Embden-Meyerhof経路
【Embden-Meyerhof(エムデン-マイヤーホフ)経路とは】
Embden-Meyerhof経路
 
 
いわゆる解糖系と呼ばれる反応はグルコースからピルビン酸を産生する過程でATPを得る反応ですが、この解糖系で、ほとんと全ての生物が利用している代謝経路がEmbden-Meyerhof経路です。赤血球はミトコンドリアを持たないので、TCA回路(クエン酸回路・Krebs回路)は作動せず、エネルギー供給(ATP供給)は解糖系に依存しています。多段階の反応で、多くの反応が可逆的な反応ですが、この中で「ヘキソキナーゼ」と「ホスホフルクトキナーゼ」並びに「ピルベートキナーゼ」の反応が、生理的条件下ではほぼ逆行できない、一方向の不可逆的な反応です(正確に言えばこれらの反応も可逆的です。そもそも酵素反応全てが可逆的な反応です)。この不可逆的な反応の中の「ホスホフルクトキナーゼ」が反応全体の速度を調整しています。ホスホフルクトキナーゼはアロステリックな酵素で、ADPやAMPによって反応が促進され、逆にATPとクエン酸で阻害されます。この反応調整の結果、エネルギー充足率が低い場合(ATPが減少し、ADPやAMPが増えている状態)は反応が促進され、充足率が高い場合(十分なATPが存在している場合)には活性が低下するという合目的な機構と考えられます。
反応の過程で2分子のATPを必要としますが、反応全体では4分子のATPを産生しますので、差し引き2分子のATPを得ることができます。必ずしも効率の良い反応ではありませんが、酸素を必要としない(嫌気的な)反応です。Embden-Meyerhof経路の最終産物であるピルビン酸はヒトの場合はTCA回路を用いることで効率良いATP産生に利用されます。

【2,3-DPG】
2,3-DPGは2,3-Diphospoglycerateの略です。2,3-DPGは2,3-Bisphospoglycerateとも表記されますので2,3-BPGの略が使用されている場合もあります。解糖系の1,3-Diphospoglycerate (1,3-DPG)から時ホスホグリセロムターゼの作用で産生されますが、図を見ていただくとわかるように、この経路を経ると、ATP産生がされません。この意味で、この経路はメインの反応系ではありません。
2,3-DPGの濃度はヘモグロビンに結合すると、その乖離曲線が右に移動します(ボーア効果)。前述のように2,3-DPGはEmbden-Meyerhof経路のメインの代謝産物ではありませんが、Embden-Meyerhof経路が活性化されている状態では、1,3-DPGの上昇に関連して2,3-DPGも上昇し、乖離曲線が右に移動し「酸素を放しやすい状態」となります。特に酸素不足のためにクエン酸回路(Krebs回路)が十分に働いていない状態では、ピルビン酸の上昇とそれに伴う2,3-DPGの上昇により、より「酸素を放しやすい状態」になると考えられます。
先天性のEmbden-Meyerhof経路の異常症では、その異常部位によって2,3-DPGの値は変動すると考えられ、ヘキソキナーゼ欠損症では1,3-DPG産生が低下するため2,3-DPGは低下する一方、ピルベートキナーゼ欠損症では1,3-DPGが蓄積するため、2,3-DPGは上昇します。同じEmbden-Meyerhof経路異常症でも酸素解離曲線の特性が大きく異なります。