←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』 53-54頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日

内経経脈口訣 三巻一冊(695.3-67-1)写字台本

貞享三年(松岡玄達自筆)写本 書高24.0×17.0p

 本書名は扉書より採ったが、その上に貼られていた題箋には「十四経発揮講義」と記される。書末に「怡顔斎図書」の印記、「時貞享三歳次丙寅(一六八六)三月四日」の奥書がある。怡顔斎は松岡玄達の号で、本書の運筆は明らかに若年時の彼のものである。よって貞享三年の松岡玄達自筆写本と認めた。他には伝写本を含め所蔵記録がない。

 本書は一名を「十四経発揮講義」というように、文中には当時の講義録に多いゾ体が見られる。しかし誰の講義であるかの記述はない。このとき玄達(一六六八〜一七四六)は十九歳で、彼の講義用ノートとみるにはやや若すぎる。一方、彼は本書の九日後の同年三月十三日に、浅井周伯の講義を『難経本義記聞』(写字台本、690.9-83-1)として筆録していた。しかも『難経本義』と本書の講義テキストとされた『十四経発揮』は、ともに元・滑寿の作である。また本書を筆写した三月前の貞享二年十二月五日にも、浅井周伯の講義を『薬性記』(写字台本、690.9-319-1)として筆録していた。以上からすると、本書に筆録された講義者は浅井周伯だった可能性が高い。もし周伯(一六四三〜一七〇五)ならば、このとき四十四歳である。

 本書には『新刊十四経発揮』三巻をテキストとし、その序から巻下までの講義がまとめられているため、三巻本の体裁となっている。なおこの講義以前に和刻の『十四経発揮』は八回出版されているが、書名に「新刊」がつくのは寛文五年(一六六五)の京・山本長兵衛版しかない。恐らくこれがテキストだったのだろう。

 『十四経発揮』は元・滑寿(伯仁、一三〇四〜八六)の作で、気が流通する人体上の経脈十四本を解説した書。幕末までに計十九回の和刻があり、江戸期に広く読まれた。他方、中国では明末の翻刻を最後に清代の刊本がなかったため、明治になって和刻版が中国に伝入し、それがリプリントされている。

→各巻の画像