その誰かも,一人だけではいけません.薬の効き方の個人差を考えなければいけないからです.
みなさん,個性があります.人種,年齢,性別といった,変えようのない個性から,お酒,タバコや食べ物の好みに至るまで,一人一人違います.お酒,タバコや食べ物の好みが一人一人違うように,薬の効き方も,副作用の出方も,細かい点を含めれば,百人いれば,百通りあるのです.だからなるべく多くの人がその薬を試してみて,その効果と副作用の個人差がどのくらいあるのか,調べなくてはなりません.個人差があれば当然人種差もあります.アメリカで使われている薬だから,いますぐ日本で使っても大丈夫なんて保証はどこにもありません.肌や髪の毛の色が違うように,お薬の吸収や消化,排泄の仕方はもちろん,効果の出方や副作用もしばしば違います.さらに,病気の多さが違います.心筋梗塞の頻度がけた違いに少ない日本で,心筋梗塞を防ぐ薬の国民一人あたりの販売量がアメリカと同じだとしたら,日本人は余分な薬を飲んでいることになります.日本人の平均寿命は世界一です.何でもアメリカの真似をすればいいというものではありません.
治験は段階的に進める
病気に対する効果も副作用も定かではない段階で,いきなり患者さんに使うわけにはいきません.ちょうど階段を上るように,いくつかの段階に分けて進んでいきます.人間に使う一番はじめの段階は第一相を呼ばれ,薬を試すのは,通常,健康な若い男性です.副作用に対して一番強いと思われる年齢層の人に試しに飲んでもらって,重い副作用が出ないかどうかを調べます.患者さんに投与する予定の量よりも多めに飲んでもらって,それでも副作用が出ないかどうか調べるのです.治験を面白おかしく扱った映画“サル”の題材になったのは,この第一相試験の段階です.次の第II相になって,初めて,その薬が効くと思われる病気を持った患者さんに飲んでもらいます.この時の薬の量は,第一相で健康な若い男性に飲んでもらった量の上限よりも少ない量ですが,どのくらいの量が一番いいのかまだわかりません.ですから,だいたいこのあたりの量がよさそうだと思われる量をはさんで,それより少ない量と多い量の3段階の量を,たくさんの患者さんに飲んでもらいます.
一番都合のいい量を決める
では,なぜ3段階の量が必要のなのでしょうか?
偽薬(プラセボ)の必要性
いわしの頭も信心から
(まだ未完成です)