昭和の香り
『三つ目が、製造元の富士フイルム富山化学による治験だ。三つの中で最も信頼性の高い研究だが、目標数は96例で大規模ではない。臨床研究に詳しい植田真一郎・琉球大教授(臨床薬理学)は「100人程度では、回復までの日数などの臨床的な効果の差が検出できない可能性がある。緊急時だからこそ、より多くの患者を対象にした治験を開始すべきだった」と話す。感染がピークを過ぎ、この後、患者を集めることは難しくなっている』(前のめり政権、異例発言かなわず アビガン月内承認断念 朝日新聞 2020年5月27日より抜粋)

100例(実際には96例にディスカウントされているが)というのは,私のような高齢者(まだ数え年だが)にとっては非常に懐かしい数字である.というのは,1998年に「効かない薬」と断罪されて消えていった「脳循環代謝改善薬」4成分[1-4]の,当初の承認の根拠となった試験を思い出すからである.ホパテ[3, 5]を対照(当時は「基準薬」と呼んだようだ)とした試験における症例数がホパテ100(程度):実薬100(程度)だったからだ.とは言っても,アビガンの場合には総数が96例だから,これをプラセボと実薬1群のhead to headとすると,各群48例の二群間比較となり,昭和と言っても,脳循環代謝改善薬が合計8000億円も売れた1980年代よりさらに遡り,キノホルムが大いに売れた [6] 1950年代あたりの香りになるだろうが.

アビガンのピボタル臨床試験(JapicCTI-205238)が古式ゆかしい/昭和の悪臭紛々たる所以は,症例数の少なさだけではない.肝心要の主要評価項目が,「体温,SpO2,胸部画像所見の軽快及びSARS-CoV-2が陰性化するまでの時間」というように,生命予後や入院期間といったハードエンドポイントとはほとんど関係ない代用エンドポイントの,これまた複合エンドポイントとなっている点も,往年の「全般改善度」を彷彿とさせる点も同様である.

参考記事
1.日本SOD研究会 脳代謝剤4種「効果なし」で「承認取り消し」
2.「いま医薬品を見直そう」 シリーズ まだまだある「効かない薬」「危ない薬」 1998年6月15日
3.脳循環代謝改善剤における 「改善率」の経年的変化の検討 臨床薬理 1999;30:197-198.
4.厚生労働省 再評価結果に基づく脳循環代謝改善薬4成分に係る措置について 1998年5月20日
5.大橋靖雄 臨床論文を読むための統合学習 第13回がん臨床試験のCRCセミナ―(2006/9/23~24)
6.スモンに関する調査研究班 薬害スモンの経緯

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