鉄剤不応性鉄欠乏性貧血 |
小球性低色素性貧血で鉄欠乏状態であることがが明らかであるものの、鉄剤投与、特に内服投与に反応しない症例があり鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron refractory iron deficiency anemia, IRIDA)と呼ばれています。先天性の場合と後天性の場合があります。
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後天的な鉄剤不応性鉄欠乏性貧血では原因として、萎縮性胃炎特にH. pyrori菌関連萎縮性胃炎や自己免疫性萎縮性胃炎が挙げられます。これらの疾患では、胃酸分泌の低下のために3価の鉄が2価に還元されずに、その結果十二指腸からの鉄の吸収率が低下する機序が考えられていますが、詳細な原因は十分には解明されていません。またプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーの長期の内服でも鉄欠乏性貧血が合併するとの報告もあます。これらの病態では鉄剤の静脈内投与は効果があります。
鉄剤は消化器症状(ムカムカ感、便秘、下痢など)が強く出る場合もあり、薬剤コンプライアンスが不良な状態でも鉄剤不応状態と誤って判断してしまう場合もあります。また子宮筋腫による月経過多の状態や消化管出血で慢性の出血が継続している場合、さらに妊娠中の方や授乳中の方、運動選手や成長期の方などでは鉄の需要が増大し内服による吸収では不十分な場合も鉄剤不応のように見えてしまいます。
これらの病態では血清鉄低下、鉄結合能上昇、フェリチン低下と通常の鉄欠乏性貧血と同様の病態を示します。
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ヘプシジン抑制に関わるマトリプターゼ2(TMPRSS6遺伝子でコードされるセリンプロテアーゼ)の異常によって発症する疾患が報告され、先天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血と呼ばれています。出生時よりヘプシジン産生が亢進しているために腸管からの鉄吸収が障害され,鉄欠乏性貧血をきたすが,ヘプシジン高値のため血清フェリチン値は低下しません。腸管からの吸収低下のため経口鉄剤には不応ですが、静注鉄剤にはある程度反応します。IRIDAは,ヘプシジン亢進が認められる慢性疾患に伴う貧血との鑑別が重要となります、しかし現時点では鑑別には遺伝子検査が必須となりますが,現状では臨床現場での検査困難であるため詳細な臨床像は十分に分かってません。
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後天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血では静脈投与に反応します。また経口的鉄補充剤に対する反応性は低下していますが、全く反応しないわけではありません。H. pyrori菌関連萎縮性胃炎では除菌によって改善する場合もあります。またプロトンポンプインヒビターやH2-ブロッカー関連の場合は中止により改善する場合もあります(貧血改善のため中止する必要はありません)。
先天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血では経口的鉄補充剤でも静脈投与でも反応性は低下していますが、全く反応しないわけではありません。 |