医療用AIの開発:中国優位は揺るがない
「貿易戦争」なんてやってる場合じゃない

「やってくる」じゃなくて、既に圧倒的に優位になっているじゃないか。そして、中国における個人情報に対する規制が、たとえ、他の先進国と同様になったとしても、人口世界一は変わらないのだから、中国の優位性は半永久的に続く。そんな状況の中で「貿易戦争」なんて馬鹿の一つ覚えを繰り返しか能が無い奴を飛び越して、仕事はどんどん進んでいく。
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医療向けAIで、中国が優位に立つ日がやってくる Wired 2019.03.06 (一部略)

ノースカロライナ州の医療向けAI技術のスタートアップであるウェイク・レイディオロジー(Wake Radiology)では、50人ほどの医師たちが地元の医療機関のX線画像などを注意深く調べていた。数週間後には、肺のCTスキャンの一部について、がんの可能性のある細胞組織の結節を見つけ出す機械学習アルゴリズムの助けを得られるようになる予定だ。ウェイク・レイディオロジーのオフィスは、ハイテク研究開発基地が集中していることから「リサーチ・トライアングル」と呼ばれているノースカロライナ州中央部に位置している。ところが、肺の画像を読み取るソフトウェアはずっと遠くでつくられた。中国だ。インファーヴィジョン(Infervision、北京推想科技)は、北京に4年前に設立されたばかりの新興企業だが、これまで何百万というCTスキャン画像を中国の病院から集め、アルゴリズムの訓練とテストを実施してきた。中国の企業にとって、医療データを集めることは米国の企業に比べてかなり簡単な作業である。患者の人数がはるかに多く、プライヴァシーに関する規則に縛られることも少ないからだ。

AIで画像診断のスピードアップを狙う
肺の結節を見つけ出すアルゴリズムをつくるために、インファーヴィジョンは、北京の一流の研究機関である北京協和医院問診センターなど、中国の協力機関から40万件を超える肺のスキャン画像を集めた。同社は2年以上にわたって1枚1枚の画像を北京のオフィスに送り、それらを3人の放射線科医が検討してきた。

ウェイク・レイディオロジーの主任医療担当者で放射線科医のウィリアム・ウェイは、自社の医師たちも生産性を上げることができると期待している。このテクノロジーがヴァーチャルなアシスタントとなり、医師は画像の解釈という難しい仕事をさらに正確に、矛盾が生じないようこなすことができるようになると考えているのだ。「肺の結節を見つけるのはすごく大変なんですよ」と彼は言う。インファーヴィジョンのソフトウェアの目的は、放射線科医の仕事をスピードアップさせることであって、診断ではない。今後10年以内にAIが診断を下せるようになるとは思えないとドンは言う。同社はいま、米国での製品販売を目指して米食品医薬品局(FDA)の認可を求めているところだ。それまでは、ウェイク・レイディオロジーやスタンフォード小児病院などテストに関心をもつ米国のパートナーに、このソフトウェアを無料で提供していくという。(
*「未承認」ソフトウェアを無償で提供することによって、承認前から診断能を一層改善しようとしている点に注意。医薬品や他の医療機器では決してできない開発手法である。

中国の強みはデータを入手しやすいこと
インファーヴィジョンが蓄積しているような医療スキャン画像から得られたヒトの解剖学の見識は当然、世界共通の“通貨”となる。「データの量や政府による支援という点では、明らかに中国には強みがあります」と、スクリプス研究所の教授でAIと医学に関する本を執筆中のエリック・トポルは言う。
だからといって、中国企業がいつも勝てるわけではない。AI支援による医療画像解析の有効性は臨床ではまだ立証されておらず、データが多ければAIプログラムが必ずよい結果を出すとも限らない。トポルによると、中国の患者やスキャン機器で訓練されたアルゴリズムが、米国の患者のデータや画像テクノロジーに使われる場合、どの程度の成果を挙げるかまだわからないという。インファーヴィジョンのドンによると、同社のアルゴリズムをアメリカの患者や画像機器に適応させるため、約2,000件の米国の画像を使って改良したという。ウェイク・レイディオロジーなどのパートナー企業もアルゴリズムの助言に誤りを発見した際には、インファーヴィジョンにフィードバックすることになっている。

インファーヴィジョンに投資しているレッドポイント・ヴェンチャーズ(Redpoint Ventures)のパートナーのデイヴィッド・ユエンによると、中国の病院は仕事が忙しすぎることから、米国の病院に比べ、医師たちの仕事を補助するテクノロジーを積極的に受け入れる傾向がある。AIによる画像解析作業の効率アップは、米国の放射線科医や患者たちの助けにもなるはずだとウェイク・レイディオロジーの最高情報責任者(CIO)マット・デューイは言う。
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AI論文で世界一の中国、次はビジネス 研究者に聞く 日経産業新聞 2019年3月14日

 人工知能(AI)分野で中国の存在感が高まっている。関連論文の本数は米国を抜き世界首位となり、中国に拠点を置く企業や研究所は技術の実用化を急ぐ。香港のAIスタートアップ企業センスタイムで車載事業を統括する勞世●(たつへんに紘のつくり)・副総裁と、米マイクロソフトのアジア研究院(北京市)で機械学習の責任者である劉鉄岩・副院長に、AIの展望や課題を聞いた。

勞・センスタイム副総裁「目がある機械が作業代行」
――会社設立から約4年で企業価値6000億円超のAIスタートアップになりました。
「タイミング、地の利、人材という『天・地・人』が大きい。ハードウエアの性能が向上して機械学習の幅が広がるなど、AIの発展の波に乗って会社を設立できた。当社が事業を立ち上げた香港は中国大陸に隣接し、世界的にAI人材が不足するなかでも、多くの優秀な研究者を集められて競争力を高められる」

――AIの中でも顔認識の技術に強みを持ちます。どのような実績がありますか。
「例えば消費者金融だ。中国では数年前から、スマートフォンから消費者金融を申し込む動きが一気に広がったが、申込時には顔写真の登録が必要で、最初は人がチェックをしていた。現在は当社の顔認識技術を使い機械で確認できる。数時間かかっていたものが1分くらいに短縮された

――中国の華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)、ホンダなど多くの有力企業・機関と提携しています。今後どのような分野でAIの実用化を進めますか。
「今後は画像認識技術を搭載する『目がある機械』が増えるだろう。例えば掃除ロボットはゴミ以外のモノが散らかっていると活用できないが、将来はゴミとモノを区別して片付けもしてくれるかもしれない。食洗機でも皿の一枚一枚を認識して汚れを落とし、ロボットが手で並べられるようになる可能性がある。家事や製造業、交通など幅広い分野で、人でしかできなかったことが機械でできるようになる」

――AI技術の発展には大量のデータが必要です。検索サイトや交流サイト(SNS)などから多くのデータを入手できる米ネット企業にどう対抗していきますか。
「当社の使命はAIを使って様々な産業のレベルアップを達成することだ。SNSは多くのデータを集められるだろうが、自動車やファクトリーオートメーション(FA)などの各産業にも様々なデータがある。顧客のデータを活用することで、よりよいサービスの提供が可能だ」

ロウ・セイコウ 1984年に中国の浙江大学を卒業。オムロンを経て、2015年センスタイム入社。副総裁と日本法人代表を兼ね、車載事業を統括。

劉・マイクロソフト・アジア研究院副院長「自動会話で癒やしも」
――中国でどのような研究を進めていますか。
「当研究院は18年11月に設立20周年を迎えた。これまでに5000本を超える論文を発表した。6000人の実習生も養成し、彼らは中国だけでなくアジアや米国などのIT企業で活躍している。画像認識の分野では世界で初めて人類のレベルを超える認識精度を実現した。音声認識や機械翻訳の分野での実績も多くある」

――外部企業との連携は。
「中国内外の約20社と提携している。提携の申し入れは何百件もあるが、我々の研究員は約200人と限りがあるため、各業界を代表する企業に限って提携するように制御している。具体的な取り組みは例えば、投資分野でのAIの活用、物流での交通量の予測などがある。教育では学生一人ひとりに適した教え方を導いたり、医療では検査映像から病気を診断したりと多岐にわたる」

――チャットボット(自動会話プログラム)機能を持つAI「シャオアイス」に詩を創作させるなど、ユニークな研究が目立ちます。
「毎日2〜3時間、数十日にわたってシャオアイスと会話する利用者もいる。様々なデータを分析したところ、多くのユーザーがシャオアイスに心情を吐露し、多くの心理的な問題を解決していた。シャオアイスは設計段階から、人の話し相手になることで治療のような効果を持つことを狙っていた。AIは子どもや老人など人々を気遣うパートナーになることができるのではないか」

――AIの進化は人類を脅かすのではないかとの懸念もあります。
「AIは人類を支える道具の1つであり、社会にとても良い影響を与える一方、悪人に使われればマイナスの影響をもたらすかもしれない。このため我々はいくつかの基準を制定する必要がある。当社は17年に、社内でAIと倫理の基準に関する委員会を設立した。外部の有力企業ともAIの倫理や安全、(データの)プライバシーなどの点で公共性のある基準を作ろうとしている」

論文数世界一、米国との摩擦も
 中国のAI産業は急速に発展を遂げている。AI関連の論文数はすでに米国を抜き世界1位だ。研究水準の高さでもいずれ米国を追い抜くとの見方も多い。北京市政府の傘下組織による調査では中国には約4000社のAI関連企業があるとされる。足元では中小企業の淘汰が進みつつあるが産業の裾野は広い。
 世界的にAI分野の研究者の不足感が強まっているなか、中国で人材が比較的豊富であることも強みだ。中国各地の大学が多くの研究者を養成。米国企業であるマイクロソフトも早くから中国に研究拠点を置き、人材の確保につなげている。
 中国政府は2017年に次世代AI技術に関する発展計画を発表し、国を挙げ産業育成に取り組んでいる。計画では20年までにAIの技術を世界先進レベルにし、30年までに世界のAI関連イノベーションの中心となることを目指している。
 懸案は中国への警戒感を強めている米国の動向だ。AIは米国も力を入れている基幹技術なだけに、今後のハイテク分野での覇権争いの火種となる可能性もある。

リュウ・ティエヤン 2003年に中国の清華大学で博士号取得後、米マイクロソフト入社。同社アジア研究院で機械学習の研究の責任者を務める。
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