鉄欠乏性貧血 |
鉄欠乏性貧血は、貧血の中で最も多い貧血で、市中で認める貧血の半数以上が鉄欠乏性貧血です。
生体内の鉄の多くは再利用されているいます。これに対して、鉄の吸収効率は必ずしも高くありません。しかし体外への喪失する鉄は、通常、皮膚の脱落や上皮細胞の脱落によるものであり、このため、多くの場合は食事から摂取される鉄と体外へ喪失する鉄の量は均衡が取れています。しかし,体外への喪失の増強(失血など)や成長に伴う消費の増大、もしくは何らかの理由により鉄摂取量の減少の結果、鉄の収支バランスがマイナスに傾くと貯蔵鉄が減少し鉄欠乏状態になり鉄欠乏性貧血となります。
ただし鉄の多くは再利用されていますし、またある程度の量の鉄がフェリチンなどに貯蔵鉄として保存されていますので、鉄の欠乏速度は一般に徐々に起こり貧血の進行もゆっくりとしたものです。このため多くの症例はほとんど症状を呈しない無症状であり、検診などでヘモグロビン低下を指摘される症例も多く存在します。鉄剤に反応する症例が多く、輸血の対象となる症例はほとんどありません。
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無症状である症例が多いのですが、詳しい問診をとると、易疲労感や持久力低下,息切れ,筋力低下,めまい,蒼白など貧血に起因するものが認められます(詳しく聞くと、「そう言われれば………」という程度の場合も多くあります)。
重度の鉄欠乏状態では貧血の症状に加え,特異的な症状がいくつか現れる場合があります。この中には舌炎や口角炎,爪甲の陥凹(匙状爪)などがあります。また異食症欲求(例えば氷,土,絵の具などを食べたいという異常な欲求)を示す場合もあります。鉄欠乏性貧血に加え舌炎や嚥下困難の三主徴を示す場合をPlummer-Vinson症候群(もしくはPaterson-Brown-Kelly症候群)と呼ぶ場合もあります。
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ヘモグラムにてHb低下
MCV低下、MCH低下、MCHC低下 赤血球数の低下は軽度である場合もあります 赤血球分布幅(RDW) 網状赤血球数はほぼ正常 血小板数が増加する場合があります 末梢血塗抹検査 大小不同変形赤血球症(anisopoikilocytosis) 菲薄赤血球 細片状奇形赤血球 網赤血球減少 骨髄検査 小型赤芽球過形成 マクロファージ可染性鉄(-)(貯蔵鉄の枯渇) (通常骨髄検査までは行いません) 生化学検査 血清鉄;低下 鉄結合能上昇(TIBCもしくはUIBC) 血清フェリチン低下 |
サラセミア
サラセミアマイナー(ヘテロ異常)は小球性貧血を呈します。健常人の1000人に1名程度の疾患頻度ですので必ずしも珍しい疾患ではありません。赤血球数が50 x 106/μLと比較的多いことが多く、生化学検査では血清鉄や鉄結合能は正常です。ただし両者が合併することもありますので、治療介入後も経過観察は必要です
鉄剤不応性鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血の一種ではありますが、鉄結合能上昇(TIBCもしくはUIBC)は正常であることがあります。先天性の場合も後天性の場合も鉄剤の静脈内投与では反応します。
いわゆる二次性貧血
慢性炎症などによる骨髄抑制、鉄利用経路の障害などで起こります。正球性貧血に分類されますが、MCVは個体差が大きく、MCVのみで鑑別することは困難です。一般に血清鉄は低下(このため誤診されることもありますが)していますが、鉄結合能は上昇していないことが多く認められます。
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経口的鉄補充剤もしくは非経口鉄剤(静脈投与)
ヘモグロビンは最初の1-2週間までほとんど上昇しませんが,その後は週に0.7ー1g/dLのペースで上昇します。基準値近くに達すると、増加のペースは落ちますが、通常2ヶ月程度で改善します。改善が思わしくない場合は、鉄欠乏の原因となる出血の持続,基礎疾患としての感染または悪性腫瘍,鉄摂取量の不足,または経口鉄剤の吸収不良が示唆される。
なお鉄欠乏の原因(慢性的な出血など)の原因をせずに鉄剤を投与することは不適切な治療です。軽度の貧血の場合でも,出血の原因や鉄摂取不足の可能性を同定(少なくとも考慮)しなくてはいけません。
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