脳梗塞にDAPTだと?
ーIt's just Daft, not DAPTー

Wong KS, et al. Early Dual Versus Mono Antiplatelet Therapy for Acute Non-Cardioembolic Ischemic Stroke or Transient Ischemic Attack: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis. Circulation 2013; 128: 1656-66.

脳梗塞に対して再発予防のために抗血小板薬を併用しろとデマを飛ばす製薬企業の提灯持ちは何も日本人だけとは限らない.というか,提灯持ちの総元締めは。今回は日本人ではない.

脳梗塞二次予防のための長期の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy: DAPT)は、脳梗塞再発や心血管疾患発症を抑制せず, 出血のリスクが有意に増大するので, 推奨されていない。これはFASTER (Lancet Neurol 2007;6:961),  EARLY (Lancet]Neurol 2010; 9:159) といった試験で、すでにわかっていることだ。そもそも,心臓は臓器中での出血性リスクを考慮する必要がないのに対し,脳の場合には脳自体の中で起こる出血が最大のリスクになるのだから,心臓で通用したのと同じDAPTが脳に通用する方がおかしい.そして心臓の場合でさえ、1年超のDAPTで出血リスクは増すことがわかっている。そんなことはたとえ医師免許を持っていなくても、常識でわかるはずのことなのに、そこをとぼけて脳梗塞にDAPTを推奨するのは、企業に対する利益相反があるからだ。

私の知る限り、脳梗塞再発にDAPTの有効性を示した唯一の試験はCHANCE(N Engl J Med 2013; 369:11-19)だが、これは脳梗塞の二次予防なんてものとは,実はほとんど関係がない.この試験は,
●TIAあるいはNIHSS≦3という軽症例の脳虚血に対し、
●DAPTといっても、(おそらくDAPT群での出血性イベントの増加を回避するためだろうが)3週間だけ,アスピリン75mg単独 vs クロピドグレル併用(loading dose 300mg以後75mg)を比較したものだ.

それも,結果を見ると,その有効性は発症後10日ほどでプラトーに達している.だから,脳梗塞におけるDAPTの位置づけは,せいぜいアスピリンとクロピドグレルを,発症後10日間の急性期の再発・増悪を防ぐのが有効性の限界であり,それ以降に使っても患者を出血を中心としたリスクにさらすだけ 言い換えれば,DAPTは脳梗塞発症から10日までで,それ以降はやるな!ましてや慢性期の二次予防のエビデンスはない!」それがCHANCE試験の正しい解釈である.ちなみに,この試験で心筋梗塞を発症したのは,アスピリン単独群(2586例)で2例,クロピドグレル併用群(2584例)で3例である.少なくともこの試験の参加者の大部分を占める漢民族は、心臓に対するDAPTの御利益には預かりにくいこともわかる。

では,脳梗塞の二次予防にDAPTなるデマをまき散らした張本人は誰か?それは,上記CHANCE試験の著者達である.彼等が,CHANCE試験とは似ても似つかぬ試験の数々を統合解析し,脳梗塞の二次予防にはDAPTが有効であるとのデマをでっち上げた論文を,舌の根も乾かぬうちに辞任を撤回したFIFAの会長並の,厚い面の皮を持った爺さんが編集長をやっているジャーナルに載せた.それが冒頭に示した論文である。製薬企業の宣伝になるようにOpen Accessになっているから、誰でも読めるので,是非ともご覧いただきたい.なあに,メタアナリシスという言葉に臆することはない.イカサマは表1を見ただけで一目瞭然である.

そもそも単剤と併用を比べると言いながら,その単剤や併用に用いている薬の種類も量もばらばら、しかもクロピドグレル75mg(単剤) vs アスピリン25mg bid+ジピリダモール 200mg bid(これが併用)なんて、「単剤 vs 全く別の2剤併用」の比較論文まで入れちゃってる。(中にはアスピリン25mg bidって,前代未聞の処方もある。そんな製剤わざわざ作ったんか?世間の笑い者だぜ)
肝心の介入さえこんなにばらばらだから、組み入れ基準、評価項目、観察期間も全部ばらばら。呆れて物が言えないとはこのことだ.メタアナリシスどころかエセアナリシスで企業の提灯持ちに成り下がったのは,こいつらだけじゃない.下記も同様の、組み入れ患者(ACS, CABG, PCI, TIA, stroke, CHFとゴミ箱同然のてんでんばらばら)もエンドポイントもばらばらのエセアナリシスだ。
Antiplatelet Treatment for Prevention of Cerebrovascular Events in Patients With Vascular Diseases. A Systematic Review and Meta-Analysis. Stroke. 2014;45:492-503.

また、NOAC(新規経口抗凝固薬)についても、同様のペテンが、別のイカサマトップジャーナルに載っているので、そちらもご覧あれ.

バルサルタンの宣伝ビラのごまかしは,エセ医学ジャーナリスト達に言いがかりをつけてもらわなくたって,とっくの昔にわかっていたことだ.裏を返せば,捏造と言いがかりをつけるしか能が無い程度のリテラシーしか持ち合わせなければ,医師免許の有無にかかわらず、この種のイカサマにはころっと騙されてしまうってことだ.

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