屍累々:それでもまだやる?
ーアルツハイマー病ワクチン試験の実行可能性についてー

Usefulness of data from magnetic resonance imaging to improve prediction of dementia: population based cohort study. BMJ 2015;350:h2863

日本に特別でない町はないのと同様に、フランスにも特別でない町はないだろう。それでもディジョンDijonは飛び切り特別な町である。あの、一体どことどこが敵味方なのか、いまだに私にはわけのわからない百年戦争の歴史で、何度となく名前が出てくるのが、ブルゴーニュと、その「首都」ディジョンである。これは、そのディジョンで行われた前向きコホート研究である。

ディジョンに住む65-80歳の認知症のない1721名を対象とした。このコホートで、10年間で、95%のフォローアップが完了した。その間、119例(6.9%)が認知症と診断され、そのうち84人がアルツハイマー病だった。認知症発症までの平均期間は観察開始後6.7年だった。この論文の目的は表題の通りであり、アルツハイマー病ワクチンの開発とは関係ない。そして、この種のワクチン開発に携わっている人間も、こんな論文は自分の仕事には一切関係ない、できれはそう思ってやり過ごしたいだろう。

65-80歳の1721例を10年間フォローして84例だ。アルツハイマー病ワクチンの潜在的パワーはどの程度か私には知る由もない。しかし、名だたるメガファーマがことごとく失敗し、屍累々となっているアルツハイマー病ワクチンの潜在的パワーが、「有効性が証明された」とお祭り騒ぎをしているエンパグリフロジンを上回るとは到底思えない。そのEMPA-REG OUTCOME試験では,平均3年間の観察期間で,プラセボ群2333人のうち,エンドポイント(心血管イベントの複合エンドポイント)に達したのが282人である.非常に単純に計算して,2333x282÷84=7832.one arm だけでも8000人、検証的試験となればtwo armの合計16000人を10年間フォローだ.試験が終わる頃は,プロジェクトメンバーは,みんな会社から消えてるだろう.

エンパグリフロジンより,もっと凄い「歴史的な」パワーがあるかもしれないじゃないかって?そんな妄想が,これまでの屍累々を招いてきたんだろうよ.アルツハイマー病ワクチン試験の実行可能性を今時信じているような人間は、ガダルカナルのことを笑えない。それともディジョンのような「歴史的な」町で試験をやれば,素晴らしい結果が得られるとでも言いたいのだろうか?

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