土橋鑑定はゴミだった
ーそして土橋均は科学者ではなく芸能人だった

「自分の測定しているものが何か?」という問いかけは,科学一般の根本原理である.質量分析の場合には,精密質量を測定して分子式を絞り込むことが,その根本原理に叶うことになる.土橋はそれをやらなかった.というより,できなかった.そもそも科学者としての資格がなかった.だから自分の研究を世界水準に保つことなど到底思いもよらなかった.

エレクトロスプレー・イオン化法を用いてベクロニウムを質量分析したの最初の報告である,Gutteck-Amslerの論文(Clin Chem. 2000 Sep;46(9):1413-4)が世に出たのが2000年9月である.ここにはベクロニウムの標準品(標品=未変化体)を質量分析した時のベースピークはm/z279であると明確に記載してある.もし土橋が2001年1月の鑑定前に,この論文を読んでいたら,m/z258=得体の知れないゴミ!(そのゴミの正体は下記参照)がベースピークであるとする鑑定の致命的な誤りに気づいていたはずだ.つまり,彼は自分の専門分野の論文にさえ目を通していなかった

彼は鑑定だけでなく,2001年3月1日発行の『化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」テキストブック』でも相変わらず,ベクロニウム標準品(標品)を分析すると得体の知れないゴミ!が出ることを前提にして記事を書いている.彼が自分の誤りに気づいたのはそれ以降である.文書として確認できるのは2006年3月25日発行の「薬毒物試験法と注解2006―分析・毒性・対処法ー」(日本薬学会編).ここでは,得体の知れないゴミ!についての記述が消失している.

裁判所は,「たとえ世界標準に反する結果であっても,土橋大先生のような偉いお方のなさった実験なのだから正しいに決まっている」と言って守大助氏を刑務所送りにした.でも,そんなに神様みたいに偉い先生なら,海外の文献にも必ず目を通して世界最先端の研究をやっているはずである.なのに,何よこれ.全然勉強していないじゃないの.2000年に論文が出ているのに,5年も経って自分の間違いにようやく気づいたの?それは科学者じゃねえだろ.

以下,ゴミの正体を知りたい方のために.
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「あなたはベクロニウムの標品・未変化体からm/z258が出ると主張するのですね?」
「・・・はい・・・」
「では,あなたは標品・未変化体からm/z258が出るというデータを持っているのですね?」
「・・・・・」
「科学者なのに主張を裏付けるデータをお持ちではない?」
「・・・持っています・・・」
「ならば,そのデータを開示できないのはなぜですか?主張を支持するデータではないからですか?それとも,実験データがなんか,もともとなくて,あるのはハートマークが書かれた実験ノートだけだとか?」
「・・・・・・・」
「結構です.仮に都合の悪いデータが全て破棄されたとしても,あなたの主張はすでに鑑定を行う前の1998年から学会発表されていますし,著書にもなっているから,その主張だけは本物だと考えるとして,次の質問に移ります.あなたは,標品・未変化体からはm/z258ではなく,m/z279が出るという論文・データが世界中から出されている事実を知っていますか?」
「・・・・・」
「知らないのなら教えてあげましょう.あなた以外の世界中の研究者は標品・未変化体からはm/z258ではなく,m/z279が出ると,実験データを示して論文にしているのです.“標品・未変化体からm/z258が出る”と主張しているのは世界中であなた一人だけです.それでもあなたは“標品・未変化体からm/z258が出る”と主張するのですか?」
「・・・・・はい・・・・」
「つまり,あなたは自分が正しくて,世界中の他の研究者は全て間違っていると言いたいのですか?」
「・・・・いえ,そういうわけではなくて・・・実験室や装置が違えば,時に違う結果が出ることがあってもいいのではないかと・・・・」
「なるほど,土橋均独自の世界,科捜研で行われているのはもはや科学ではなく,伝統芸能である,あなたは科学者ではなく,芸能人であるとの主張ですな」
「・・・・・・」
「ではその芸能の成果である御自慢のm/z258について詳しくお聞かせ願いたい.ベクロニウムの加水分解物からm/z258が出ることをご存じですか?」
「・・・・・」
「ご存じないのなら教えてあげましょう.芸術家ではない,世界中の科学者は,ベクロニウムの加水分解物からm/z258が出ることを,これもまた実験データを示して論文にしています」
「・・・・・」
「“標品・未変化体からm/z258が出る”と主張しているのは世界中であなた一人だけです.それでもあなたは“標品・未変化体からm/z258が出る”と主張するのですか?」
「・・・・・はい・・・・」
「つまり,あなたは自分が正しくて,世界中の他の研究者は全て間違っていると言いたいのですか?」
「・・・・いえ,そういうわけではなくて・・・実験室や装置が違えば,時に違う結果が出ることがあってもいいのではないかと・・・・」
「m/z258では未変化体か変化体か区別がつけられない.それがあなたのやった鑑定です.そんなものは世界中の質量分析研究者の誰一人として認めない.それは質量分析でも科学でも何でもない.ただのゴミです.確定判決は科学ではなくゴミの上に成り立っていたのです」

キーワード 北陵クリニック事件,筋弛緩剤点滴,冤罪,質量分析,科捜研,検察,裁判所,ベクロニウム

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