具体的な裁判外紛争解決(ADR)案が いくつかは出ています。しかし、ADRと密接にリンクしている損害補償システムの資金をどうするかで完全に行き詰っています。現在の医 陪責がとっくに破綻しているのに、無過失責任まで含めればそれよりもはるかに損害 補償総額が大きくなるシステムなんかできっこないのです。
特に日本医師会の医師賠償責任保険の惨状は目を覆うばかりで、損保会社(実質的には東京海上日動)の完全な持ち出しになっています。すでに
2003年の時点で、日医医賠責保険の発足時から日本医師会が損保会社に支払った保険料(会費)より、損保会社がA会員に支払った保険金の方
が、すでに57億円の支払超過となっており、さらに、これに現在未解決の事件で、今後の支払いが予測される未払い保険金を加えると、その総額
は142億円の支払超過となっていた(2003
年3月16日付けの北海道医報)
弁護士兼医師の児玉安司先生によれば,医師会のファンドが70億円,保険会社全体のファンドが数百億円に対
し,潜在的賠償額は3600億円/年(医療機関における年間死亡者72万人のうち、1%が 何らかの過誤:明らかなhuman
errorでないものも含む:による死亡で、一人当たり
5000万円として)。さすがに医師会もまずいと思って,事故リピーター医師の排除にようやく重い腰を上げ始めましたが,このような賠償額と
ファンドのけた違いの差を知ると,リピーター医師の排除や
保険料の引き上げでは,どうにもならないことは明らかです.医賠責破綻は米国だけじゃないんです。
一方、2015年10月に設立予定の医療事故調査・支援センター(医療事故調)は事故原因を調査するだけで、医賠責とは全く関係がありませ ん。金銭を含めた賠償・救済について新たな仕組みができたわけではありません。ましてや欧米並みの医師監査・懲戒制度ができたわけでもないの です。医療事故調の発足が医事裁判にどういう影響を与えるのかもわかりません。