CVOTsが示す深遠な問題
今回は一連のCVOTs(血糖降下薬の心血管安全性検証試験 cardiovascular outcome trials)を題材にした、私の共著論文3題のご紹介です。いつもながらの全てのデータは規制当局の公開資料です。
Approvals of type 2 diabetes drugs tested in cardiovascular outcome trials: A tripartite comparison. Br J Clin Pharmacol. 2021 Mar 11. doi: 10.1111/bcp.14814.
2ヶ月ほど前に出ました。EMAは直接関わっていないけれど、効能追加申請は出ている。PMDAにはそもそも治験届けが出ていない→だから効能追加の申請も出ていない。でも米国欧州はもちろん日本でも三極差を全く意識せずに米国・欧州のガイドラインを使ってる。適応外使用の議論もないし支払基金も全く問題にしていない。一体どうなってるの?って、そう素朴な疑問が湧いてくるはずなのに、実際は日本でも誰も不思議がっていない。そこをBJCPに投稿したら、面白がってくれてほんのminor revisionですんなり通りました。COVTs前後の効能の変化を三極で比較すると、実は非常に深遠な問題が浮かび上がってきます。それは代用エンドポイントしての血糖降下の妥当性。もっとわかりやすく言うと「2型糖尿病で血糖を下げることにどんな意味があるのか?果たして意味があるのか?もしかしたら全然ないとか?」 その問いがFDAとEMAの両方に突きつけられて、それぞれ違った答えを出した。でもPMDAは何も考える必要がなかった。そういうお話です。
Imbalance in glycemic control between the treatment and placebo groups in cardiovascular outcome trials in type 2 diabetes. J Pharm Policy Pract. 2019 Nov 18;12:30. doi: 10.1186/s40545-019-0193-y.
こちらが出たのが2019年11月で日付だけ見ると古ぼけた感じですが、新コロのとばっちりで見向きもされなかったおかげで、今紹介しても新鮮に感じていただけると思いますが、中身は日経メディカルオンラインで散々書き散らしたことです。それでも上記の深遠な問題を別の角度から考える材料を提供してくれます。つまり「血糖を下げれば心血管イベントが抑制されるわけではない。同じように血糖を下げても心血管イベントを抑制する薬とそうでない薬がある。”だったら血糖を下げるって一体何なんだよ?そんなもん治療と診断の両方の指標にしてていいのかよ?おかしいじゃないの?”という、これまた素朴な疑問が地球全体で放置されているんですが・・・」 とまあ、誰もが嫌がる(?)素朴な疑問を投げつけている論文です。なお、表題にある「血糖コントロールの群間不均衡」は、「そんな小さな差なんか無視しろ。そんな小さな差を扱った論文も無視しろ。HbA1cよ永遠なれ and/or HbA1cなんかどうでもいい」というambivalentな人々を振り向かせるためのネタ、釣り餌です。
上記の嫌がらせに関係して、「そもそもHbA1cって、どの程度血糖コントロールを反映しているの?結構いい加減だったりして・・」というこれまた素朴な疑問に答えた論文が下記の総説。
Challenges to hemoglobin A1c as a therapeutic target for type 2 diabetes mellitus. J Gen Fam Med. 2019 Apr 4;20(4):129-138. doi: 10.1002/jgf2.244.
ここでもCVOTsを論じていますが、3つの論文、視点が異なっているので二重投稿にはなっていません。それだけCVOTsは様々な論点を提供してくれているのです。
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