多少なりとも臨床をかじったことのある人間ならば,神農,アーユルベーダ,ヒポクラテス.いずれの時代でも,医療はすべからく個別化医療だったことはわかるはずだ.
クリゾチニブが非小細胞性肺癌のたかだが5%にしか適応がないからといって,それがどうしたというのだ.「今までは,効かないどころか,副作用だけが出てしまう人にも,強い抗がん剤を無差別に処方していたのが,そういうリスクが回避できるようになったのです」 なぜ,堂々とそう言えない?今まで使っていた,「誰にでも効く期待の新薬」というスローガンが使えなくなったからだろうか?
多少なりとも臨床をかじったことのある人間ならば,アルテプラーゼがどんな脳梗塞もたちどころに治してしまう魔法の薬ではないことを知っているはずだ.そして,アルテプラーゼが適応となるのは,急性脳梗塞のたかだか5%に過ぎないことは,ちょっと調べればすぐにわかることだ.脳卒中の診療にかかわる医者は,この,「たかだか5%」の現実の中でアルテプラーゼを使いこなしている.これを個別化医療と言わずして何と言おう.