エピペン考
権限委譲による教育の重要性
はじめに
保健師助産師看護師法も、医師法も、昭和23(1948)年、今(2022年)から74年前にできました。現在働いている保健師、助産師、看護師、医師のほぼ全員が生まれる前にできた法律です。それ以後に何度か改正はあったでしょうが、その改正も医学の進歩とは別の都合でなされたものです。これらの法律はアナフィラキシーで瀕死の状態にある人を救うために「私たち」が行う行為を妨害するものではありませんし、この「私たち」を国家資格の有無で区別するものでもありません。

ここまでの話については→怖いのは医者の方←この記事に関して、保健師助産師看護師法(昭和 23 年法律第 203 号)第37条 云々に関してお問い合わせがあったので、その回答:

> これは、保健師助産師看護師法に抵触しないのでしょうか。
抵触しません。というか、この法律とエピペンの使用とは全く関係ありません。

エピペンはアナフィラキシーショックの現場に居合わせる可能性がある立場の人間ならば誰でも使えるようにしておかねばならないのです。食物アレルギーを持つ子供の家族はエピペンの使用を学んでおく使命&義務(!)があります。そのための動画も公開されています。→119エピペン使用方法1
「友達がエピペン使っています。 なので、この動画で使い方を学ぼうと思います。いざという時のために!!」(動画コメントより)

救急処置における看護教育一緊急時の注射・エピペンー 生活コミュニケーション学 : 鈴鹿短期大学生活コミュニケーション学研究所年報 1;2010:25-34

この論文を読めば、今回の愛西市における接種後死亡事故を巡っての来たるべき訴訟では、被告(国/自治体/医師会)が完敗を喫する事が既に12年前に明らかとなっていたことがわかります。(下記は論文より抜粋)

(2)兵庫県のアナフィラキシーショックの事例 (新聞報道より)
 2010年2月27日の読売新聞では、2010年1月、兵庫県の小学校で食物アレルギー疾患の男児が給食を食べ、アナフィラキシーショックを起こした。学校は保護者から預かっていた緊急用の注射を使わず、救急車要請をした。搬送前に駆けつけた母親が注射を打ち回復していたことが明らかとなった。市 教育委員会によると、男児は1月15日の給食で脱脂粉乳入りの「すいとん」を食べた後、目の周りが赤くなる症状や頭痛、嘔吐などを訴えた。学校は自己注射 薬を保管していたが、「注射をする取り決めを保護者と交わしていない」との理由で使わなかった。母親の注射により男児は2日間の入院で回復した。


> 現場で看護師は(エピペン注射は)怖くてできないかもしれません
既に12年前の時点で、学校の教師もエピペンの使用法を学んでおく必要が叫ばれていたのです。「エピペンは怖くて使えない」などという看護師はそもそも接 種会場で働くべきではありません。働けるのは金輪際アナフィラキシーが起こらないという職場だけです。そんな職場があればの話ですが。

>看護師が単独でアナフィラキシー診断と治療を行うことは、医師法に抵触しませんか?
上記記事の事例で自分の子どもの命を救ったおかあさんの行為が医師法に抵触するでしょうか?抵触しないとしたら、なぜでしょうか?

上記記事の事例で「注射をするのは医師法に抵触するので使わなかった」と学校側が「弁明」したとます。あなたはその弁明を受け容れますか?受け容れないとしたら、なぜでしょうか?

私は学生時代、心電図の読み方がよくわかりませんでした。よくわからないまま研修医になり、CCUの看護師に心電図の読み方を習いました。学生時代よりもはるかによく理解できました。あなたはどうでしたか?いつ誰に心電図の読み方を習いましたか?それはよくわかる説明でしたか?

以上の問答の背景にある問題を考える時のキーワードが「他の医療職に対する医師の父権主義」です。そうやって権限委譲(empowerment)による教育の重要性を理解することができるのです。

引 き継いだ医師が気管挿管をできずに目の前で失敗を繰り返し、患者の喉の中が血だらけになっていくのを黙って見ているしかできなかったと、私に涙ながらに訴 えてきた救急救命士もいました。杉山氏も救急の処置録の中に「コンビチューブを使って処置したが、私は気管挿管がベストであったと考える」という一文を見 て、彼らの無念さを感じたといいます。そして杉山氏は「救急救命士、気管挿管していたら3人救命の可能性高く」という記事を書きました。
「この記事は医学界からたたかれましたね。記事のあそこが違うとかここの事実が間違っているとか、ミクロな問題であら探しされました。そして、救急救命士の応急処置範囲の問題が論じられる臨床救急医学会を取材しようとしたら、中に入ることすら認められませんでした」(「違法報道がきっかけとなり救急救命士の気管挿管が認められた事例を検証する」より抜粋)

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