もはや秘密ではない
ー臨床試験データは誰のものか?ー

もう,今を去ることもう5年も前(2008年)の話だ.ある外資系の製薬企業の本社内部を見学する機会があった.臨床開発部門ではみなさんごく普通にデスクで仕事をしている中を案内してもらった.その後のやりとりである.

「あんなにオープンに案内してもらえるとは思いませんでした.だって机の上に資料があけっぴろげだし,モニターも特に隠しているわけじゃないし・・」
「池田さん,何を時代錯誤的なこと言ってるの.今は,臨床試験を全部登録しているでしょ.どんな薬を開発しているかなんて,みんな知っている時代に,机の上の資料を隠しても意味ないでしょ」

一方,極東の島国の規制当局では,今でも外から見学者が来る時は,机の上には資料を広げないことを厳命される.総括報告書を保存してある部屋には鍵がかかっていて,あの鍵をなくしたら始末書を取られることになっている.

そしてその極東の島国では産,官学一体となって,「国際共同治験」を推し進めてきた.その島国はICH三極の一極として,規制の国際調和にも貢献してきた.つまり,欧州医薬品庁の資料がもはや秘密ではないのならば,FDAの資料も極東の島国の規制当局の資料.も,もはや秘密ではない.

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欧州医薬品庁の資料はもはや秘密ではない Biotoday 2012/12/24

臨床試験報告を含むあらゆる情報を要請に応じて提供するという新方針を欧州医薬品庁(EMA)が2010年11月30日に導入してからこれまでの2年間のEMAのデータ提供状況を解析した結果が発表されました。

新方針の下で455の情報提供要請が処理され、そのうちおよそ1/4(27%;124要請)には資料提供されませんでした。新方針の下でEMAは種々の要請に対して様々な資料を提供してきたと著者は言っています。EMAはデータ開示方針を更に推進し、2014年から臨床試験データの能動的開示を始める予定です。

EMA Documents Are ‘Secret No Longer’
http://www.pharmalot.com/2012/12/ema-documents-are-secret-no-longer/

The First 2 Years of the European Medicines Agency's Policy on Access to Documents: Secret No Longer. Arch Intern Med. 2012;():1-2. doi:10.1001/jamainternmed.2013.3838.
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1486542
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もはや秘密ではないということは,かつては秘密だったということだ.それがなぜ秘密ではなくなったのだろうか?臨床試験データが誰かの固有の所有物で,その所有者が公開を拒否していたからだろうか?だとしたら,その拒否の理由は何だったのだろうか?

臨床試験データは誰のものか?あなたはこの素朴な疑問にどう答えるだろうか?その答えの根拠は何だろうか?その答えと上記の記事の整合性はどうだろうか?

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スイス・ロシュ  臨床試験データの積極開示へ、治験総括報告書も (日刊薬業 2013年2月27日 )
 スイス・ロシュは現地時間の26日、承認済みの製品に関する臨床試験データについて、外部研究者への開示を拡大する方針を発表した。臨床試験の詳細が記録されている「治験総括報告書」(CSR)の完全開示などを積極的に行うことで、製薬産業の透明性の向上を図りたい考え。外部研究者への開示対象を拡大することで、「公衆衛生に不安や影響を生じさせることを回避する」などとしている。

 同社では、欧州医薬品庁(EMA)によるCSRなどの開示をサポートするほか、同庁が開示できないCSRに関しても外部研究者の要請に応じて公表する方針。患者の秘密保持や知的財産権を保護するため、各国・各地域の法令に沿った形で開示情報が編集されるという。

 また、承認申請に用いられた臨床試験の「患者レベルのデータ」(匿名化済み)に関しても公表する。外部研究者からの開示要請を独立機関が評価するという。

 同社では、一部研究者グループが求めていた抗インフルエンザウイルス治療薬「タミフル」の臨床試験データに関して、同社がスポンサーで終了済みの試験74本のうち、未発表の残り3本についても「手配が進行中」としている。

 試験データの積極的な開示の動きは欧米製薬大手の間で始まっており、英グラクソ・スミスクラインもロシュと同様の方針をすでに明らかにしている。
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