説明の仕方で、介入への意欲がこうも違うかって見本ですな。心臓発作予防の場合の93%, 82%, 69%はまだしも、股関節骨折を予防の場合には74%,56%,34%ですからね。しかも、これは有効性の説明の仕方だけですよ。これに副作用の説明の仕方のバリエーションを加えれば、その差はさらに開く。もう、そうなると試験結果そのものはどうでもよくて、それをどう伝えるかに血道を上げるわけですな。開発・薬事より営業の方が声が大くなるわけです。
リスクを減少させるという治療の便益を様々な言葉で説明する:無作為化比較試験
Different Ways to Describe the Benefits of Risk-Reducing Treatments:
A Randomized Trial. Ann Intern Med 2007;146 :848-856
日本語訳は、ACP日本支部のサイトに掲載されたものを転載しています。
背景: 医師が医療行為のリスクと便益を如何に患者に伝えるかは,患者の医療行為の選択に影響を与えると思われる.リスクを減らす薬物療法の有益性を伝える方法としては,心筋梗塞や股関節骨折などの有害事象を防ぐために必要な治療例数(NNT)がどの程度か,その疾病に罹患していない健康な余命をどの程度長く得ることができるか,または事象の発現をどの程度の期間延期できるかが含まれる.これまでの研究では,リスクを減少させるという介入試験の場合,NNTの大きさは非専門家の意思決定に影響を与えないが,発症の延期は決定に影響を与えることが示唆されている.
目的: 有害事象の延期または同等の治療必要数として有益性を伝える「説明の仕方」に対する非専門家の反応を調べる.
デザイン: 異なった「説明の仕方」へのランダム割付による横断調査
セッティング: 一般地域集団
対象: 地域住民対象の健康調査における回答者
介入: この調査は心臓発作(1754回答)および股関節骨折(1000回答)のリスクを減らす仮定の薬剤治療に関するシナリオ(説明の仕方)を提示する.両方のシナリオのデーターソースは臨床試験である.回答者は治療5年後の転帰に関する「説明の仕方」三つのうち一つに無作為に割り付けられる.心臓発作を防ぐ薬剤治療の転帰は,「全ての患者に2か月の(発症)延期」,「4分の1の患者に8か月の(発症)延期」,または「心臓発作の発症一件を防ぐために必要な治療例数が13例である」である.股関節骨折を予防する薬剤治療の転帰は,「全ての患者に対し16日の(発症)延期」,「100例中3例の患者に対して16か月の(発症)延期」,または「骨折を一件予防するために必要な治療数は57例」である.
測定: 治療を受けることの同意と,治療効果を容易に理解したと感じること.
結果: 調査に対する回答率は81%であった.心臓発作のシナリオでは,NNTついて説明された回答者の93%がその薬物治療に同意し,患者の何割かの長期の(発症)延期を説明された場合82%が治療に同意した.全患者での短期の(発症)延期を説明された場合69%が治療に同意した(χ2=89.6; P < 0.001).治療効果が理解できたと述べた回答者は,より治療に同意する傾向にあった.骨折に関する同じ調査では,各々74%,56%,34%の回答率となった(χ2=91.5,P < 0.001).治療効果を理解していると答えた回答者は,より治療に同意する傾向にあった.
限界: 同意するかどうかは,実際の臨床場面に遭遇して行われたのでなく,仮定上の「説明の仕方」に基づいて行われている.
結論: 有害事象を防ぐために必要な治療例数(NNT)の言葉で表現された治療効果は,同等の(発症)延期で表現された場合よりも高い同意率を得た.この結果は,期待される転帰の説明の仕方が,推奨された治療を患者が受け入れるかどうかの意思決定に影響する可能性を示している.