開発から育薬までの分業

日経オンラインの創薬ベンチャーの記事で、大手の製薬会社からシーズを導入する話が出てきているのですが、これは私のベンチャーイメージを破るものでした.製薬会社はヒトでのPOCが取得できていて、かつある程度儲かる(オーファンとかでは駄目)ものしかライセンスを買ってくれないと言う話をされていて、もう製薬会社は、リスクやもうけの計算できるものにしか手を出さなくなったのかな?と考えていたところです。

これは今でも誰もがそう思っている一般原則で、今更ひっくり返す必要はないと僕も思っている。しかし、原則があるからにはもちろん例外やバリアンスがある。それがご指摘の記事だろう。

製薬会社の仕事は、シーズを見つける→proof of concept→承認申請を前提とした臨床試験→承認申請→製造・販売→市販後の維持管理(育薬) と多段階にわたる。これら多段階を全て自前でできるのは、大手企業だけで、その他の企業は、自社の得手不得手を考え、どこかを外注する。たとえば、後発品メーカーは承認申請以前のプロセスを全て先発メーカーに「外注」していると考えることができる。

どの段階を外注するかと考える際の要因はたくさんある。

○どの段階を自前でやって、どこを外でやってもらうか:この決断の際に考慮する要素としては、自社のノウハウ、人材、インフラの充実度、収益性、外注先としての選択肢の有無
○外へ仕事を出す場合、外注先との関わり方にもいろいろある(その品だけの他社共同販売、提携先、子会社)

そして、当該段階のベネフィットとリスクの判断基準が、企業毎に違う。

上記の段階別では、前のフェーズほどハイリスク・ハイリターンの傾向があって、一発勝負を狙うベンチャーでは、概ね前のフェーズに拘りがちだが、ご紹介の記事のように、製造受託という後のフェーズでも、その薬に特化した技術を持っていれば、ベンチャーといえども商売ができるということだろう。

もう一つ、シーズ、開発の段階でも、”儲かる”という判断基準が、大手企業とベンチャー企業では異なることもあるだろう。大手企業では経常利益への具体的な金額での貢献を意味しているのに対し、ベンチャー企業では宣伝効果、銀行・取引先・株主といった重要なstake holdersの間に醸成される信用、人材確保といった、お金以外での利益を重視することもあるだろう。

その時のモチベーションの最たるものは、「面白さ」だ。大学で何かやるとしたら、そこだよ。企業での仕事のどこが嫌かといえば、何かというと「金」になってしまうからだ。お金なんて、代用エンドポイントの一つに過ぎないのにね。それに対して、面白さは、「幸せな気分」というハードエンドポイントに、より、近い。

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