←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』 23-24頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日

医経大旨 八巻八冊(690.9-40-8)写字台本

明・賀岳(汝瞻)編 明嘉靖三十五年序刊(余氏敬賢堂) 毎半葉匡郭20.3×13.5p

 当本には嘉靖三十五年(一五五六)の鄭曉の序があり、郡主の劉唐巖が太学生の郭文立に校正を命じ、これを刊行する旨を記す。また巻末には「余氏敬賢堂」の木記がある。その版式・字体も後期嘉靖版の特徴を備えているので、当本は嘉靖三十五年序刊の余氏敬賢堂版で、本書の初版と認められる。

 同版は上海図書館・上海中医薬大学図書館、日本の内閣文庫・武田杏雨書屋に各一点の所蔵が知られる。内閣文庫には別に刊年未詳の明版一点があり、これは『御文庫目録』によると寛永十六年(一六三九)に幕府の紅葉山文庫に収められている。恐らく当版も江戸前期に写字台文庫に架蔵されたのであろう。なお本書は明代に二回の刊印が知られるのみで、朝鮮版も和刻版もない。

 編者の賀岳は字を汝瞻という。明代中期の人で、浙江省海塩県の出身。挙子の道に進んだが、母の病を衆医が治せなかったことで儒から医に進んだ。彼は各地に旅し、脈法を韓克誠に、針法を胡翠岩に、医方を王維雍などに学んだ。帰ってのち、医に常師なく、明理が師であり、師に常術なく、円神が術であると悟り、歴代名医の治法を学び、それらに会通したという。本書の凡例に自著の『明医会要』が既刊されていると記し、彼の伝は『診脈家宝』『薬性準縄』の著書を挙げるが、いずれも伝本は見あたらない。

 本書は歴代諸賢の書から要点を摘録し、少し潤色を加えたものと凡例に自ら記す。本書名もこの意味を表している。また既刊の『明医会要』を人々が愛読してくれているのに、さらに本書を重出するのは他意あってのことではなく、郡主の推薦によるのだと記す。すると『明名会要』も類似した摘録書だったらしい。このように本書には、各書からの引用文等が医学全書形式に、第一の中風門から第八十九の針灸門まで配列されている。

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