このページでは,比較的新しく,日常臨床で気をつけておきたいと感じた副作用を,例によって順不同で,あくまで個人的なメモとして書き留めたもので す.系統的に整理されたものではありませんので,あしからず.系統的な情報は,→国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部
高齢者への抗精神病薬の使用は肺炎のリスクを増す
餃子どころじゃないヘパリン問題
ゾレドロン酸と心房細動のリスク
ドネペジルによるQT延長
ロシグリタゾンの心血管死リスクに異議ありと
フォンダパリヌクスによるヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)
ロシグリタゾンと心血管死:RECORD研究中間解析
ロシグリタゾンの心血管死のリスク:FDAとEMEAの態度の差
MP3プレーヤーとペースメーカー
冠動脈ステントの大半は不要?
降圧薬による新規糖尿病発症
妊娠時の処方薬ブックレット(日本語訳)
ロシグリタゾンと骨折リスク
局所麻酔外用剤吸収促進による中毒
プロトンポンプ阻害薬と股関節部骨折のリスク
抗てんかん剤に関連した骨折リスクの上昇
患者による規制当局への医薬品副作用直接報告システムへの評価
COX-2阻害薬は口腔外科領域の鎮痛には不適?
聴牌(テンパイ)配合剤
Avastinによる可逆性後白質脳症症候群(RPLS)
TGN1412:第I相試験のリスク
SSRI/SNRIとトリプタンの併用によるセロトニン症候群
アルギニンによる心臓死リスクの増加
薬剤性膵炎の総説
Cabergolineでも重篤な拘束型僧帽弁逆流
ARBにも,ACEIと同様の口唇浮腫,アナフィラキシー
ロフェコキシブ続報
スタチン系薬剤と記憶喪失
PDE阻害薬による非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)
非定型抗精神病薬と高齢痴呆患者の死亡率上昇
ACE阻害薬による血管浮腫
梅毒に効かないペニシリン
Evidence-induced副作用:RALES試験の落とし穴
何をいまさらロフェコキシブ
オランザピンと急性躁病:屋上屋の一つに過ぎない
ワーファリンとクランベリージュース
Anakinra:楽観的にはなれない
インフリキシマブによる血液障害および血管炎
ルボックスとテルネリンの併用による高度の血圧低下
副作用による入院:英国でも推定年間コスト940億円
Pergolide による心臓弁膜症
小児期うつ病には多くの抗うつ薬が無効ないし有害:非公開データを含めた検討
横紋筋融解のリスク低減のためのスタチン系薬剤処方のTIPS
Stevens-Johnsonの原因遺伝子
SSRIによる出血のリスク
非定型向精神薬が高齢者の脳卒中リスクに
知っていました?ACE 阻害剤,利尿剤とNSAIDの三段攻撃
新たにわかった悪い飲み合わせ
SSRIによる低ナトリウム血症
小児とSSRI続報
ビグアナイド剤による巨赤芽球性貧血
COX2阻害薬投与後の急性一過性視力障害
小児・思春期のうつ病に対するSSRIをどうするか
学校で広がる薬物依存
ドパミンアゴニストが肺線維症のリスクに?
チアゾリジン系薬剤が心疾患のリスクに
リスペリドン,オランザピンによる脳血管障害
Itraconazoleによるうっ血性心不全
薬剤性肝障害の総説
COX-2阻害剤の大いなる幻影
雑記帳(単なる個人用ゴミ箱)
抗精神病薬を内服している高齢者は非内服者と比較して,肺炎発症のリスクが高いことがnested
case-control analysisにより示唆された.
Antipsychotic Drug Use and Risk of Pneumonia in Elderly People. Journal
of the American Geriatrics Society 2007;56 (4) , 661-666
NEJM
Trying
Times at the FDA ? The Challenge of Ensuring the Safety of Imported Pharmaceuticals
中国で意図的に不純物混入 薬剤汚染で米社CEO
【ワシントン29日共同】中国製原料を使った血液抗凝固剤問題をめぐる米下院エネルギー・商業委員会小委員会公聴会が29日開かれ、米医薬品大手バクスターのパーキンソン最高経営責任者(CEO)は書面証言で、自社製品が「意図的な混入計画の標的にされたようだ」と述べ、中国国内で不純物が混入したと強調した。
人工透析などの際に同社の血液抗凝固剤を使った患者がアレルギー症状などを起こし死亡するケースが相次いだ。中国側は米国内で不純物が混入した可能性もあると主張しているが、パーキンソン氏は全面的に反論した。
米食品医薬品局(FDA)は3月、同剤の主成分のヘパリンに似た化合物が中国製原料から検出されたと発表、これが副作用の原因と疑われている。問題の化合物はヘパリンと比べ製造コストが安いため、利益を増やすために混入されたとの見方もあるが、同氏はこの点には触れなかった。
(記事提供:共同通信社2008/05/01(木)
ヘパリン剤、米で死者62人…副作用原因か 昨年から2月まで
【ワシントン=増満浩志】米食品医薬品局(FDA)は8日、人工透析などの際に血液凝固を防ぐため使われる「ヘパリンナトリウム製剤」の副作用によるとみられる死者が、昨年から2月までに62人に上ったと発表した。
2月に約20人の死亡を発表したが、その後に報告が相次いだ。FDAは、ヘパリンに似た化合物の混入が原因とみており、ヘパリン製剤を塗布した医療機器などについても混入の有無を調べるよう、業界に指導する。
発表によると、副作用とみられるアレルギー症状による死者は、2006年は3人、07年は10月まで計13人だったが、11月から急増した。副作用の多発は当初、米バクスター社の製品で発覚したが、今回の62人には他社の製品による分も含まれている。日本国内の3社も、バクスター社と同じ中国の工場で作った原材料を使っていたため、製剤を自主回収している。ただ、現時点で混入物と副作用の因果関係は解明されていない。
(記事提供:読売新聞 2008/04/10(木)
透析用のヘパリン製剤、厚労省が自主回収 中国産原料 米で死亡例 2008/03/12(水)
人工透析などの際に血液が固まるのを防ぐために使われる「ヘパリンナトリウム製剤」について、厚生労働省は10日、国内の製薬3社が17製品を自主回収すると発表した。
米国のバクスター社が製造販売した同製剤で死者21人を含む副作用被害が相次いで確認されたことを受けた措置。3社が製造販売する製剤は、バクスター社と同様に中国産の原材料を使い、米国SPL社が加工した原薬を輸入して製造されていた。
厚労省によると、自主回収されるのは扶桑薬品工業(大阪市)、テルモ(東京都渋谷区)、大塚製薬工場(徳島県鳴門市)の3社の製剤。いずれもSPL社製の原薬を使い、自社で注射液、透析用などの製剤に加工、3社で月間約400万本を医療機関向けに出荷している。
国内の透析患者約27万人の7?8割はヘパリンナトリウム製剤を使用。扶桑薬品工業と大塚製薬工場の製品だけで半分を占めているため、自主回収による治療への影響が懸念される。
米国では昨年12月15日以降、バクスター社製の製剤で448人のアレルギー反応などの副作用報告があり、うち21人が死亡した。同社製は中国産の豚の腸を原材料にし、SPL社と中国にある同社の関連会社が加工した原薬から作られていた。米食品医薬品局(FDA)の調査で、バクスター社の製剤に使われた原薬には異物の混入が確認されているが、副作用との因果関係は不明で、原因は特定されていない。
国内3社は今月8日に自主回収を始めており、今のところ、3社の製剤から異物は検出されていない。
厚労省は「国内では同製剤による被害の報告や異物が検出された例はなく、自主回収は予防的措置」としており、医療機関に対し、他社製品で代替できない場合は、患者に了解を得たうえで使用を認めている。
コメント:このNEJMの研究というのは、2007年の5月3日号の次の論文です。
閉経後骨粗鬆症の治療における年 1 回のゾレドロン酸投与
D.M. Black and others. Once-Yearly Zoledronic Acid for Treatment of
Postmenopausal Osteoporosis. N Engl J Med 2007; 356 : 1809 - 22
この論文で(有効性主要評価項目とは別に)、ゾレドロン酸群では,プラセボ群に比
べて、重度の心房細動が発現する頻度がより高かった(50 例 対 20 例,P<0.001)
という知見がたまたま得られたのです。それに対して、FDAは、次のような理由で問題ないと言っています。
○市販後自発報告では異常シグナルは見いだせない
○臨床試験データのreviewでは、心房細動が出現したのはほとんどのケースで(年1
回の)注射後、1ヶ月たってからであること。一部の患者で、注射後11日間心電図
もモニタリングしたが、それらの亜群ではプラセボと実薬の間に心房細動の発生率に
差はなかった
この主張は、因果関係がある有害事象は注射後間もなく出現するはずだという前提が
ないと成り立たないはずですが、そんな前提はどこにもありません。何しろ、注射し
た直後ではなく、1年間にわたってじわじわ効いているお薬なんですから、副作用だ
けが1ヶ月以内に出てくるなんて虫のいい話は、今時、企業でもしません。そんな前
提が勝手に設定できるのなら、タバコ会社が自社製品に対してどんどん設定している
はずです。タバコ会社は自由奔放なFDAが羨ましいでしょうね。
ドネペジルの心臓への影響は,迷走神経系の活動に伴う徐脈,ブロックが注意喚起の対象となっているが,この報告はドネペジルを服用している76才女性に現れたQT延長とTorsade
de pointesである.エスシタロプラムとプロプラノロールを併用していた.これら三剤をすべて中止し,うつ症状に対してはmirtazapineで対処した結果,QTは正常化した.
ロシグリタゾンの心血管死リスクについてのNissenらのNEJMのメタアナリシスに対し、Annals of Intern Medに批判的な記事が載っている。
メタアナリシスをより適切な方法でやり直してみると、ロシグリタゾンの心血管死リスクについては、確定的なことは何も言えないとしている。Annals of Intern Medは、ランセットなんぞと違って、企業の影響を受けにくい媒体だ。そこから出てきた批判だから、内容はまともだろう。
とはいえ、私は、ロシグリタゾンの心血管死リスクを議論するのは、始めから時間の無駄だという立場を取っている。というのは、もともと心臓が悪い人には使うような薬ではないからだ。そんな基本もわきまえずにやたらめったら使うから、こういう無駄な議論をしなくてはならない。本当に馬鹿げている。どこぞの国のタミフルの乱用を笑えないわけだ。
だから、FDAがロシグリタゾンにどういちゃもんをつけようと、私には関係ないと思っている。位置づけのあいまいな薬は、使わなければいいだけだ。そんな程度の薬に対して、現場がお上の判断を仰ぐパターナリズム依存図式は、何も日本に限ったことではないようだ。
題名では,HITと書いてありますが,ヘパリンを投与されていない患者で,フォンダパリヌクス投与によってHIT抗体陽性血小板減少が起こったという意味です.フォンダパリヌクス,あるいはエノキサパリンでは,HITが起こらないと信じている向きが多いようですが,これはmisleadingです.
○そりゃあ,ヘパリンを投与していないのだから,HITは起こらないでしょうよ→(ただしこのNEJMの論文ではフォンダパリヌクスでHITが起こったと書いてありますが)
○問題は,フォンダパリヌクスあるいは低分子ヘパリンで,血小板減少がどの程度の頻度で起こるのか?→ヘパリンほど頻繁には起こらないようですが、皆無ではない。
フォンダパリヌクスでも,HIT抗体は産生されるようです.ただ免疫複合体が形成されにくいので,HIT抗体ができても,血小板減少は起こりにくいというようなことが書いてあります.
下記、ランセットのEditorialの中で言及されていたように、ロシグリタゾンの心血管系イベントへの影響を検討するRECORD (Rosiglitazone Evaluated for Cardiac Outcomes and Regulation of Glycaemia in Diabetes)試験の結果が各方面から注目されているので、予定外の中間解析を行った結果が、NEJMでオンラインに掲載された。
○RECORDは、II型糖尿病患者を対象に、メトホルミンあるいはスルフォニルウレアのいずれかにロシグリタゾンを併用した群と、メトホルミン&スルフォニルウレア併用群との非劣性を検証するデザインになっている。
○プライマリエンドポイントは心血管疾患(心臓・脳・末梢血管疾患の複合エンドポイント)のによる入院・死亡。
○今回の中間解析では、平均観察期間3.75年の時点での本中間解析の結果、プライマリエンドポイントはロシグリタゾン群で217/2220、対照群で202/2227で、ハザード比1.08(95%CI .0.89-1.31 P=0.43)と両群間で有意差はなかった。
○心筋梗塞は、ロシグリタゾン群で49/2220、対照群で40/2227、ハザード比1.23(95%CI 0.81-1.86 P=0.34)で、これも有意差はない
○一方、心不全は、ロシグリタゾン群で47/2220、対照群で22/2227、ハザード比2.15(95%CI 1.30-3.57 P=0.003)。
中間解析とはいえ、心不全が明らかに増えているのに、プライマリエンドポイントである心血管疾患による入院・死亡で差がないからincoclusiveだと結論している点は滑稽ですらある。ロシグリタゾン群で心不全が2倍になっているのに、心筋梗塞が増えていないからいいというのか??心不全のリスクと心筋梗塞のリスクが独立していることも示されていない.
”心不全も、心筋梗塞も、同じ心臓の重い病気だ”という頑健な事実を乗り越えるだけの価値がこのRECORD試験にあるとの信念(あるいはグリタゾン真理教信仰)が、異教徒の私には理解できない。そもそも、この論文を書いたInvestigator自身が、19例の心血管死亡については、心不全によるものか心筋梗塞によるものかわからないと言っています。そりゃそうでしょう。
非劣性試験という点がミソ(あるいは謎)だ。複合エンドポイントの各要素心疾患、脳卒中、末梢血管疾患の3群の中でも、心疾患では、実薬群で、心筋梗塞は減少しないわ、心不全は増えるわでは勝ち目はない。すると、脳卒中と末梢血管疾患でよほどのことがない限り勝てない。もし複合エンドポイントで勝てたとしても、試験でも市販後でも欧米で主戦場となる心疾患で勝てなければ、実質的には負けだ。それを見越して非劣性にしたのだろうが、この非劣性試験の結果で一体何を主張するつもりなのか、これも異教徒の私にはわからない。
なお、類薬のピオグリタゾンについては、別記、及び下記の文献を参照されたい。
Pioglitazone did not reduce a composite endpoint of macrovascular complications
and increased risk for heart failure in type 2 diabetes with macrovascular
disease. ACP Jounral Club 2006;144:34
Richter B, Bandeira-Echtler E, Bergerhoff K, Clar C, Ebrahim SH. Pioglitazone for type 2 diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(4):CD006060. [PubMed ID: 17054272]
Review: Pioglitazone does not reduce risk for mortality or cardiovascular
events in type 2 diabetes. ACP Journal Club. 2007 Mar-Apr;146:40.
米国での騒ぎに対して、EMEAは下記のようにかなり冷ややかな態度をとっている。だから心臓には悪いって言っているじゃないか。NEJMで検討した試験は、こちらで既に検討済みのものばかりで、目新しいことなどない と突き放している。SSRIによる自殺のリスクの時に、こちらからあんなに警告を発したのに、そっちは中々腰を上げなかったじゃないか。なのに、COX-2阻害薬の時は大騒ぎして。今度もまたか。だって、自分達が承認したものだろうに。ばたばたしないで、もっと腰を据えてやれよ ってことなんだろう。
Cabergoline[‘Cabaser’]と心弁膜症との関連の時もそうだったが、COX2阻害薬の件以来、既承認薬剤の安全性に関して、FDAがすぐばたばたするのに比べて、EMEAは鷹揚に構える対比が目立っている。FDAの態度は訴訟社会を反映しているのだろうか?
■ Press Release - EMEA statement on recent publication on cardiac safety
of rosiglitazone (Avandia, Avandamet, Avaglim)
●
EMEA statement:rosiglitazone(Avandia,Avandamet,Avaglim)の心臓への安全性に関する最近の報告について
Rosiglitazoneによる治療を受けていたII型糖尿病患者における心筋梗塞および心血管死のわずかなリスク上昇に関する懸念がNew
Engl. J. Med.で報告されたことについて,EMEAが声明を発表。
42の臨床試験からのデータ分析に基づいた本報告は,rosiglitazone治療患者約15500例において心筋梗塞および心血管死のリスクがわずかに上昇することが示されたが,全死因死亡の上昇は有意ではなかった。2000年にEUにおける最初の承認時,心臓障害の既往患者には禁忌としており,その後もEMEA・CHMPはrosiglitazoneの心血管作用について綿密なサーベイランスをしたこと,本報告に含まれる主要試験はCHMPが行った評価に含まれていること,EUにおける製品情報は2006年9月に心虚血性イベントリスクに関して更新されたこと,患者はrosiglitazoneによる治療を停止せず,次回定期診療時に医師と相談することなど記載。(EMEA/230057/2007,2007年5月23日付け)
2007/6/2号のランセットのEditorialも、ロシグリタゾンの心血管リスクについて、より醒めた見方をしている。NEJMへのライバル意識ということでもないと思うが、大西洋の対岸の騒ぎに対しては、いつも距離を置きたがる英国人の国民性(だからブレアはブッシュの飼い犬:プードルと揶揄される)は背景にあるだろう。
Editorial
Rosiglitazone: seeking a balanced perspective. The Lancet 2007; 369:1834
(下記は抜粋)
But the FDA, physicians, and patients can reasonably await the results
of RECORD, a phase III trial designed specifically to study cardiovascular
outcomes. Until the results of RECORD are in, it would be premature to
overinterpret a meta-analysis that the authors and NEJM editorialists all
acknowledge contains important weaknesses.
To avoid unnecessary panic among patients, a calmer and more considered approach to the safety of rosiglitazone is needed. Alarmist headlines and confident declarations help nobody.
余談だが、ランセットのエディトリアルでは、以前から、しばしばbutが文頭に来ることが気に入らない。howeverと同様に、butも文頭に用いるべきではない.howeverやbutと文頭に持ってくるのは、”見れる”と同様、非常にみっともない表現だ。上記の文は、The FDA, physicians, and patients, however, can reasonably・・・とすべし.どうしても文頭に持ってきたいのならば、neverthelessだが、大げさな感じのする単語なので、科学論文で乱発すべきではない。
上記のような問題に興味のある方は、William Strunk Jr. and EB White. The
elements of style. MacMillan, New Yorkをお勧めします。非常に薄っぺらい本ですが、まともな英文を書く人が例外なく推奨する本です。
Heart Rhythm Society年次会合(2007年5月12日の週末開催)で発表されたこの研究を受けて,MHRAは,ペースメーカまたは除細動器の植込みをした患者に対し,シャツのポケットなど植込みの上に直接的にパーソナル音楽プレーヤーを置かなければ,リスクはごくわずかであり,このようなプレーヤーを使用可能であることをアドバイスした。
MHRAは英国における報告は認識していないこと,パーソナル音楽プレーヤーが植込み式ペースメーカおよび除細動器の動作に永続的な影響を及ぼす可能性についてのエビデンスはないことなどが記載されている。(2007年5月17日付け)
結局、ハードエンドポイントの十分な検討がないまま一大産業に発展してしまうと、こういうしっぺ返しがくるんでしょうな。
結論:
ネットワークメタアナリシスによって、利尿薬,beta 遮断薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBの新規糖尿病発症のリスクを相対的に評価した。利尿薬を標準対照としたオッズ比[95%CI]は,beta
遮断薬0.90〔[0.75-1.09],p=0.30〕,プラセボ0.77〔[0.63-0.94],p=0.009〕,Ca
拮抗薬0.75〔[0.62-0.90],p=0.002〕,ACE阻害薬0.67〔[0.56-0.80],p<0.0001〕,ARB
0.57〔95%CI[0.46-0.72],p<0.001〕であった。以上の結果から,降圧薬と糖尿病発症の関連は,ARB
およびACE 阻害薬が最も低く,次いでCa 拮抗薬,beta 遮断薬,利尿薬の順に高いことが示された。
ただし:
今回のネットワークメタアナリシスの結果を日常の臨床にどのように適用すべきであるかは,まだ明らかではない。米国の高血圧治療ガイドラインJNC-7Eでは,合併症を伴わない軽度の高血圧患者(第1期)の大半に対しては利尿薬の使用を推奨している。一方,NICE(National
Institute forHealth and Clinical Excellence,英国立医療技術評価機構)のガイドラインでは,利尿薬やbeta遮断薬を第3または第4選択薬として使用するように推奨している。
(何も糖尿病のことだけ心配して降圧剤を選択するわけじゃありませんしね)
また、ピオグリタゾンについても同様のリスクがある。
Pioglitazone の臨床試験データベースを用いて複数の臨床試験のデータをプールして解析を行った。
Pioglitazone 群8,100 例以上,対照薬(プラセボまたは実薬)群7,400 例以上を解析対象とし,pioglitazone
の最
長投与期間は3.5 年であった。女性患者100 人・年あたりの骨折は,pioglitazone
群で1.9 件,対照群で1.1 件と
算出された。Pioglitazone 投与群の女性患者の骨折の大半は,遠位上肢(前腕,手および手首)または遠位下
肢(足,足首,腓骨および脛骨)であった。
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly5/06070322.pdf
http://www.fda.gov/medwatch/safety/2007/safety07.htm#actos
Yellow Card Scheme への患者報告についての評価
Evaluation
of patient reporting to the Yellow Card Scheme
2005 年1 月17 日に開始された新たな副作用報告システムYellow Card Scheme
を通じて,患者
は医薬品に関連した副作用の疑いをMHRA に直接報告することができるようになった。長年にわ
たり,このシステムへの報告は医療専門家からの報告に限られていたが,患者本人とその介護者も
対象となった。
今回,NHS Research and Development Methodology Programme*はMHRA と共同で,Yellow
Card Scheme における患者報告についての評価に対する研究計画を募集することになった。本調
査プロジェクトは?200,000 を上限とする予算を組み,2007 年9 月1 日から2
年間の計画である。
◇参考情報
*:Methodology Programme とは,National Co-ordinating Centre for the
Methodology Programme
が管理し,英国厚生省(Department of Health )が出資する調査プログラムである。申請期限は
2006 年6 月16 日。詳細はNational Co-ordinating Centre for the Methodology
Programme
(http://pcpoh.bham.ac.uk/publichealth/nccrm/invitations.htm )。
◆英国における患者からの副作用報告に関する経緯
患者が2003 年からtelephone helpline NHS Direct へ副作用を直接電話で報告する試みが行わ
れてきたが,South East London に限られていた。報告数は少なく,患者がMHRA
に直接報告でき
ないという批判もあり,この試験計画は失敗とみなされた1)。患者のYellow
Card Scheme へのアク
セスについての検討を受けて,2005 年1 月に,患者が直接MHRA へ副作用を報告する試験計画
が開始された。患者はYellow Card (全国4,000 ヶ所の開業医で入手可能)に記入するか,
http://www.yellowcard.gov.uk にオンラインで報告するかを選択でき2),2005
年10 月に試験計画
が国家的に開始された。実施初年度は患者からは約700 件の報告で,医療従事者からの20,000
件を超える報告に比べ件数は少なかったものの,全般に質の高い報告であったとしている
(MHRA)。
参考文献
1) Metters, J. 2004. Report of an independent review of access to
the Yellow Card scheme.London:
The Stationery Office.
2) RCGP. 2005. Patient reporting of adverse drug reactions. Seven
Days, 17-23 January.
参考URL
http://www.mhra.gov.uk/home/idcplg?IdcService=GET_FILE&dDocName=CON2023599&RevisionSelectionMethod=LatestReleased
COX-2 阻害薬:血管柄付き遊離皮弁(free vascular flaps )による口腔癌切除後の再建術の早期失敗
Al-Sukhun, Koivusalo A, Lindqvist C, et al. COX-2 inhibitors and early failure of free vascular flaps. N Engl J Med 2006 Aug 3;355(5):528-9.
◆要 旨
口腔癌の切除術を受け,切除後の組織欠損に対し血管柄付き遊離皮弁H移植による再建術を
受けた患者に,COX-2 阻害薬(valdecoxib/parecoxib)Iを使用した際に再建術の成功率が低下した
ことが報告されている。著者らは,1997 年1 月〜2005 年10 月に行った再建術のうち,2004
年3
月〜2004 年12 月の間は,術後の疼痛管理薬としてvaldecoxib/parecoxib
を用いたが,この期間は,
valdecoxib/parecoxib を用いずに手術をした前後の期間と比較して,再建術の成功率が低かった。
遊離皮弁移植による再建術では,顕微鏡下手術によって血管吻合が行われるが,COX-2
阻害薬
による血管内の血栓形成のリスクが移植片の生着率の低下をもたらすことが考えられた。
◆報 告
著者らは,1997 年1 月〜2004 年2 月,2004 年3 月〜2004 年12 月,2005
年1 月〜10 月の3
期について,再建術の成功率を比較している。
1997 年1 月〜2004 年2 月には,口腔癌切除手術後,血管柄付き遊離皮弁移植による顎顔面
骨格の再建術を受けた患者に対し,術後に低分子ヘパリンdalteparin(1 日2
回2,000 IU/kg )およ
びオピオイド系鎮痛薬が投与されていた。この間は,再建術113 例中の成功率は93%
で,標準的
な成功率の範囲内であった(表1)。
2004 年3 月から,消化管系の副作用を最小限に抑えるために,術後の疼痛管理にCOX-2
阻害
薬valdecoxib およびそのプロドラッグであるparecoxib の使用を開始した。患者は,術中に
parecoxib 40 mg の静脈内投与を受け(第1 日目),その後7〜14 日間,同用量のparecoxib
の投
与を受けた。その後,40 mg のvaldecoxib 経口投与を5〜10 日間継続した。しかし,2004
年12 月
までの再建術42 症例での成功率が71%に下がったため(1997 年1 月〜2004
年2 月との比較,p
<0.004)(表1),valdecoxib/parecoxib の使用を中止した。
Valdecoxib/parecoxib の使用を中止後,2005 年1 月〜10 月までの再建術25
症例の成功率は,
96%(2004 年3 月〜2004 年12 月との比較,p<0.051 )であり,2004 年2
月以前の成功率とほぼ同
等であった。上述の3 つの期間を通じて,低分子ヘパリンの使用は共通であり,再建術の成功率の低下した
Valdecoxib は,COX-2 阻害薬に共通のクラス作用である心血管事象のリスクに加え,valdecoxib
に特有の重篤な
皮膚反(中毒性表皮壊死融解症,スティーブンス・ジョンソン症候群,多形紅斑)のため,FDA
の要請を受け,2005
年4 月,市場から自主回収された。)
期間に処方が異なったものは,術後の疼痛管理薬としてオピオイド系鎮痛薬の代わりにCOX-2
阻
害薬を使用した点だけであった。このため,成功率の低下の原因としてCOX-2
阻害薬の使用が示
唆された。COX-2 阻害薬は,血小板の凝集抑制作用は弱く,一方,血小板の凝集から内皮細胞を
守るプロスタサイクリンの生成を抑制するため,静脈血栓形成のリスクを増加させることが原因と考
えられた。
◆結 論
COX-2 阻害薬の使用は,血管柄付き遊離皮弁の生着の失敗と関連があると考えられ,遊離皮
弁を用いた再建術でCOX-2 阻害薬を使用することについての懸念が喚起される。
該当原文
http://www.tga.gov.au/adr/aadrb/aadr0610.pdf
2006年3月13日に英国で起こった第I相試験での重大事故の症例報告が,実際に治療にあたった医師たちによってNEJMに報告された.場所はロ ンドン郊外にあるノースウィック・パーク病院で,CROであるParexel Internationalが運営する治験専用病棟で起きた。治験薬はドイツのTeGenero社が開発したモノクローナル抗CD28抗体TG1412 で,ヘルパーT細胞活性化作用がある
実薬を0.1mg/kg投与された6人の全てで,投与1時間後の激しい頭痛に引き続いて起こった呼吸困難,ショック,低酸素血症,両側の広範な肺浸 潤,急性腎不全,全身の落屑といった多彩な症状はcytokine stormと考えられている.2人は非常に重症で,生命の危険があったが,それぞれICU11日,21日の治療も含めて,何とか救命できた.詳しいことは 実際に論文にあたっていただきたい.
この事故から学ぶべき点は数多いが,注目すべきは,英国のメディアの論調である.
森 臨太郎氏は,”被害に遭われた方や家族の状況を大きな悲しみとともに伝えているのは事実だが、臨床試験の危険性をいたずらに煽るメディアはなく、建設的な 報道が行われていることを強調しておきたい。 被害者や家族にとって見れば、それこそ「とんでもない」事件であり、感情的な反応が存在するもの事実であ る。一方で、被害に遭われた方の治療に全力を挙げている医療機関や、治療・サポート・調査に全力を挙げている(ように少なくとも見える)製造元の製薬企業 や公的機関、治験の安全性確保のために建設的な報道を続けている大半の報道機関が一般国民を巻き込みながら、今後はさらに何らかの将来への良い変化へとつ ながっていくことを希望している。”と述べている.(日経メディカル 英国医療事情 2006.3.20)
翻ってわが国を見るに,この事故を,他山の,いや,自分の庭の石として考える報道が非常に少なかったことが非常に残念だ.臨床試験に関わる人すべて にとって,この事故は対岸の火事として片付けられない悪夢である.しかも,TG1412の場合,第I相試験前の非臨床試験で,致命的な落ち度があったわけ ではない.すると,ごくまれにではあるが,動物とヒトの反応性が非常に異なり,日本でも今回のような悲劇が起こる可能性はある.その場合,日本の治験に及 ぼす悪影響は計り知れない.そうなる前に,英国の教訓を学んでおけば,悲劇の起こる可能性も,悲劇が及ぼす悪影響も大幅に低減できる.
医療や生命科学関係のジャーナリストならば,この事故の大切さを理解できないはずがない.なのに,報道が少なかったのは,報道を評価する一般市民の
方にも問題があることを示唆している.新薬の開発に関わる全ての人々は,TG1412のような悲劇が起こる前に,一般市民に対する教育にもっともっと手間
隙人手を投入しなければ,安全なJビーフとの宣伝を垂れ流すばかりで,BSE発生の可能性から目を背けて,結局はパニックの前になす術もなかった日本の畜
産業者と同様の運命を辿るだろう.
● 米FDA,TriptansとSSRIsもしくはSNRIsの併用は生命を脅かすセロトニン症候群を引き起こす可能性があることについてPublic
Health Advisoryを発行
米FDAは,片頭痛治療薬の5-HT受容体拮抗薬(triptan)と一部の抗うつ剤および気分障害治療薬の選択的セロトニン再取り込み阻害剤
(SSRI)もしくは選択的セロトニン/ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)との併用に関する新たな安全性情報について,消費者および医療専門
家に対して通知。triptansとSSRIもしくはSNRIと併用した際に,セロトニン症候群が引き起こされる可能性がある。
triptanとSSRIもしくはSNRIを併用している患者は,これら医薬品の服用を中止する前に主治医に相談すべきである。
triptanとSSRIもしくはSNRIを処方する医師は,triptan,SSRIもしくはSNRIは異なる医師により処方される可能性があること,
これら医薬品の併用によるセロトニン症候群のリスクの可能性と予期されるベネフィットについて評価すること,これら医薬品を併用している患者に対してセロ
トニン症候群の可能性について話し合い,特に治療開始時,用量増加もしくは他のセロトニン作動薬の追加時に患者を厳密に追跡し,セロトニン症候群の症状を
経験した場合には速やかに治療を受けるよう指示するべきであるとしている。
Healthcare
Professional Sheet for Triptans
【カナダ Health Canada】医薬品
■ Health Canada advises heart patients not to use products containing
L-arginine ● Health Canada,L-arginine含有製品を使用しないよう心臓疾患患者に対して勧告
Health Canada,最近の研究により心臓発作後に使用した際に死亡のリスクが増加する可能性が示されたためL-arginineサプリメントを使用しないよ
う,心臓発作の既往のある患者に勧告している。
L-arginineは一般的に健康な心臓機能を維持および促進するために使用されるアミノ酸である。しかしながら2006年1月発行のJournal
of the American Medical Associationで発表された最近の研究によるとL-arginineは初めての心臓発作後の心臓および循環機能を改善しない可能性があること,お
よび心臓発作後に使用した際に,死亡のリスク増加と関連がある可能性が示唆された。
全てのL-arginine製品はこの最近の科学的情報を反映した警告を表示に掲載しなくてはならない。Health
Canadaは適切な表示のないL-arginine含有製品の販売停止および回収を発表している。さらに,L-arginine含有製品はカナダにおい
て販売可能となる前に,販売許可を取らなくてはならないことなどが記載されている。
(2006年5月16日付け)
Drug-Induced Pancreatitis: An Unlucky DIP. Prescriber Update 2005; 26(2): 32-33
薬剤は急性膵炎の一般的な原因の一つであるが,最初からそれらが明白な原因因子であると
みなされることは少ない。急性膵炎の原因となる頻度の高い薬剤として,抗HIV
薬,スタチン類,
tetracycline,およびvalproate 等がある。処方者は,明白な原因のない急性膵炎患者について,特
に急性膵炎が再発性の場合には,薬剤性膵炎を強く疑うべきである。
薬剤が急性膵炎の潜在的原因である可能性
急性膵炎の原因は様々であるが,公表されている症例の30?60%では胆石が原因因子として
特定されている。症例の15?30%は慢性飲酒癖を有し,別の1.3?3.8%は高トリグリセリド血症が疾
患の一因となっている。薬剤性膵炎は急性膵炎症例の2?5%を占めると考えられる。
薬剤性膵炎は小児および成人の両者に発現する可能性があり,小児では薬剤起因性急性膵炎
が急性膵炎症例全体の13%にも達する。膵炎発現までの時間は,疑わしい原因薬剤の投与開始
から6 ヶ月後の場合もある(あるいは9 ヶ月後のこともある)。
国内外からの報告には一般的に使用されるさまざまな医薬品との関連が記載
2005 年10 月の時点で,Centre for Adverse Reactions Monitoring は薬剤性膵炎の報告55
件を
受け取っている。うち23 件では,患者は疑わしい薬剤を1 種類しか投与されていなかった。転帰が
既知の報告のうち11 件では,投与中止(dechallenge)後に改善が認められた。最も報告頻度の高
医薬品安全性情報Vol.3 No.25(2005/12/28)
19
い疑わしい薬剤は,ACE 阻害剤(n=6),valproate(n=4),tetracycline(n=3),スタチン類(n=3),
およびmesalazine(n=2)であった。Australian Adverse Drug Reactions
Advisory Committee は,薬
剤性膵炎の報告を379 件受けている。これらの報告の約3 分の2 では,投与された疑わしい薬剤
は1 種類のみであり,薬剤の種類はニュージーランドで報告されたものと同様であった。
文献およびWHO の有害反応に関する国際的データベースにおいて,薬剤性膵炎に関連して
最も報告頻度の高い薬剤は,抗HIV 薬,非定型抗精神病薬,azathioprine,mesalazine,oestrogen,
スタチン類,sulphonamide,tetracycline,valproate,および6-mercaptopurine
である。
認識は高いものの過少に報告されている
薬剤の関与する医原性損傷の場合には多いことであるが,薬剤性膵炎も過敏症反応あるいは
毒性代謝物の発生のいずれかによって引き起こされると考えられる。これらのメカニズムのどちらが
作用しているかについては,必ずしも明確ではない。
薬剤は急性膵炎の一般的な原因とみなされているが,薬剤性膵炎の報告はまれである。処方者
は,明白な原因のない急性膵炎患者について,特に急性膵炎が再発性の場合には,薬剤性膵炎
を強く疑うべきである。患者の急性膵炎の病因として薬剤が関与している場合には,患者にその薬
剤を再投与すべきではない。
Pinero A, Marcos-Alberca P, Fortes J. Cabergoline-related severe restrictive mitral regurgitation. N Engl J Med 2005 Nov 3;353(18):1976-7
Pergolideによる心弁膜症については以前に説明した.Cabergolineは,Pergolideと同様,ドパミン受容体作動薬(ドパミ
ンアゴニスト)として,パーキンソン病の治療に用いられる麦角アルカロイド誘導体である.この症例は,74歳男性で,cabergoline
使用約4 ヶ月で,人工弁の置換手術が必要となった重篤例であった。
口唇浮腫,アナフィラキシーは,ACE阻害薬の副作用として有名だが,その発生機序として,ブラジキニン産生の関与が挙げられている.ARBでは, 理論上,ブラジキニンを産生しないから安全性が高いと主張する向きがある.
しかし,すでに10年前に、NEJMに(*1)、ブラジキニン産生を起こさないARBでも、ACE阻害薬と同様に血管浮腫が起こるので、ACE阻害 薬と同様の注意喚起が必要であるとされ,上記の説明はもはや通用しなくなっている.
したがって、ARBでも、ACE阻害薬と同様に血管浮腫が起こることは、すでに一般の臨床医の間でも、日常臨床上、念頭に置いておく大切な常識と なっている。(*2)
ACE阻害薬では,透析膜AN69に関連したアナフィラキシーが知られているが,ARB服用患者でも透析膜AN69使用によりアナフィラキシーを起 こした例が、すでに、外国で複数例の報告がされている。(下記*3*4)
透析膜の変更、あるいは降圧剤の変更により、十分対応が可能であることから,ARB服用患者でも,透析膜AN69の併用は禁忌とすべきであろう.
*1Acker C. G., Greenberg A. Angioedema Induced by the Angiotensin II
Blocker Losartan. N Engl J Med 1995; 333:1572
*2林 寛之 (著), 菅野 圭一 (著), 岩田 充永 (著)。日常診療のよろずお助けQ&A100― 羊土社。
*3John B, Anijeet HK, Ahmad R. Anaphylactic reaction during haemodialysis
on AN69 membrane in a patient receiving angiotensin II receptor antagonist.Nephrol
Dial Transplant. 2001 ;16(9):1955-6.
*4Saracho R, Martin-Malo A, Martinez I, Aljama P, Montenegro J. Evaluation
of the Losartan in Hemodialysis Kidney Int 1998;54 Suppl 68:S125-9
New England Journal of Medicine(NEJM)誌の編集者であるGregory D. Curfman氏らは、同誌2000年11月23日号に報告された
VIGOR( Vioxx Gastrointestinal outcomes Research)試験の結果に偽りがあったとするEditorialを、同誌電子版に2005年12月8日に発表した。ロフェコキシブ(製品名
Vioxx)投与群の心筋梗塞(MI)発症者数を3人少なく報告し、結論にも影響を与えたというのが、その主張だ。これに対して米Merck社は同日付の
プレスリリースに、3件のMIはその期日以降に報告されたため、分析には加えられなかったとの反論を緊急掲載、引かない構えを見せている。
スタチンをアルツハイマー病の治療にという動きも一時は盛んだったのだが・・・
Statins
and memory loss
Canadian
Adverse Reaction Newsletter Vol.15,No.4
通知日:2005/10/07
心血管保護において,HMG-CoA還元酵素阻害剤いわゆるスタチン系薬剤の役割は,十分に
確立されている。しかし,認知機能に関するスタチン系薬剤の影響に関しては,現在までの文献で
のエビデンスに矛盾が生じている。スタチン系薬剤は,beta-amyloidの生成を阻害し,神経原線維
変化(NFT)およびアミロイドプラークの形成を抑制することにより,アルツハイマーによる痴呆(認知
症)を予防する可能性があると考えられている。一方,スタチン系薬剤が記憶喪失の原因となる可
能性があることを示す研究もある。ミエリン生成におけるコレステロールの本質的な役割が,記憶喪
失のメカニズムに関連すると言われている。スタチン系薬剤,とりわけ脂溶性の高い薬剤(例:
atorvastatinやsimvastatin)は,血液脳関門を通過し,ミエリン生成に必要な中枢神経系(CNS)のコ
レステロール量を減少する可能性がある。ミエリン生成の不足によりCNSの神経線維が脱髄を生じ,
記憶喪失を引き起こす可能性がある。記憶力低下は[‘Pravachol’](pravastatin)の製品モノグラフ
に記載されている。
スタチン系薬剤のカナダでの販売開始から2005年5月31までに,Health Canadaは薬剤の関
連が疑われる健忘の報告を19件受けた(表1)。スタチン治療開始から1ヶ月以内の発症が5件,
1年以内が7件,1年以降が3件報告された。4件は発症日が報告されていない。薬剤の中止や
減量により健忘が治癒もしくは改善された報告が11件あり,そのうち1件はpositive
rechallenge(複
数回の投与で同様の現象)も記載されていた。他の報告では,このような情報の記載はなかった。
■ FDA
Updates Labeling for Viagra, Cialis and Levitra for Rare Post-Marketing
Reports of Eye Problems
● FDAが眼疾患の稀な市販後報告についてViagra,CialisおよびLevitraの表示を改訂
D05071103 (No.1018(2005.7.11))関連情報:
「FDAがViagra(sildenafil citrate),Cialis(tadalafil)およびLevitra(vardenafil
hydrochloride)の表示の更新を医療専門家に通知。
この改訂は非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION,視神経への血流障害)に起因すると考えられる,突然の視覚喪失(vision
loss)に関する少数の市販後報告を反映している。
FDAは患者に対し,片眼もしくは両眼の突然の視覚喪失などを経験した場合は,これらの医薬品の服用を中止し,直ちに医師もしくは医療従事者に連絡を取る
ようアドバイスしている。
これらの薬剤を服用しているもしくは服用を考えている患者は,これまでにNAIONの前に起きるエピソードに起因すると考えられる重度の視覚喪失を経験し
ている場合は,医療従事者に通知すべきである。
このような患者はNAIONを再び発現するリスクが増加している。現在のところ,これらの勃起不全に対する経口薬が視覚喪失の原因であるか,この問題が高
血圧,糖尿病などのほかの因子に関連しているのか,それともこれらの問題が組み合わさっているのかどうかを判断することはできない」
Deaths with Antipsychotics in Elderly Patients with Behavioral Disturbances:FDA Public Health Advisory(2005/04/11)
行動障害の高齢者での抗精神病薬による死亡
FDAは,痴呆の高齢者における行動障害の非定型(第二世代)抗精神病薬による治療が死亡率の増加に関与していると判断した。行動障害のある高齢痴呆患者
における[‘Zyprexa’](olanzapine),[‘Abilify’](aripiprazole),[‘Risperdal’]
(risperidone),[‘Seroquel’](quetiapine)を用いた合計17のプラセボ対照比較試験のうち15試験で,プラセボ群に
比し薬剤群で死亡率が増加することが示された。これらの試験には計5,106例が登録され,数種の解析で死亡率が約1.6?1.7倍になることが明らかと
なった。死因の大部分は,心臓関連事象(心不全,突然死)や感染症(多くは肺炎)であった。
非定型抗精神病薬はすべて,統合失調症の治療に対して承認されているが,痴呆患者の行動障害の治療に対して承認されたものはない。以上の知見より, FDAはこのリスクについて説明し,痴呆患者の行動障害の治療に適応を持たないことを明記する枠組み警告を当該薬剤のラベリングに含めることを,製造業者 に要請する。Olanzapineとfluoxetineの合剤で,双極性障害関連の抑うつ症状の治療に適応を持つ[‘Symbyax’]についても同様 の対応を求める。
得られたデータは少ない第一世代の抗精神病薬でも同様の死亡率の増加を示しているため,FDAは第一世代の抗精神病薬に対しても同様の警告をラベ リングに加えることを検討している。
以下は私の個人的見解:
非定型抗精神病薬が死亡率を高めるのは,”認知症の高齢者”ではなくて,ただの”高齢者”とすべきではないのか?というのは,
1.非定型抗精神病薬が投与される高齢者は,認知症が圧倒的に多い.したがって,認知症が危険因子かどうかはわからない.
2.死因としては,認知症に特異的に関連するものではなく,高齢そのものがリスクになる心血管死(心筋梗塞,脳卒中)である.
したがって,非定型抗精神病薬の注意喚起は,認知症だけではなく,統合失調症の高齢者でも問題になる可能性がある.そして,この問題は,高齢化の最先進国
である我国で顕在化しやすいのではないか
血管浮腫は,舌,咽頭および頸部に生じやすく,気道をふさぎやすいという点で,咳よりもはるかに重篤な副作用である.
1.服用後すぐに現れるとは限らず,数ヶ月から数年後の場合もある.
2.アンギオテンシン2受容体拮抗薬でも起こりうる.
3.脳卒中の後の片麻痺などのように,局所に浮腫が起きやすい状態が誘発因子となりうる.
血管浮腫:ACE阻害剤になお残る問題.Angioedema - still a problem with
ACE inhibitors
ADRACが1970年以降受けた7,000件以上に及ぶ血管浮腫の報告のうち,916件(12.6%)はACE阻害剤を原因とするものである。血管浮
腫は,急性の顔面(眼窩周囲,口周囲,口唇),舌,咽頭および頸部の一部または全部の軟部組織腫脹を呈するものである。ACE阻害剤では腹痛,嘔吐および
下痢の発作の原因となる消化管の浮腫は,ほとんど報告されていない1)。
血管浮腫は生命にかかわる場合があり,気道が障害された場合にはadrenalineを速やかに非経口投与する必要がある。初発時期は ACE阻害剤による治療から数ヵ月後の場合もあれば数年後の場合もあるため,明白な原因として特定できるとは限らない。血管浮腫は,長い 無症状期間を経て散発的にみられる場合もある。
ADRACに最近報告された症例では,ramiprilを副作用なしに1年間使用していた高齢女性に,4ヵ月間で2-3日にわたり顔面,口唇,顎 のラインおよび頬に片側性腫脹が見られた。この女性は,ramiprilの中止により完全に回復した。別の症例では,perindoprilと関連性があ るとされるまでの12ヵ月間に20回血管浮腫が見られた。
ADRACは,1993年にACE阻害剤による血管浮腫のリスクを初めて勧告し2),1999年にアンギオテンシン2受容体拮抗薬に
よる血管浮腫の発現について言及した3)。ADRACは,これまでにアンギオテンシン2受容体拮抗薬による血管浮腫の報告を119件受け
ている。ACE阻害剤による血管浮腫は,血管透過性を亢進させ,血管拡張を引き起こすブラジキニンの増強によるものと考えられる4)。アンギオテンシン2
受容体拮抗薬でのメカニズムは明らかにされていないが,ブラジキニンの活性化によるものと考えられる4,5)。ACE阻害剤による血管浮腫の既往歴がある
者は,アンギオテンシン2受容体拮抗薬でも血管浮腫をきたす場合がある4,5)。
文 献
1) Chase MP, Fiarman GS, Scholz FJ, MacDermott RP. Angioedema of the
small bowel due to an angiotensin-converting enzyme inhibitor. J Clin Gastroenterology
2000;31:254-7.
2) Angioedema. Aust Adv Drug Reactions Bull 1993;12:3.
3) Angiotensin II receptor antagonists - new drugs with some old problems
and some new problems. Aust Adv Drug Reactions Bull 1999;18:2.
4) Howes LG, Tran D. Can angiotensin receptor antagonists be used
safely in patients with previous ACE inhibitor-induced angioedema. Drug
Safety 2002;25:73-6.
5) Abdi R, Dong VM, Lee CJ, Ntoso KA. Angiotensin II receptor blocker-associated
angioedema: on the heels of ACE inhibitor angioedema. Pharmacotherapy 2002;22:1173-5.
別に耐性のトレポネーマが出現したって話じゃありません.ただのペニシリンGは梅毒には効かないって,ご存知でしたか?
FDA
の MedWatch(Web掲載日2004/11/30)2004 Safety Alert
[‘Bicillin C-R’] (penicillin G benzathine and penicillin G
procaine 懸濁注射液)では、[‘Bicillin L-A’] (penicillin G benzathine
懸濁注射液)では、後者の[‘Bicillin L-A’]のみが梅毒治療に効果がある.これは、作用時間の短いpenicillin
G procaine に比べ、Penicillin G benzathineはより長い半減期を持ち、菌の産生が遅い梅毒トレポネーマの治療に必要とする持続した薬剤濃度レベルが得られるため、
penicillin G procaine が中途半端に入ったBicillin C-Rではなく、純正Penicillin
G benzathineであるBicillin L-Aを使うべきだという警告でした。
はて、日本のペニシリンはどうなっているかというと、唯一の注射液ペニシリンGカリウム(ベンザチンがついていない)の添付文書の効能効果には確か
に梅毒がありません.効能効果に梅毒を謳っているペニシリンは、注射剤ではなく、経口のペニシリンである
バイシリン顆粒(一般名ベンジルペニシリンベンザチン(Benzylpenicillin
Benzathine)のみです.ご存知でしたか?
循環器領域では、降圧剤ばかりでなく、高脂血症、心不全でも併用が流行で、FDAでは合剤もどんどん承認されているが(そんでもってまた,日本は遅 れていると言うんだろうが!!)、同じような毛色の薬であれば、副作用も相乗作用があるようで。併用が有効とのエビデンスが出ると、その併用に伴う副作用 報告も増えるという、皮肉(患者さんにとっては悲劇以外の何物でもない)な現象が実際に起こっている。
Evidence-based medicine: pitfalls of overlooking safety EBM:安全性見落としの落とし穴
大規模長期臨床試験の結果は,非常に大きな影響力を持つ。特に,治療する疾患が一般的で,しかも長期にわたる介入の場合,重篤な副作用がないと,その結
果は有意なベネフィットを示す。しかし,臨床の現場で出会う患者の多くは選択基準を満たしておらず,治験実施計画書には重篤な副作用について慎重にモニタ
リングすることが記載されていると考えられるため,試験のデザインを慎重に調査する必要がある。Randomized
Aldactone Evaluation Study(RALES)1)の影響を検討した最近のカナダの試験では,大規模臨床試験の結果を無批判に適用した場合の悪影響を強調している2)。
RALES試験では,重症心不全(NYHAクラスIIIまたはIV)の患者が無作為化によりspironolactoneまたはプラセボに割り付 けられた1)。患者の95%にACE阻害剤が用いられていた。24ヵ月後,spironolactone群の死亡率はプラセボ群よりも30%低かった。こ の差は,spironolactoneでは心不全の進行による死亡や心臓を原因とする突然死のリスクが低いためであった。血清クレアチニン値またはカリウ ム値が高い患者は対象から除外されており,試験期間を通じて血清カリウム値が定期的にチェックされていた。
RALESの影響を検討したカナダの試験2)では,心不全により最近入院し,ACE阻害剤を使用している65歳以上の患者では, spironolactoneの処方量が5倍多いことがわかった(p<0.001)。同じ期間,同じ患者集団での高カリウム血症による入院率は3倍 高かった(11/1,000例,p<0.001)。高カリウム血症による院内死亡率も3倍高かった(2/1,000例,p<0.001)。同 時期に心不全による入院に有意な低下は見られなかった。
カナダの試験の著者らは,臨床の現場でRALES試験を適用した場合の総合的な悪影響について,以下のような説明が考えられるとしている。
・血清カリウム値が慎重にモニタリングされていない。
・ベースラインの患者背景や,治療中に発現した高カリウム血症になりやすい状態が見過ごされている。
・Spironolactoneの投与量が過剰。
・カリウムの食事摂取が多い。
このほか2件の試験3,4)でRALESの適用に関する注意事項が報告されており,spironolactoneにより試みた心不全の治療のうち21%
が血清カリウム値またはクレアチニン値の上昇により中止となったという知見が得られている3)。注目すべきは,ADRACが受けた
spironolactoneとACE阻害剤またはアンギオテンシン2受容体拮抗薬との併用による高カリウム血症の報告27件のうち,RALESの公表以
後のものが19件であったことである。
大規模臨床試験は知識の向上や医療の改善に欠かせないものとなっているが,個々の患者に適用するには,重篤な副作用の可能性を考慮し,その患者のリスク
を評価する必要がある。副作用の危険因子がある場合には,主な症状や臨床検査パラメータの変化をモニタリングしながら低用量から開始すれば,重篤な有害事
象が発現することなくベネフィットが得られると考えられる。
文献
1) Pitt B, Zannad F, Remme W et al. The effect of spironolactone on
morbidity and mortality in patients with severe heart failure. New Engl
J Med 1999;341:709-17.
2) Juurlink DN, Muhammad MM, Lee DS et al. Rates of hyperkalemia after
publication of the Randomized Aldactone Evaluation Study. New Engl J Med
2004;351:543-51.
3) Witham MD, Gillespie ND, Struthers AD. Tolerability of spironolactone
in patients with chronic heart failure - a cautionary message. Br J Clin
Pharmacol 2004;58:554-7.
4) Tamirisa KP, Aaronson KD, Koelling TM. Spironolactone-induced renal
insufficiency in patients with heart failure. Am Heart J 2004;148:971-8.
5) Wei L, Struthers AD, Fahey T, Watson AD, Macdonald TM.Spironolactone use and renal toxicity: population based longitudinal analysis. BMJ. 2010 May 18;340:c1768.
COX-2阻害剤は,正真正銘の大スターだった.
メルクも,FDAも,そして,その批判者も,何を今さら大騒ぎしているのか?昔からわかっていたことだ.VIGOR試験では,ロフェコキシブの方が 明らかに心血管リスクが高かった.それは遅くともVIGOR試験結果が発表された2002年11月にはわかっていたことだ.にもかかわらず,対照薬のナプ ロキセンに心臓保護効果があるなどという,奇怪千万な理屈をつけてやり過ごし,04年9月末にAPPROVe試験(大腸ポリープの再発予防効果を検証する 臨床試験での中で,投与18カ月を超える群で、心血管系イベントのリスクがプラセボに比べ高まった),年間2700億円も売りまくっていたものを,いきな り販売停止,回収した.これじゃあ,世間は騒ぐわな.
これでは,英国牛は絶対安全ですとの,それまでの金看板をいきなり引き摺り下ろして,”牛肉を食べると不治の病に罹り,1-2年で惨めな死を迎える こともある”と,突然発表した96年3月の英国政府,”安全なJビーフ”がいきなり”狂牛病”に置き換わった2001年の9月の日本と何ら変わることがな い.メルクも,FDAも,大本営を笑えない.
Fitzgerald GA.Coxibs and Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2004 Oct 21;351(17):1709-11
Coxib系薬剤は米国において消費者に対し積極的に直接売り込まれ,NSAIDsの医薬品市場を急速に支配し,全世界で約100億ドルの売上を計 上している。良性の散発的な大腸腺腫に関する薬剤の有効性を判定するために計画されたAPPROVe(Adenomatous Polyp Prevention on Vioxx)試験が,データおよび安全性モニタリング委員会により早期に中止されたことを受けて,Merck社はrofecoxibを市場から自主回収し た。これらの措置は,プラセボ投与群に比較しrofecoxib 25mg/日を投与した群において,重篤な血栓塞栓性有害事象が3.9倍と有意に上昇したことによる。試験の初期の過程において rofecoxib群の患者で血圧が上昇したが,治療開始後1年以上たって心筋梗塞と血栓性の卒中発作の発生における両群の差が徐々に現れ始めた。
FDAは標準的には3-6ヶ月の試験をもとにcelecoxib,rofecoxibおよびvaldecoxibを承認した。試験は臨床的な代替エ ンドポイント(内視鏡的に発見される胃潰瘍)を用いて行われた。薬剤の承認後,消化管に関するアウトカムについての2つの研究結果が報告された。 VIGOR(Vioxx Gastrointestinal Outcomes Research) 試験およびCLASS(Celecoxib Long Term Arthritis Safety Study)試験である。VIGOR試験においては,rofecoxibを投与した群の重篤な消化管事象の割合(2%)は,従来のNSAIDである naproxenを投与した群の割合(4%)に比較して半分であった。しかし,心筋梗塞の発症率において5倍の有意な増加が観察された。この増加は 懸念の元となったが,少数の事象が偶然の発症を反映したのか,naproxenが実は心保護作用を持つのではないかという主張がされた。しかし, naproxenの心保護作用の可能性についての疫学的研究は結論に到達していない。
CLASS試験では,celecoxibがibuprofenまたはdiclofenacと比較された。当初の報告では,celecoxibは消化 管の副作用に関してより好ましいプロフィールを持ち,心血管リスクの増加は明らかにされなかった。しかし,この報告は半数(1年間の研究のうち6ヶ月間) のデータのみを含むものであった。完全なデータが得られた時,予め定義された消化管の副作用に関するエンドポイントについてcelecoxibは従 来のNSAIDsと差異がないことが明らかになった。確かに,aspirinを使用しなかった患者に対するCLASSのデータの事後解析 (post hoc analysis)で,消化管への作用に関して従来のNSAIDsを超えるcelecoxibの優位性の主張を支持する最も説得力のあるエビデンスはあ る。しかしこのデータを同様に後ろ向きに解析すると,心血管リスクの増加の徴候もまた明らかになる。
最新の消化管のアウトカム研究?TARGET(Therapeutic Arthritis Research and Gastrointestinal Event Trial)?が最近報告された。TARGETはlumiracoxibとnaproxenまたはibuprofenを比較した。一次エンドポイントは重 篤な消化管事象の発生率であり,lumiracoxibを投与した患者群において有意に減少した。しかし,この差異はaspirinを服用していない患者 群においてのみ観察された。CLASS試験と同様,非aspirin使用者において心血管事象の発現率の差を検出できなかったが, lumiracoxib群の心血管事象はnaproxenまたはibuprofen群より有意ではないが多かった(100患者・年あたり0.26 対 0.18; ハザード比 1.47)。
最後に,一連の疫学的解析において,またcoxib系薬剤の心血管安全性について疑問が生じた。疫学的解析は一般に処方データベースに依存してお り,NSAIDsやaspirinのOTC薬消費によるバイアスに特に影響されるが,これらの研究からリスクと使用されたrofecoxibの用量の関連 が示され,裏付けとなるエビデンスが拡大した。
APPROVe試験の結果が発表されるまで,VIGORおよびTARGET試験におけるcoxib系薬剤の消化管に関するベネフィットの科学的なエ ビデンスは心血管リスクのエビデンスを上回るかのように見えた。FDAはcelecoxibおよびrofecoxibのラベリングにCLASSや VIGOR試験のアウトカムを反映させるという慎重な政策を進めた。しかし,APPROVe試験により証明の責任は移動した。今や我々には,すべての coxib系薬剤に拡大適用されるメカニズム的な解釈と一致した心血管リスクの増加についての明らかなエビデンスがある。
Rofecoxibの問題もまた薬剤承認への過程にはあまり反映されていない。これらの薬剤の心血管に対する作用の合理的な根拠は5年前から明らか であったが,未だ最も根本的な問題さえ直接は解決されていない。少数の患者やボランティアであっても,念入りなメカニズム的研究が行われていれば,もっと 多くの情報が得られたであろう。しかし製薬企業は,薬剤の承認のためにTARGETのような研究を計画するという現行の必要条件によって動いている。ア ウトカム研究の中で最も費用がかさみ大規模であったTARGETでは,1年間で18,000人以上の患者にlumiracoxibが投与された。この研究 は他のcoxib系薬剤の承認のもととなったが,VIGOR試験やメカニズム研究,疫学研究により提起された心血管リスクの重大な問題を解決することはで きなかった。
最後に,心血管リスクがクラス効果であるかないかを判断することは不可欠である。これがrofecoxib単独の問題であり他のcoxib系薬剤に 拡大するものではないと主張する人々に,今や証明の責任がある。“副作用 のエビデンスがない”ということは“副作用がないことのエビデンス”にはならないということを忘れてはならない。
これに対して,メルクとFDAから,結果論だけなら何とでも言える との反論が出ている.これもなかなか面白い.たしかにメルクやFDAの言うことにも一理ある.Rofecoxib, Merck, and the FDA. NEJM 351:2875-2878
Dieppe PA, Ebrahim S, Martin RM, Juni P. Lessons from
the withdrawal of rofecoxib.BMJ. 2004 ;329:867-8.
Rofecoxib回収からの教訓Patients would be safer if drug
companies disclosed adverse events before licensing 製薬企業が認可前に副作用を公開すれば患者の安全は向上する.
非ステロイド性抗炎症剤の開発と販売の歴史は興味深くもあり同時に恐ろしい物である。それは驚くほどの商業的成功と劇的な災難の奇妙な配合をもたら す,最近回収された薬剤[‘Vioxx’](rofecoxib)はその最新の例である。
1960年代の研究により,サリチル酸誘導体類が関節リウマチの疼痛除去に有効であることが示された。その後の40年以上にわたって,我々は一連の NSAIDの消長を見てきたが,そのどれもがライバル商品に対する高い有効性か,低毒性のどちらかを謳い文句としていた。新しいNSAID類が現れるたび に,その適応症は炎症性疾患から,ほとんどすべての疼痛状態へと着実に拡大されていった。新薬の登場のたびに市場が拡大し,全世界での年間の概算売り上げ が200億ドルを超えるまでに至った。
NSAID新薬の最初の大きな問題は,1980年代に[‘Opren’](benoxaprofen)に関して起こった。この薬はEli Lilly社により開発され,独特の作用機序を根拠に販売された。しかし,間もなく,この薬を使うと光過敏症や肝毒性などの新たな有害事象を伴うことが明 らかになった。会社は数人の高齢者がbenoxaprofen使用後に肝不全で死亡したため回収を余儀なくされるまで,この薬を積極的に売り続けた。
今我々はNSAID新薬に関して,これと同様の,おそらくはより深刻な問題に直面している。1990年代初頭,発現パターンの異なる二つシクロオキ シゲナーゼアイソフォームCOX-1,COX-2が発見された。NSAID類の抗炎症作用はCOX-2の阻害に関連し,一方で,胃腸に対する有害事象は COX-1阻害のせいで起こると言われた-NSAID類の胃腸管毒性がとりたてて強調され,他の有害事象はほとんど無視された。
低毒性で有効なCOX-2選択性阻害剤として大量に販売された最初のNSAID類の一つは[‘Celebrex’](celecoxib)であっ た。Pfizer社はいまだにこの製品の宣伝をCLASS試験を根拠に行っているが,この中核的な試験は信用されておらず,celecoxibの選択性に 関しては疑いがもたれている。これに続いたのがMerck Sharp & Dohme社による[‘Vioxx’](rofecoxib)である。相当する代表的な臨床試験VIGORでは,rofecoxibの胃腸管安全性に関す る強固な証拠が示された一方で,心血管毒性に関する懸念が起こった,とりわけ,心筋梗塞のリスク上昇は恐ろしい値を示した〔リスク比5.00:95%CI [1.72?14.29]〕。
純粋に理論的な推論に基づいて-また,RCT試験による根拠もなく- Merck社は観察された心筋梗塞の発現率の違いは,VIGORで用いられた対照薬naproxenの心保護作用で説明できると提示した。2001
年5月22日付けのプレスリリースには「MerckがVioxxの良好な心血管安全性を再確認」と表記された。Merck社の顧問や社員によるおびただし
い論文がこの考えを支持した。そして今,VIGORの発表からほぼ4年たって,Merckは心血管毒性を理由にrofecoxibを回収した。今回の対応
に至った根拠として,未発表であるが,プラセボ比較の長期臨床試験の結果を引用している。
我々には3つの懸案事項がある。第一に,「[‘Vioxx’]問題」は,rofecoxibの心血管効果がすべてのCOX-2選択性阻害剤に共通する効果
であるのか,もしそうであるなら,COX-2阻害にどの程度の選択性があればこの有害作用が生じるのかを緊急に判定する必要があることを示している。第二
に,我々は今日の非炎症性痛における広範なNSAID類の使用を再考しなければならないと信じている。第三に,我々は同様の問題の再発を防ぐ方法を見つけ
なければならない(別掲)。
第III相臨床試験それだけでは,比較的まれであるが重要な有害事象を検知するには規模が不十分であり,日常の臨床応用に移行した際に多くの人々が 被害を受ける可能性がある。広く市販された新薬が,無計画かつ短時間に多くの人々に処方された場合,薬物に関連した現在未発見の有害事象による公衆衛生上 の潜在的影響がより悪い方向へ進みがちである。Rofecoxibの上市5ヶ月以内に英国では42,000人の患者にこの薬が処方された,新たに上市され た薬にはblack triangle警告が添付され安全性に関する情報は不十分である旨表示されているにもかかわらずである。不幸にして,市販後調査は安全性の評定において 万能ではない,方法論的な不備によって不正確な結果が出る可能性があるためである。
それゆえ我々は,製薬企業が,臨床試験から得られた重篤な有害事象に関するすべてのデータを研究の終了後直ちに一般公開することを法的に必須とする よう進言する。これによって,重篤な副作用に関する,第三者による,時宜を得た,また最新のシステマティックレビューが可能となる。加えて我々は,製薬産 業から独立した,希なアウトカムを研究できるだけの規模の無作為化試験を用いた新たな介入を段階的に導入することを提唱する。同様に,系統立った,より強 固で包括的な医薬品安全対策の方法も。これらの基準は製薬会社にはなじみのないものであろうが,これらによって闇雲に未知の危険にさらされる患者数を制限 し,有害事象に関する強固でバイアスのかからないエビデンスを薬が承認されてしまう前に提供できるようになるであろう。
◆推奨される承認決定前に薬の安全性を確認するための対策
・すべての前向きRCTの登録を製薬企業に法的に義務づける。
・臨床試験から得られたすべての重篤な有害事象に関するデータを,研究完了後直ちに一般公開することを製薬企業に法的に義務づける。
・RCTおよび観察研究による公表,未公表のデータに基づく有害事象のシステマティックレビューを継続的に更新する。
・薬の認可決定以前の,独立した大規模無作為化研究への介入を段階的に導入する。
・製薬企業とシステマティックレビュー,臨床研究を実施する研究者の金銭的関係を明確に分離する。
Prescrire International
April 2004;13(70):45-47.Olanzapine- New indication in acute mania :
Just another neuroleptic
Olanzapine:新たな適応として急性躁病:他の抗精神病薬と変わりなし
有効性はhaloperidolを超えるものではない.Haloperidolとの比較試験は1件のみで,この試験の主な目的は6週間治療後の寛解 率でolanzapineがhaloperidolより有効であることを示すことであった。結果として,両剤間に有意差は認められなかった(寛解率は olanzapineでは52.1%,haloperidolでは46.1%であった)。Haloperidolの初期用量が特に高いために,神経系副作 用のリスクが増大した。さらに,発表された報告書には治療効果に応じた用量減量のための明確な臨床基準が記載されていない。
Lithiumとの比較試験は,わずか30例(!!)を対象とした二重盲検試験で,Olanzapineとlithiumの有効性の優劣に有意差は なかったが,症例数が少なく,統計的検出力が低いため,この結果は信頼性に欠ける。唯一の妥当な結論は,この2剤に大きな差はないということである。(随 分寛大な言い方で,本来,試験自体に意味がないというべきだろう)valproate disodiumとの比較試験は中断されたまま.
結論:これまでのolanzapineに関する臨床的知見からは,急性躁病およびその治療法に関する我々の知識のわずかな進歩であって,
olanzapineを急性躁病患者治療の進歩とは言えないことを示している。Olanzapine治療に伴う費用の増加は,全体として割に合わない。
warfarinとクランベリージュースの相互作用(INRの変化または出血):英国
CSMおよびMHRAに報告された8例(死亡1例を含む)について
Genovese MC, Cohen S, Moreland L, Lium D, Robbins S, Newmark R, Bekker P; 20000223 Study Group. Combination therapy with etanercept and anakinra in the treatment of patients with rheumatoid arthritis who have been treated unsuccessfully with methotrexate.Arthritis Rheum. 2004 May;50(5):1412-9.
関節リウマチの治療において,第一選択薬(多くはmethotrexate)で効果が得られなかった場合に,何を最良の治療薬とするかについては意 見の一致が得られていない。抗TNF受容体であるエタネルセプトと、IL-1受容体拮抗薬であるanakinraは、その作用機序の違いから考えると、有 効性、安全性の両面から、単独使用よりも併用がよさそうに思われるので(この2剤のhead to head trialはない)、MTX抵抗性の240人のRA患者を、エタネルセプト25mgx2/week, エタネルセプト25mgx2/week+ anakinra 100mg/day、エタネルセプト25mgx1/week+anakinra 100mg/dayの3群に分けて、主要評価項目をACR50、観察期間24週間で平行群間比較試験を行ったところ、有効性では、それぞれ41%、 31%、39%と差が無かった。安全性では、エタネルセプト25mgx2/week+anakinra 100mg/day群で、重篤な感染症が6例に見られたのに対し、エタネルセプト単独群では重篤な感染症は見られなかった。
なお,この試験の後,欧州審査医薬品庁はetanerceptとanakinraを併用しないよう勧告した。
Prescrire
International April 2004;13(70):43-45.
プロトンポンブ阻害剤が,抗菌剤による偽膜性腸炎の代表的な原因菌Clostridium
difficile感染のリスクになるという研究が出た.
Canadian Medical Association Journalがモントリオールの医大付属病院におけるClostridium
difficileの発生に関する研究論文を発表した。薬局のデータベースを基にしたコーホート試験によると,2002年8月から9ヵ月以上抗生物質を投
与されていたモントリオール医大付属病院の入院患者は1187名であった。プロトンポンプ阻害剤もしくはH2ブロッカーを併用している患者と制酸療法を受
けていない患者を比較した。コーホート研究の結果より,入院中に抗生物質を投与されていた患者のうち81名(6.8%)がC.
difficile下痢になった。多重回帰分析より,C. difficile下痢はプロトンポンプ阻害剤,3種類以上の抗生物質の投与などと有意に関係していた。ケース・コントロール試験によるとC.
difficile下痢は女性,腎不全の既往歴,プロトンポンプ阻害剤の使用などと関係していた。この試験よりプロトンポンプ阻害剤を投与されている入院
中の患者ではC. difficile下痢のリスクが上昇していると結論づけられた。"
九州大学大学院薬学研究院臨床薬学講座の澤田康文教授によれば,”相互作用を回避するには、フルボキサミンを、同じSSRIでCYP1A2の阻害作
用がないパロキセチン(商品名:パキシル)や、SNRIのミルナシプラン(商品名:トレドミン)に変更する方法などが考えられる。チザニジンを他の中枢性
筋弛緩剤で代替することで相互作用を回避できるかどうかは、現時点では不明”だそうな.
全入院患者の5%が薬の副作用によるもので,うち0.13%が致死的な症例であると言われているが,これは1990年以前のデータに基づくものであ
る。
すべての入院事例を前向き分析することによって,薬の副作用による財政的負担の近況を解明するために,英国のマージーサイド州にある2つの大規模総合病院
に6ヶ月の期間に入院した,16歳を超す,入院の原因が確かめられた18,820人の患者を対象として,前向き観察研究を行った。主要評価指標は薬の副作
用による入院の発生率,入院期間,回避性,転帰とした。
18,820人の6.5%,1,225人が副作用に関連した入院であり,そのうち80%は副作用が入院の直接の原因であった。入院期間の中央値は8日間
で,病院のベッド数の4%を占めた。副作用に関連した入院のNHSに対する推定年間コストは,940億円(4億6,600万ポンド,
8億4,700万ドル)になる。Hallasらの方法により算定すると,副作用の9%が確実に回避可能,63%がおそらく回避可能,合わせると72%が避
けられるものであった。入院にもっとも関与している薬剤はNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)で,副作用に関連した入院の29.6%,363例に関
与していた。NSAIDsとしては,aspirin(218例),diclofenac(52例),ibuprofen(34例),rofecoxib
(33例)の順に多かった。Furosemide(128例),bendroflumethiazide(103例),bumetanide(43例),
spironolactone(37例)等の利尿剤が334例(27.3%)に,warfarinが129例(10.5%)に関与していた。また,副作用
の16.6%は相互作用によるものであった。
副作用のため入院した患者の大部分が回復したが,28例(2.3%)は死亡した。入院した総患者数に対しては0.15%の死亡率であった。28例のうち
15例(54%)の死因は胃腸出血で,穿孔性十二指腸潰瘍が2例,頭蓋内出血と腎不全が各5例,リチウム中毒が1例であった。単独投与および他剤との併用
を合わせると,aspirinが17例の死亡に関連していた。
発生率,死亡率,追加費用がかなり高いことから,NHSの副作用の負担は大きい。関与する薬剤の多くでベネフィットが証明されているが,副作用による負担
を減らし,それら薬剤のベネフィットと害のバランスを考慮し適正使用に向け,対策を早急に講じる必要がある。
〔PubMed,abstract〕
Van Camp G and others. Treatment of Parkinson's disease with pergolide and relation to restrictive valvular heart disease. Lancet. 2004;363:1179-83.
Van Camp G, Flamez A, Cosyns B, Goldstein J, Perdaens C, Schoors D. Heart valvular disease in patients with Parkinson's disease treated with high-dose pergolide.Neurology. 2003 Sep 23;61(6):859-61.
発症に関与するのはドパミンではなく、セトロニンとその受容体で、methysergide, ergotamine, feflulamineといった他の麦角剤でも同様に心弁膜疾患(弁、弁輪の線維化が病気の本態)や肺、後腹膜の線維症が知られている。
pergolide では,2003 年にFDA MedWatch の心弁膜症の安全性勧告が出されている.この勧告では,心弁膜症の頻度は市販後報告から0.005%と推定しているが,VanCamp らは,Lancet 誌に心エコーの評価ではパーキンソン病治療でpergolide を使用する患者の33%に何らかの心弁膜異常が認められると報告している.
FDA MedWatch safety information. Safety Alert-Permax (pergolide mesylate).
February
2003; http://www.fda.gov/medwatch/SAFETY/2003/permax.htm
Van Camp G, Flamez A, Cosyns B, Weytjens C, Muyldermans L, Van Zandijcke
M, De
Sutter J, Santens P, Decoodt P, Moerman C, Schoors D. Treatment of
Parkinson's disease
with pergolide and relation to restrictive valvular heart disease.
Lancet 2004;363
(9416):1179-1183.
今,盛んに使われている選択的セロトニン取り込み阻害剤SSRIでもセロトニン過剰により同様の副作用は起きないのかな?そうだとしても、ブロモク リプチンがパーキンソン病に使われはじめてから20年以上たって、ようやく今年になって心弁膜疾患が騒がれているのだから、SSRIによる心弁膜疾患を騒 ぐとしても、私はこの世とも、おさらばしているのかもしれません。
オーストラリア規制当局からの情報.
Australian
Adverse Drug Reactions Bulletin Vol.23, No.4(2004年8月)
[‘Permax’](pergolide)は,パーキンソン病の補助療法に適応のあるドパミン作動薬であり麦角誘導体である。Pergolide
と弁膜性心臓疾患の関連が最近明らかになった。続いて,pergolideで治療を受けたパーキンソン病の患者78人のうち26人(33%)に心弁膜症が
発見され,麦角誘導体のドパミン作動薬で治療を受けていない18人の患者においては一人も発見されなかったという研究により,このエビデンスは支持され
た。Pergolide群の平均の累積用量は3,000gであり,平均の使用期間は18ヶ月であった。Pergolideに対する曝露が多いほど,重篤な
疾病となる傾向(蓄積用量に関連性あり)があった。患者のほとんど(20人)において僧帽弁への影響があり,比較的少数の患者では大動脈弁や三尖弁の狭窄
(または/かつ閉鎖不全)があった。収縮期の肺動脈圧の平均は対照群に比較してpergolide投与患者で有意に高かった(P=0.02)。拘束性の弁
膜性心臓疾患の患者のうち6人のみpergolideの投与を中止し,そのうち2人がpergolide投与中止後6ヶ月で改善した。
Pergolide関連の弁膜症は心臓弁膜の線維部分に限定された病変に関連するものであり,通常は弁逆流を合併する。Methysergideや
ergotamineのようなその他の麦角誘導体や,食欲抑制剤のfenfluramineやdexfenfluramine(1997年に世界的に回
収)は同様の心弁膜症を引き起こすことが知られている。カルチノイド症候群やpergolideを含む麦角誘導体に関連する弁膜症はセロトニン濃度の上昇
に起因する。Fenfluramineおよびdexfenfluramineもまた肺高血圧症を生じ,pergolideと同様にセロトニン5-HT2B
受容体に関連する。
ADRACはpergolideでの弁膜性心疾患の報告を現時点で受けていない。おそらく,両者の関連に対する認識が欠如していることの反映であろう。
[‘Cabaser’],[‘Dostinex’](cabergoline)もまた麦角誘導体であるが,現在のところADRACや公表された文献におい
て弁膜症との関連の報告はない。ADRACはpergolideおよびcabergolineの使用に関連する可能性のある弁膜性の心疾患のいかなる症例
も報告するよう要請している。
Pergolideを処方する前に,弁膜症のリスクについて患者に説明すべきである。処方医は投与開始時に既往の調査を含む臨床的な心血管検査を徹底的に
行い,pergolide服用患者の追跡検査を定期的に行うべきである。心雑音を検知した場合,心エコー検査を検討すべきである。弁膜疾患が新規に発症し
たことが確立された場合,pergolideの投与中止を検討すべきである。
以下,要約から.
解析の結果,fluoxetine に関しては2報の論文,CSMレビューの非公開データのどちらも,この薬が重篤な副作用のリスクを増すことなく有効であることを示した〔寛解を指標とした
NNTB6:95%CI[4?15]既報データ〕。対照的に,paroxetine に関する1報の論文では有効性の証拠が示されている〔寛解を指標としたNNTB7:95%CI[4?100]〕一方で,重篤な副作用〔NNTB10:
95%CI[6?50]〕と自殺念慮/未遂のリスク上昇も明白であり,この既報データと,非公開データのプールからはparoxetineの有効性は認め
られない。Sertraline に関しては,掲載論文においてはわずかに良い方向のリスク?ベネフィットプロファイルが得られているが,論文からは省かれていた非公開データにより有効性
に疑問が生じ,結果,自殺念慮/未遂のリスク上昇の可能性が際だつ。さらに,citalopram
に関しては適合する論文は見つからなかったが,非公開データによれば有効性の欠如と自殺未遂のリスク上昇が示唆されている。Venlafaxine
に関する小規模な試験に関する論文では有効性は示されず,重篤な副作用の報告もないが,未公開データを含めると有害事象が原因の治療中止のリスクが上昇す
ることが指摘されている。
これらを総括して,論文発表されたデータは,数種のSSRIについて良好なリスク?ベネフィットプロファイルを示唆しているが,これに非公開のデータを加
えると,小児と青年のうつ病の治療においては(fluoxetine 以外の)これら薬剤のリスクが有効性を上回る可能性があると指摘している。臨床ガイドラインの開発とこれに沿った治療法の決定は査読誌掲載の実証的根拠に
大きく依存しており,試験データの非公開や,理由はどうあれ,重要なデータを公開の試験から省くことは治療法の勧告を誤った方向へ導く可能性があり,あら
ゆる介入研究に関して,公開性と透明性の向上が緊急の課題であると結んでいる。
横紋筋融解のニュージーランドにおける報告:最近,スタチン系薬剤を1日20mgから80mg服用している患者に生じた横紋筋融解8例(死亡2例を
含む)が,CARM(Centre for Adverse Reactions Monitoring)に報告された。
1.症状の発症時期:スタチン系薬剤での治療の開始および変更から2?12週間の範囲であった。
2.年齢:患者は54?79歳であった。(池田注:この薬剤を服用している患者集団の年齢を反映していると思われる)
3.併用薬:5人はスタチン系薬剤と相互作用がわかっている他の薬剤を服用していた(すなわち4人はdiltiazemとsimvastatin,1人は
pravastatinとbezafibrate)。
4.基礎疾患:3人の患者は慢性腎不全や肝硬変を含む重篤な合併症があった。
モニタリング
1.特に開始時およびその後の増量の数ヶ月間は,筋痛,圧痛および筋力低下の徴候や症状に対して患者をモニターすることが求められる。特にリスクファク
ター(例:糖尿病,高齢,甲状腺機能低下症,肝および腎疾患)を持つ患者
2.CK濃度が上昇(正常値上限の10倍以上)した場合や,ミオパシーが疑われるか診断された場合は,スタチン系薬剤による治療を中止,CK濃度が軽度に
上昇(すなわち正常値上限の3?10倍)場合は,CK濃度を毎週測定し,専門家のアドバイスを受けるべきである。
3.しかし,治療変更や合併症を発症しない時に定期的にCK濃度を測定することはおそらく無用である。
併用薬
1.スタチン単独でのミオパシーや横紋筋融解のリスクは用量依存性である。Simvastatinの臨床試験によればその発症率は1日20mgで約
0.03%,40mgで0.08%,80mgで0.4%である。
2.フィブラート系薬剤は単独でミオパシーを生じる可能性があるため,このリスクはフィブラート系との併用で上昇する。
3.Simvastatinとatorvastatin(両剤ともCYP3A4の基質; fluvastatinおよびpravastatinは異なる)が強力なCYP3A4阻害剤(例:erythromycin,itraconazole,
amiodarone,verapamil)と併用される場合も,このリスクは上昇する。
4.DiltiazemはCYP3A4の阻害作用は弱いが,スタチン系薬剤と処方される頻度が高い。1日80mgのsimvastatinと併用した場
合,diltiazemは横紋筋融解のリスクを1%まで上昇する。しかし,diltiazemと併用したsimvastatinの用量が1日40mgや
60mgに増量されたニュージーランドの患者2人に,致死的な横紋筋融解が報告された。2人とも重篤な合併症があった。Diltiazemは高用量の
simvastatinやatorvastatinと処方すべきではない。
WEN-HUNG CHUNG and others. Medical genetics: A marker for Stevens?Johnson
syndrome. Nature 428, 486 (01 April 2004); doi:10.1038/428486a
Stevens-Johnson syndrome and the related disease toxic epidermal necrolysis
are life-threatening reactions of the skin to particular types of medication.
Here we show that there is a strong association in Han Chinese between
a genetic marker, the human leukocyte antigen HLA-B*1502, and Stevens?Johnson
syndrome induced by carbamazepine, a drug commonly prescribed for the treatment
of seizures. It should be possible to exploit this association in a highly
reliable test to predict severe adverse reaction, as well as for investigation
of the pathogenesis of Stevens?Johnson syndrome.
セロトニンは血小板凝集に関与している。坑うつ剤はセロトニンの血中濃度に影響を与えるので,その使用は異常出血のリスク増加を伴う可能性がある。 しかし,現在までの研究ではこの関連性について結論には達していない。Meijerらは1)は,坑うつ剤の 使用に伴う異常出血のリスクを評価し,セロトニン再取り込み阻害剤と出血のリスクの関係を明らかにすることを目的とした。
オランダの85万人の患者を擁するデータベースを用い,1992年から2000年のデータから,64,000人以上の新規の坑うつ剤使用者のコホー ト内症例対照研究を実施した。患者は,全て18歳以上で異常出血の主診断で入院したすべての患者を対象とし,対照群は年齢と性別を一致させた。服用した抗 うつ剤のセロトニン再取り込み阻害の程度(高い,中等度,低い)に従って分類し,ロジスティック回帰分析を行ってオッズ比を求めた。
196例の異常出血が見られた(発現率4.9/1000人・年)。セロトニン再取り込みの阻害は異常出血のリスクに関連していた。セロトニントラン スポーターとの親和性に基づいて坑うつ剤を分類すると,セロトニントランスポーターとの親和性が高い(0?1 nmol/L)坑うつ剤を使用した被験者103例(53.1%)では,調整オッズ比が2.6(95%CI[1.4?4.8]),中等度の親和性の坑うつ剤 は,オッズ比1.9(95%CI[1.1?3.5])であった。著者らは,新しい坑うつ剤の大部分において,坑うつ剤によるセロトニン再取り込み阻害の程 度と異常出血の主診断で入院するリスク間に相関を認めた。異常出血のリスク増大は,セロトニン再取り込み阻害の程度に強く関連していた。
Daltonら2)の報告によると,大規模な母集団において,消化管への出血のリスクの増加はそれほ
ど高くないが(入院を要する消化管出血が1,000人の患者毎に約3人増加),観察研究によればSSRIを使用した患者は使用しない患者と比較して,消化
管出血を発症するリスクが約3.6倍増加した。
GI(上部消化管)出血に関連し,SSRIのみを使用した期間において,55例のGI出血事象を観察した(95%CI=2.7?4.7),これは
1,000治療年・人毎に3.1人の割合で増加した事に相当する。SSRIがaspirinやその他のNSAIDと併用された場合,そのリスクはさらに増
加する。SSRIと非ステロイド性抗炎症薬もしくは低用量aspirinとの併用は,それぞれ12.2倍(95%CI=7.1?19.5)および5.2倍
(95%CI=3.2?8.0)リスクが増加した。80歳を超えかつ消化管出血の既往のある患者へのSSRIのみの使用はその他の抗うつ剤を使用している
患者に比較して出血のリスクが非常に高くなる。
このエビデンスに基づいて,aspirinやNSAIDを服用している患者を含めて,‘リスクの高い’患者へのSSRIは避け,注意して用いるべきである
ことをDTB(Drug
and Therapeutics Bulletin)は提案した。
1) Meijer WE, Heerdink ER, Nolen WA, Herings RM,
Leufkens HG, Egberts AC. Association of Risk of Abnormal Bleeding With
Degree of Serotonin Reuptake Inhibition by Antidepressants. Arch Intern
Med. 2004;164:2367-2370
2)
Dalton SO, et. : Use of selective serotonin reuptake inhibitors and risk
of upper gastrointestinal tract bleeding: a population-based cohort study.,Arch
Intern Med. 2003 Jan 13;163(1):59-64.
2002 年,急性腎障害としてADRAC:Australian Adverse Drug Reactions Centre に報告された129 件の症例のうち28 件がこれらの併用に関連するものだったという。殆どが高齢の患者(平均年齢76 歳)で,“三段攻撃”による腎障害の死亡率は10%と非常に高かった.
ALLHAT以来,ACE 阻害剤やアンジオテンシン受容体拮抗薬と利尿薬の併用されることが多くなっているから,ACE 阻害剤+利尿薬,あるいはARBやアンジオテンシン受容体拮抗薬+利尿薬の組み合わせでテンパッているところへ, NSAIDで振り込むというのが,典型的なパターンとなる.感冒で経口摂取不足,嘔吐,下痢による脱水も十分なアシスト役を果たし ているだろう.
1)Heerdink ER, Leufkens HG, Herings RMC et al. NSAIDs associated with
increased risk of congestive
heart failure in elderly patients taking diuretics. Arch Intern Med
1998;158:1108-12.
2)ADRAC, Thomas M. Diuretics, ACE inhibitors and NSAIDs - the triple
whammy. MJA 2000; 172:
3)Boyd IW, Mathew TH, Thomas MC. COX-2 inhibitors and renal failure:
the triple whammy revisited.
MJA 2000; 173: 274 (corr. MJA 2000; 173: 504).
Digoxinへのclarithromycinの追加によるdigoxin毒性:ジギタリスを服用している患者にクラリスロマイシンをお見舞いす
るなんてこと,あなたやっていませんか?
ACE阻害剤へのカリウム保持性利尿剤の追加による高カリウム血症:両方とも心不全患者に使う薬!!
Glibenclamideへのtrimethoprim/sulphamethoxazoleの追加による低血糖
参考文献
Juurlink DN, Mamdani M, Kopp A, Laupacis A, Redelmeier DA. Drug-drug
interactions among elderly patients hospitalized for drug toxicity. JAMA
2003 ; 289:1652-58.
FDAが態度を決めかねているのは,SSRIによる自殺のリスクの評価が,まだまだはっきりしないという背景がある.次のJAMAの論文があるよう だ。下記のような論文もJAMAに載っているが:
Wagner KD and others. Efficacy of sertraline in the treatment of children and adolescents with major depressive disorder: two randomized controlled trials.JAMA. 2003 Aug 27; 290(8): 1033-41.
multicenterでやった376人のRCTなんですが、たったの367人じゃあ、安全性については何もわからんだろうというのが英規制当局の 見解だろう.私もそう思う.マスコミでは,FDAが小児へのSSRIを厳しく制限しないのは,専門家達が製薬会社とぐるになっているからだと攻撃する向き さえある.
The New York Times reported that the task force did not have access to some data used in the United Kingdom. Critics also pointed out that the report was not based on a meta-analysis, which is now being done by other researchers, and that the majority of experts on the task force had "significant financial ties" to drug companies.
結局はリスク・ベネフィットの判断になるが,どうしてもゼロリスクを求めがちな一般市民の感情にどう対処しているのか,FDAのメディア対応に非常
に興味がある.
Filioussi K, Bonovas S, Katsaros T. Should we screen diabetic patients
using biguanides for megaloblastic anaemia? Aust Fam Physician. 2003 May;32(5):383-4.
ただし,日本ではフルオキセチンはまだ販売されていない.
線維化反応(肺線維症や腹部線維症のような)が,麦角誘導体に関連して,まれに生じることがわかった。この委員会は,パーキンソン病 の治療に適応のある [‘Celance’](pergolide),[‘Parlodel’](bromocriptine),[‘Cabaser’] (cabergoline)およびlisurideに関連する線維化反応のエビデンスを検討した。これは,Pergolideの使用がその他の麦角誘導体 よりも,線維化反応の高率での報告に関連性があるという自発報告からの疫学的所見を受けてのことである。委員会は,利用可能なデータでは,この見かけ上の 報告割合の増加が本質的なリスクの増加を反映しているのか,報告バイアスのようなその他の因子によるものなのかを確認することができなかった。委員会は, 患者は麦角誘導体の服用期間中,線維化障害の症状に対し,定期的に注意深い観察が必要であると勧告した。製品情報はこれを反映して改訂され,記事は Current Problems in Pharmacovigilanceで公表された。
池田コメント:麦角誘導体としては,古典的なセロトニン拮抗薬であるmethysergide(偏頭痛の治療などに使われたことがある)による後腹
膜線維症が有名である.今回の勧告は,methysergideに限らず,ドパミンアゴニストにも線維症のリスクがあることを示唆している.
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チアゾリジン系薬剤(ロシグリタゾンのように,○○グリタゾンという名の一般名の薬)の使用と2型糖尿病患者における心疾患のリスク.後ろ向きコ ホート研究
Delea TE, Edelsberg JS, Hagiwara M, Oster G, Phillips LS.Use of Thiazolidinediones and Risk of Heart Failure in People with Type 2 Diabetes A retrospective cohort study. Diabetes Care. 2003; 26(11) : 2983-2989.
背 景:米国ではTZDs(thiazolidinediones,チアゾリジン系薬剤)として,troglitazone(2000年3月自主回
収),pioglitazone,rosiglitazoneが承認された。TZDは心臓,腎臓および/もしくは血管系(rosiglitazoneは肺
内皮細胞の透過性を増加する可能性がある)に直接的に作用し,または腎のナトリウム保持を増加させるインスリンの働きを間接的に促進することにより心疾患
のリスクを増加する。特有な糖尿病性心筋症もあるため,糖尿病の患者は心疾患のリスクが増加しているので,心筋疾患(初期の心筋症を含む)のある糖尿病患
者はTZDの影響をとくに受けやすい可能性がある。
目 的:TZDsに対し,その他の経口抗高血糖薬を服用している2型糖尿病の個々人における心疾患の事象の比較。
調査のデザインと方法:我々は,医療保険のデータベースを用いて後ろ向きコホート研究を行った。研究の標本は,1995年1月から2001年3月まで経口
抗高血糖薬を服用している2型糖尿病の患者である。前年に心疾患のあるもしくはdigoxinや利尿剤を服用していた人は除外された。主要評価項目は,心
疾患の診断で入院もしくは外来通院しているとして定義される心疾患の事象であった。
結 果:TZD投与患者群(n=5,441)は,コントロール群 (n=28,103)よりも若かったが,冠動脈疾患もしくは糖尿病の合併症を有し,ACE阻害薬,β-
阻害薬,metforminもしくはinsulinを投与され,HbA1cもしくは眼科検査を受ける傾向が強かった;また併存症の罹患率も高く,コストも
高かった(すべてP<0.05)。しかし,それらの変数の調整後でも,TZDの使用は心疾患を予測するものであった(hazard
ratio = 1.7,P<0.001)。調整後の40ヶ月での心疾患の事象は,TZD投与群は8.2%,コントロール群5.3%の発生であった。
また,TZDに関連する心疾患のリスクの未調整のハザード比は1.69だった(95%信頼区間1.38-2.06,P<0.001)。40ヶ月での
心疾患の事象のKaplan-Meierの推定では,TZD投与群は8.8%,コントロール群は6.6%の発生であった(表1)。
TZDの種類によるハザードリスクの差について,global仮説検定(多群間検定)で有意差は見られなかったが,心疾患の発生率は
troglitazone(?400mg/日),rosiglitazone(?8mg/日),pioglitazone(?45
mg/日)の順に,3.15%,2.30%,2.03%であった。(表2)。
結 論:この観察研究の結果は,TZDは心疾患のリスクを増加する可能性があることを示した。医師は心疾患の患者には注意深くTZDを使用し,これらの薬
物を服用している患者(特に心血管障害の患者)では,息切れなどの心疾患の徴候がある患者には代替治療を検討すべきである。
リスペリドン,オランザピンによる脳血管障害
FDA Patient Safety News (2003年11月,2003年11月3日掲載):・Janssen
Pharmaceutica のRisperdal(risperidone)に関するWarning;表示の『警告』の項に,臨床試験において痴呆に関連した精神病を治療された高令
者において死亡を含む脳血管の有害事象(脳卒中,一過性脳虚血発作)がみられたことについて,痴呆に関連した精神病に対して承認されていないことなどを追
加
リスペリドンは統合失調症にしか適応はないが,わが国でも実際には痴呆患者の精神症状に対して使われているので,同様の注意が必要である.
FDA Patient Safety News(2004年5月,2004年4月30日掲載)・Zyprexa(olanzapine)に関する警告;
Eli Lilly,統合失調症および双極性障害治療薬Zyprexa(olanzapine)の表示の『警告』の項に脳血管有害事象に関する情報を追加。痴呆関
連精神病の治療に投与されていた高令者において脳血管有害事象が発現したこと,死亡例があること,痴呆関連精神病に対して承認されていないことなど
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Itraconazole誘発性うっ血性心不全
Itraconazoleによる抗真菌治療は,CHF(うっ血性心不全)に関連がある。このまれではあるが重篤な副作用と,個々の患者における
itraconazoleによる治療のリスクとベネフィットの考慮の必要性について,処方医に注意を喚起する。Itraconazoleによる治療を開始
する前に,うっ血性心不全の徴候と症状について患者に知らせなければならない。
Itraconazoleは局所および全身の真菌感染の治療に用いられる
Itraconazoleは,ニュージーランドで皮膚および爪の真菌感染症,外陰部腟カンジダ症,全身性真菌症の治療に対して承認されている合成
triazole誘導体である。Itraconazoleは幅広い抗真菌スペクトルを持ち,真菌細胞膜の必要成分であるergosterolの合成を阻害
する。
Itraconazole使用に関連したCHFのニュージーランドの症例報告
Itraconazoleは陰性変力作用を示し,CHFの報告に関与している。副作用モニタリングセンター(CARM)は,itraconazoleによ
る治療が関連したCHFの以下の報告を受けている。
41歳の健常男性が足指爪真菌症で,3ヶ月間itraconazole(400mg/日)のパルス療法(1ヶ月毎に1週間)を受けた。パルス療法を 受けた週ごとに,くるぶし腫脹,体重変動,労作性息切れ,顔面腫脹が現れた。4ヵ月後,足指爪真菌症が再発したので,itraconazole (400mg/日)パルス療法を6ヶ月間受けた。その5ヶ月目に患者は,顕著な体重増加(1ヶ月に6kg),末梢性浮腫,左側胸部鈍痛,血圧上昇が現れ た。心エコーを行ったところ,軽度の左心室肥大以外の所見は正常範囲内で,スポーツ心を示していた。他の臨床的症状もなく併用薬もない患者が, itraconazoleパルス療法を受けた後,心不全と診断され,入院した。Itraconazoleを中止したところ,患者は後遺症もなく回復した。
危険因子のない患者においてもItraconazole誘発性CHFを考慮すること
Itraconazole誘発性CHF の機序は,現在のところ解明されておらず,心臓障害への可逆性もわかっていない。CHFの危険因子がある患者とそうでない患者におけるCHFの比較発生率
を得るには,十分なデータがない。そのため,itraconazoleは誰にでもCHFを起こす可能性があり,ベネフィットが明らかにリスクを上回らない
限り,CHFの既往がある患者には使用すべきでないということを,処方医に注意喚起する。リスク?ベネフィットの評価は,適応疾患の重篤度,および心臓ま
たは呼吸器疾患の既往がある場合など,CHFに対する個々人での危険因子を考慮しなければならない。危険因子のある患者には,治療開始前にCHFの徴候お
よび症状を知らせるべきである。浮腫または息切れを呈しているItraconazole服用患者においては,鑑別診断の一環としてCHFを判断すること。
Itraconazole使用中にCHFが進行した場合は,治療継続のリスク?ベネフィットを他の全身性真菌治療薬の有用性に対して再検討すべきである。
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Lee WM. Drug induced hepatotoxicity. N Engl J Med 2003;349:474-85.
肝障害は最も多い薬剤副作用であり,ここ5年間でも2つの薬剤(bromfenac & triglitazaone)が承認後,市場から引き上げられたように,引き上げの最大の原因である.また,合衆国では急性肝不全の原因の半分以上が薬剤 性肝障害である.また,入院が必要な肝障害の2割を占める.このように薬剤性肝障害は臨床的に重要な問題である.下記のその要点をまとめた.
1.薬剤性肝障害の3/4以上が(用量とは関係ない)idiosyncracyであり,アセトアミノフェンに代表されるような用量依存性型の肝障害 は少ない.
2.idiocyncracyによる肝障害は1/1000?1/100,000の確率で起こる.
3.idiocyncracyによる肝障害は服薬開始から5-90日の間に起こる.
4.症状が起き始めてからも使用し続ければ重症化して急性肝不全となる例が多く,isoniazideのように服用を続けても重症化しないのは例外 的である.
5.どういうわけか女性が7割以上を占める.
6.complementary/alternative medicineによるものが増加している.これは日本でも同様.
7.アレルギー性反応の症状はほとんどの例で欠如する.
8.原因薬剤同定に役立つ検査法はない.したがって同定はしばしば困難である.
9.アセトアミノフェンの場合のN-アセチルシステイン以外に解毒薬はない.ステロイドの使用はcontrolled studyがない.
10.審査の過程で:薬剤性肝障害を95%の信頼性で有意に検知するためには,薬剤性肝障害の起こる割合の3倍,症例数が必要である. idiocyncracyによる肝障害の確率は1/1000?1/100,000だから,どんなに肝障害の確率が高い薬でも3000例必要ということにな り,第III相試験でも捉えることは不可能である.結局,市場に出てからはじめてわかるということになる.
11.ケーススタディ:
1)ブロムフェナックの場合:NSAIDとして97年に承認された.承認時は10日間以下の使用という条件が付けられたが,市場に出てからはその制限が厳
守されるべくもなく,50例の重篤な肝障害が明らかとなって翌98年6月には販売中止となった.すべての肝障害例で30日以上使用されていた.
2)トログリタゾンの場合:インスリン抵抗性改善剤として97年1月に華々しく登場した.臨床試験では時に正常上限の8倍を越えるトランスアミナー ゼ値の上昇が見られたが,可逆的であり,肝不全例はなかった.市場に出た後,肝不全例が出始めたが,当初はベネフィットが上回るとして,すぐには販売中止 とはならなかった.しかし,その後,月ごとの定期的な肝機能検査を添付文書に追加したにもかかわらず,重篤な肝障害例が90例を越え(そのうち68例が死 亡,10例が肝移植を必要とした)たため,承認から3年後に販売中止となった.
ニュージーラン
ドの薬事規制当局のホームページからPrescriber Update Articles(2003.10)
1. Drug Hypersensitivity Syndrome
薬剤性過敏症症候群
薬剤性過敏症症候群は重篤な症状を伴い,生死に関わる可能性がある。これは,発熱,発疹および内臓の症状を伴うのが特徴である。被疑薬の同定および早急な
投与中止に加え,迅速な診断が重要である。原因薬剤の再投与は絶対に避けること。構造類似薬剤への交叉反応は一般的である。一親等血縁者間では,この症状
が重篤化する傾向にある。
◇発熱,皮膚反応が最初の指標
薬剤性過敏症症候群(DHS)は,好酸球増加と全身症状を伴う薬物反応(DRESS)と呼ばれることがある。この症候群は発熱,発疹および内臓の症状(肝
炎,心筋炎,腎炎,肺臓炎)の3つの臨床上の組み合わせで定義される重篤な特異体質性多重システム反応で,薬剤への曝露後1-8週後に発現する可能性があ
る。発熱は一般に初期の特徴で,通常は広範で長期に丘疹膿疱性または紅斑性の皮疹が続き,しばしば剥脱性皮膚炎に進行する。皮膚関連の変化の重篤度は,内
臓関連の程度と相関せず,無症候のまま,あるいは生死に関わる可能性もある。DHSの死亡率は約8%と推定される。そのため発熱と発疹が現れている患者に
は,血液検査をできる限り早急に実施すべきである。好酸球増加と非定型リンパ球増加が一般的で,症例の30%に及ぶ。Allopurinol,抗けいれん
薬(特にcarbamazepine,phenobarbital,phenytoin),sulphonamidesが最も原因となりやすい薬剤であ
る。抗けいれん薬によるDHSの発現率は,1/10,000と推定されている。
◇薬剤性過敏症症候群を起こすと報告されることの多い医薬品
Abacavir, Allopurinol, Atenolol, Azathioprine, Captopril,
Carbamazepine, Clomipramine, Dapsone, Diltiazem, Gold salts,
Isoniazid, Lamotrogine, Mexiletine, Minocycline, Nevirapine,
Oxicam NSAIAs, Phenobarbital, Phenytoin, Sulphasalazine, Sulphonamides,
Trimethoprim
◇病態生理学は不明
DHSを起こす根本的な機序はほとんど解明されていない。活性酸化代謝物の解毒の欠陥および遺伝的素因が,slow
acetylatorのように,この症候群の病態生理学に関与が示唆されている。ウイルスの重感染?特にヒト・ヘルペス・ウイルス6(HHV6)の活性
化?も疑われている。
速やかな認識と服用の中止が予後を改善する
DHSのさまざまな発現は,診断にかなりの混乱をもたらしており,薬剤の関与も強く疑う必要がある。診断は臨床症状(発熱,発疹および内臓の症状の組み合
わせ)に基づき,好酸球増加と肝機能検査値の異常所見が裏付けとなる。治療としては,疑わしい薬剤をすべて早急に中止し,症状の対症療法を行う。
DHSは曝露後8週間まで発現の可能性があるので,原因薬剤の同定には高度な慎重さが要求される。薬剤の使用と症候群の発現との時間的因果関係が,最も重
要な指標となる。DHSが起きた患者は,原因薬剤への再曝露を避けなければならない。
◇ステロイドの全身投与はある程度効果がある
副腎皮質ステロイドの全身投与が,剥脱性皮膚炎,肺臓炎かつ/または肝炎等のより重篤なDHSの症例に通常用いられる。副腎皮質ステロイドが漸減されると
再発の可能性があり,治療は何週間にもわたるかもしれない。比較臨床試験がないので,副腎皮質ステロイドの予後への効果は不明である。
◇交叉反応と家族の疾病素質に注意する
交叉過敏反応は,主な3つの芳香族の抗けいれん薬(phenytoin,carbamazepine,phenobarbital)間で知られており,こ
のうちの1剤でDHSを経験した患者は,3剤とも避けなければならない。エビデンスはわずかな症例報告しかないが,交叉反応はoxicam
(piroxicam,tenoxicam)などの非ステロイド性消炎鎮痛剤でも起きる可能性がある。DHSでは遺伝的素因が考えられるので,同じ薬剤に
対して過敏性反応を示すリスクが高いことを一親等血縁者には知らせるべきである。
COX-2阻害剤は,期待されていたほど,胃腸障害が少ないわけではなく,重篤化するケースもあり,注意が必要である。同様に, Steavens Johanson 症候群などの重篤な皮膚障害についても注意が必要である。最も,注意すべきは,循環器障害で,心筋梗塞などの血栓症の発生が従来のNSAIDsに比べ有意 に高い。COX-2阻害剤は血小板機能に影響を与えないので,数種の非選択的NSAID類(例えばnaproxen)のように抗血栓性心血管保護効果を示 すことはないと考えられている。
COX-2阻害剤はあなたが期待していたほど安全な薬ではないし,NSAIDsの嫌な副作用を解消できる魔法の薬でもない.NSAIDsよりも多少 はましという程度.さらには,NSAIDsにはなかったような副作用が明らかになってくるかもしれない.以下,-COX-2阻害剤の安全性について-(海 外関連機関医薬品安全性情報より)
Celecoxib
各国とも,大規模臨床試験CLASS研究の結果を重視した安全性情報を出している。
消化器障害については,従来のNSAIDsよりも若干軽度な傾向。しかし,出血,潰瘍など重篤なケースもあり。
BMJ(2002;324:1287)によると,diclofenacやibuprofenと同程度の消化器障害を示唆した。
オーストラリアからは,重篤な皮膚障害,腎不全や浮腫も数件報告あり。
また,warfarinとの併用の場合,INRが上昇し,胃腸出血,頭蓋内出血等の重篤なケースが多く報告されており,注意を呼びかけている。これには,
代謝酵素CYP2C9が関与しているのではとしている。
Rofecoxib
各国とも大規模臨床試験VIGOR研究を報告。
消化器障害については,rofecoxibはnaproxanに比べ半分以下だが,その危険性を指摘。
特に,高齢者は要注意で,重篤な胃腸障害が稀に起こる。
オーストラリアの報告では,消化器障害の発生率は,rofecoxibはcelecoxibの1/6弱である。
循環器障害は高い発現率で,MCA(現MHRA)は心不全,心筋梗塞の発現で,死に至るケースを指摘している。FDAは循環器の血栓塞栓症は,
naproxenに比べ高率で発生するとしている。
ニュージーランドから重篤な肝障害についての報告もあった。
また,celecoxibと同様に,rofecoxibもwarfarinとの併用の場合,INRが上昇し,重篤なADRが報告されてお
り,注意を呼びかけている。
Parecoxib
EMEAが重篤な皮膚障害の危険性を指摘。Steavens Johanson 症候群,多形性紅斑,中毒性表皮壊死症,剥脱性皮膚炎等。
NHS(英国)は短期間の副作用として,消化不良,末梢性浮腫,血圧変化,そう痒,乏尿等で,術後治療にketorolacにとって代わる鎮痛剤ではない
かとしているが,他の鎮痛薬に比べかなり高価である。
また,VIGOR studyによると,COX-2阻害剤は抗血小板作用に欠けるのではとしている。
Rofecoxibはnaproxanに比べ有意に消化器障害が少ないが,有意に血栓症(心筋梗塞等)を引き起こす確率が高いとしている。
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雑記帳:個人用の備忘録です.
Lancet(9416)1179?1183/(2004.4.10) Pergolideによるパーキンソン病の治療と拘束型心筋症の関係
Ann. Pharmacother. 37(11)1730/(2003.11) Vitamin B12欠乏症 長期胃酸抑制治療(Omeprazole,Ranitidine,Cimetidine,Sodium
Bicarbonate)に関連したVitamin B12欠乏症:6症例(高令者を含む)の報告
Zoledronic Acidの使用による腎不全
〔N Engl J Med. 2003 Oct 23;349(17):1676-1679.〕
ビスホスホネート(bisphosphonates)と眼疾患
医薬品安全性情
報Vol.1 No.32,p.4