←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』65-66頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日

格致余論講義 一巻一冊(690.9-338-1)写字台本

〔松岡玄達録〕 江戸〔貞享頃 玄達自筆〕写本 書高23.6×幅17.0p


  本書名は外題より採った。扉書には「丹渓朱先生格致論抄」、書末には「格致余論抄」と記される。講義者・筆録者の記述はないが、松岡玄達の号である「怡顔斎」「怡顔斎図書」の印記があり、彼の旧蔵書と分かる。しかも本書は若年時の玄達特有の筆で記されており、明らかに自筆本と認められる。

  筆写年の記述はないが「丹渓朱先生格致論抄」として書き始め、「格致余論抄」として書き終ったのち製本され、「格致余論講義」の外題が与えられている。写字台文庫蔵の玄達自筆写本には同様の例が多く、その筆写は玄達(一六六八〜一七四六)が十九歳の貞享三年(一六八六)に集中している。本書の筆録年もおよそ貞享三年とみられるが、とりあえず貞享頃としておく。

 玄達のこれら一連の『・・・講義』等は、大多数が浅井周伯(一六四三〜一七〇五)の講義と明記、ないしその傍証が可能で、貞享二年から四年頃まで周伯について学んだことが分かる。本書の講義者を傍証する史料は見当らないが、如上からす ると周伯だった可能性が高い。なお周伯とともに味岡三伯門下の一人とされた岡本一抱は『格致余論諺解』を著しているが、本書の伝写本や周伯の『格致余論』 に関する書は他に所蔵記録をみない。

 講義のテキストとされた『格致余論』は元の朱丹渓(一二八二〜一三五八)が一三四七年に著した医論書 で、刺激的な議論に富む。明初に編纂された医学叢書の『東垣十書』に収められて以来、中国・日本で現在まで復刻され続けている。日本では、『東垣十書』本以外に本書のみも単行され、合わせて二十五回も刊行されるなど、江戸前期を中心に大流行した。そうした中で玄達も本書の講義を受けていたのである。なお玄達は『東垣十書』本の『溯集』についても受講録(写字台本、690.9-340-1)をまとめている。

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