DTC (Direct-to-Consumer)による薬の広告

Influence of Patients’ Requests for Direct-to-Consumer Advertised Antidepressants. A Randomized Controlled Trial. JAMA. 2005;293:1995-2002

町の薬局で売っている薬(OTC: over the counter )ばかりではなく,医者が処方しなければ使えない薬についても,消費者向けへ宣伝できるのがDTCです.DTCで一般の消費者がその薬を気に入ってもらえば,患者の方から医者に対して,あの薬が欲しいと要求してもらえるわけです.企業にとってこんな強力な味方はありません.

まだ要約を読んだだけなのですが、試験デザインのアイディアがいいですね。医者の処方に影響を与える患者の行動をどのようにしてランダマイズするのかと思ったら、模擬患者を使うのですね。ちょうど、ミシュランがレストランや宿を評価する時に評価者であることを隠して施設を利用するのと同じように。

DTCでは、医療者と患者の間にある情報の非対称性をより少なくするというベネフィットと、製薬企業が,巨大化したみのもんたとして行動する結果、患者が洗脳されるというリスクが表裏一体となっています。TVや新聞の影響は絶大ですから、しばしば医者は、みものんたには勝てません。

この論文によれば,医者は患者の要求に忠実であるようです。そうなると,医者の処方行動が患者によって左右されれば,ベネフィットばかりでなく,もちろんリスクも生じます.そのリスクは患者自身が負うことになります.

DTCが必要とされていて止めることができないのならば、そのリスクにどう対処していくかが問題となります。

DTCが認められているのは,私が知る限り現在のところ米国だけです。英国規制当局MHRAはDTCと思われるようなGlaxoSmithKlineの喘息薬の広告に対し,次のように警告を発しています.ちなみにSunday Timesは世界的に有名な英国のTimesの日曜版で,英国全体に対して,非常に影響力の大きいメディアです.

● 広告に関する苦情の調査:GlaxoSmithKline UK LimitedによるSeretideのSunday Times紙上の広告について
MHRAはGlaxoSmithKline UK Limitedに対し,2004年10月24日に同社がスポンサーに
なりSunday Times紙の付録に掲載した喘息及びその治療に関する記事に処方箋薬で
あるSeretide(salmeterol/fluticasone propionate)の一般人に対する直接的な販
売促進と思われる記述があることに対して警告し,GlaxoSmithKline UK Limitedが
これを受け入れた。(20058年2月21日付け)

英国同様,DTCが認められていない国では,医師や薬剤師など,医療職業人が広告の対象になるわけですが,医療職業人だからといって,広告の吟味の目が正しく働くとは必ずしも言えません.一般の消費者と同様に宣伝をそのまま受け入れてしまうような人もいます.ですから,DTCに関する問題には,我々も関心を持つべきです.、DTCの評価の報告は貴重です。

DTCの行方は日本でも市販後体制、リスクコミュニケーションを考える上で大いに参考になります。国内でも、宣伝パンフレットや、学会のランチョンセミナーの内容と審査報告書の内容がどれだけ異なっているかの事例検討をまとめれば、立派な論文ができあがると思っています。

なお,MHRAは薬の値引き販売に対しても厳しい態度で臨んでいます.お菓子じゃないんだから,3つ買ったら一つおまけっていう販促はおかしいってのは当たり前なんですが,その当たり前のことをきちんとできる世の中を守りたいものです.

● 広告に関する苦情の調査:Netto Food Stores LtdによるNurofen錠の多数購入の販売促進について
2005年1月にNetto Food StoresにおけるNurofen(ibuprofen)錠の『1個購入で1個
無料』という広告に関して、鎮痛剤含有製品に関連した提示であり,このような提
示はMHRAの勧告(MAIL142 March/April 2004<JAPIC Daily Mail
No.713(2004.4.6)参照>)から逸脱しているとの苦情を受けた。MHRAの懸念を通
知したところ、企業は迅速に広告中止,販売促進の中止および再発防止のための確
実な調査を確約した。(2005年2月21日)

● 広告に関する苦情の調査:Tesco storesによる鎮痛剤の多数購入の販売促進について
2004年11月にTesco storesによるSudafed Dual
Relief(paracetamol/phenylephrine hydrochloride/caffeine)錠および
Nurofen(ibuprofen)錠の『2箱で価格は…』という広告に関して,このような提示
はMHRAの勧告(MAIL142 March/April 2004<JAPIC Daily Mail No.713(2004.4.6)
参照>)から逸脱しているとの苦情を受けた。Tesco storesは政府によるパッケー
ジサイズ制限を無視するような鎮痛剤の販売促進を行わないことを確約し
た。(2005年2月21日)

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