21世紀の大陸封鎖令

Brexitという名の21世紀版「大陸封鎖令」は,他国の独裁者の強制ではなく,英国市民の過半数が希望したものだ.だから,19世紀版と違い,今度は封鎖破りは起きない.つまり頑健性・継続性が極めて高い.その結果,金融業を始め,かつて「英国病」に対する有効な治療介入となった人材,ノウハウ,スキルが,今度は出て行った限り戻ってこない.つまりBrexitが英国病を再燃させることになる
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先行き不透明な英国、投資躊躇うヘルスケア業界 医薬経済 2018/11/1
 英国の欧州連合(EU)離脱に関する大詰めの協議が続いているものの、詳細は決まっていない。英国経済の先行きに対し不安が広がるなか、すでに英国内で実施されている臨床試験の件数が大幅に減少したことが最新のレポートで明らかになった。英国のEU離脱が19年3月に迫っているにもかかわらず、英国とEUはさまざまな点で合意に至っておらず、双方とも焦りを感じている。

 レポートをまとめたのは英フィッチ・ソリューションズ。EU離脱に関するリスクを分析したところ、英国での臨床試験数の減少を確認したという。17年に英国で実施された臨床試験は597件だったが、これは09年から16年の平均806件と比較すると▲25%落ち込んだ。
 フィッチはレポートのなかで、ヘルスケア関連企業がこのまま何の合意もなしに英国がEUから離脱してしまったケースを予測し、英国への投資を渋っていると結論付けた。医薬品開発関連で何らかの合意を一切しなかった場合は、英国で実施した臨床試験の結果をEUでの新薬申請に用いることができなくなる可能性が高くなる。また逆にEUで実施した治験結果を英国保健省が受け入れないことも予測できる。英国は医薬品開発で常に世界をリード、中心的な役割を演じてきたが、現在の状況を考えると、その地位を維持するのは難しいと言えるだろう。
 英国製薬産業協会(ABPI)も、将来が不透明であるため、製薬企業が「英国への投資を遠ざけている」と懸念を表明している。
 現在、EU加盟国及びノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインで販売されている医薬品の許認可作業や各種規制の運用などは、欧州医薬品庁(EMA)が一手に引き受けている。欧州の主要国家で唯一独自の医薬品の許認可権限を持っているのはスイス(スイスメディック)のみ。このまま医薬品規制に関する合意がなされないと、英国は独自で新薬承認作業をする状態に陥る。

コストや承認スピードに影響が出ることが予想されている
 英国のEU離脱後のリスクを避けるため、同国内での臨床試験の中止に踏み込むケースも出てきた。米サンフランシスコを拠点とするバイオベンチャーのレカルディオは、英国で行ってきた「デュトグリプチン」の開発の中止を明らかにした。同薬は心臓発作後の心組織の治療薬として第U相試験が行われている。だが、レカルディオは「英国で得た治験データをEMAが受け入れるかどうか、まったく不透明だ。現在の英国の状況は困難でリスクが高い」と主張、被験者募集を中断した。
 大手ではアストラゼネカが英国のEU離脱決定後の早い時期から、投資に消極的な姿勢を見せてきた。フランスの新聞のインタビューを受けたレイフ・ヨハンソン会長は「現在のような先行き不透明な英国の状態では、引き続き生産活動への投資を凍結せざるを得ない」と述べた。EUからの離脱、さらにその移行期間にどのような変化がヘルスケア業界に起こるかまったく明確になっておらず、このような時期に英国内で投資を行うのは困難という考えだ。同氏は「EUからの離脱が英経済を孤立させるものではない、といった確証が不可欠だ」とも強調した。
 英国保健省は合意なしのEU離脱に備え、製薬企業に対して、最低6週間分の医薬品備蓄を呼びかけた。アストラゼネカは、緊急時に備えて4000万ユーロをかけて備蓄を増やすと発表している。
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参考:大陸封鎖の歴史からBrexitを考察する視点は私独自のものではない→Victor Hill. Revealed: What history teaches us about Brexit

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