〔浅井周伯講〕 松岡玄達録 貞享三年〔玄達自筆〕写本 元禄元年温知斎旧蔵 書高24.0×幅17.5p
本書名は外題にあり、講義録であることを示す。内題には「本草抜書」と記す。上巻の首行下方に「■■散人元達記」、下巻の奥書に「貞享三丙寅(一六八六)九月十九日/松岡氏玄達□□(老人)記」、その裏面に「元禄元年(一六八八)温知斎/蔵本」と記される。本文ともに松岡玄達(一六六八〜一七四六)の自筆と認められ、本書を筆記したとき十九歳だった。
これを講義した人物は明記されないが、上巻の序文に相当する部分に、「コノ外ニ六十味ガ一巻アルゾ」と記す。この「六十味」一巻とは『薬性記』一巻(写字台本、690.9-319-1)の別名で、浅井周伯(一六四三〜一七〇五)の講義を玄達が貞享二年十二月五日に筆録し終えている。したがって本書も周伯の講義録で、このとき彼は四十四歳だった。
玄達と周伯の略伝は前掲の『薬性記』の解題に記した。「本草抜書」と同名写本は国会図書館白井文庫・京大図書館富士川文庫・大阪府立図書館石崎文庫・都立日比谷図書館加賀文庫・刈谷市立図書館に各一点あるが、いずれも著者・筆写者の記録がない。一方、本書名と序文部分の記述からすると、周伯は明・李時珍の『本草綱目』から要点を抜き書きし、薬物の使用頻度順で甘草〜石膏の順に編成し、『本草抜書』と名づけていた。この書は『本草摘要』とも呼ばれたので、その講義録を玄達が『本草摘要講義』としたのである。
ところで『本草摘要』は元禄十年(一六九七)に一回だけ、京・西村喜兵衛が刊行している。しかし著者名や序跋もないため、中国で佚伝した兪汝言作の同名書の和刻かと疑われていた。いま比較すると、『本草摘要講義』は完全に『本草摘要』に基づき講義されている。したがって『本草摘要』の編者は浅井周伯であったことも、本書から明らかにし得る。