←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』51-52頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日

薬性記 一巻一冊(690.9-319-1)写字台本

浅井周璞講 貞享二年〔松岡玄達自筆〕写本 書高24.0×幅17.2p

 本書名は内題より採った。内題下に「一名六十味」とあり、扉書に「周璞浅井先生講聞記/薬性記備忘記 六十味」、書末に「薬性記六十味抄 終/貞享二乙丑(一六八五)冬十有二月五日/松岡玄達尚白書」と記される。全体の文字は若年時の玄達特有のものである。以上より、本書は浅井周璞の講義録で、松岡玄達が一六八五年の十二月五日に書き終えた自筆本と認められる。本書の伝写本を含め、他に所蔵記録はみえない。

 浅井周璞(一六四三〜一七〇五)は周伯とも書き、名を正純、策庵と号した。味岡三伯門下の高弟で、井原道閲・小川朔庵・岡本一抱とともに味岡門下の四傑と称された。のち尾張医学館を主宰した浅井家の基礎は、周璞によってできた。本書は彼が四十三歳の時の講義録となる。

 筆録した松岡玄達(一六六八〜一七四六)は字を成章といい、通称は恕庵、怡顔斎と号した。これまで知られていた伝では、初め儒を山崎闇斎と伊藤仁斎に学び、次いで稲生若水に本草を学んだことになっていた。本書は十八歳の時の筆録で、医を浅井周璞に学んでいたことが新たに知られた。のち本草学者となり、薬物鑑定に長じ、吉宗の享保の改革に伴う国産薬の調査に加わり、力を発揮した。著者は多く、弟子に戸田旭山・小野蘭山がいる。

 本書は中焦穀府の消化機能に効果がある薬味六十種につき、名称由来・類品鑑別などの名物論、調製加工法、効能、使用法ほかが、ゾ体で記される。周璞の手許にノート的な原稿があり、それを読みあげる形で講義していたらしい。写字台文庫には玄達自筆の受講録が多数あり、周璞について医学の各分野を学んだことを示している。

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