ご挨拶
会長 亀井 良政
埼玉医科大学病院 産婦人科 教授
第128回日本産科麻酔学会学術集会を担当させて頂く亀井良政です。
今、少子化傾向に歯止めが効きません。政府は、2023年5月の「こども未来戦略方針」で少子化を「わが国が直面する最大の危機」と位置づけ、『次元の異なる』少子化対策として「①構造的賃上げ等と併せて 経済的支援を充実させ、若い世代の所得を増やすこと、②社会全体の構造や意識を変えること、③全てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること、の3つを基本理念として抜本的に政策を強化する。」としています。少子化傾向の中でどのような周産期医療体制を再構築しようとしているのか、国や厚労省の中長期的ビジョンが未だ示されない中で、現在厚労省は2024年から出産費用の見える化サイトを開設し、2026年度の診療報酬改定に向けた正常経腟分娩の保険診療化の検討を本格化させています。
現在、多くの分娩取扱施設が経営難に陥っている中で、大都市圏を中心に無痛分娩の急速な普及・拡大が進んでいます。分娩取扱い施設の選択肢がある地域では無痛分娩を取り扱わない施設が選ばれなくなり、これまで無痛分娩の実績が全くなかった分娩取扱施設が、単に分娩数の確保のために無痛分娩を新規に開始するようになりました。しかしながら、このような新規参入施設では、当然ながら経験不足、訓練不足、による重大な有害事象が懸念されます。
今後、ますます無痛分娩の要望は増加する中で、安全で質の高い無痛分娩提供体制を整備する必要がありますが、特効薬はありません。短期的には、無痛分娩に関わる全ての職種の人たちが協力して、共通の認識に基づいて安全に無痛分娩を実施するためのマニュアルの整備とシミュレーション訓練が必要です。また、産科麻酔の認定医制度については、麻酔科医を対象とした認定制度は2025年度には開始予定ですが、産婦人科医についてはまだ十分な検討が始まっていません。今後は、比較的小規模で麻酔科医が常勤していない分娩取扱施設でも、産婦が希望すれば無痛分娩が提供できるような産婦人科医の養成が必要です。彼らの麻酔科研修の質と量についての検討と研修体制の整備が本学会の喫緊の課題であると認識しています。加えて、医師の働き方改革に関連して、産科麻酔業務の看護師へのタスクシフトと米国の麻酔看護師に相当するような資格の創設についても検討を開始する必要があると思います。
この様な経緯から、本学術集会のテーマを『多職種で創出する安全な産科麻酔』とさせて頂きました。麻酔に限らず医療は安全が第一に担保される必要があります。参加者皆さんで安全な無痛分娩の管理について見つめなおす機会になればと願っております。
会期は多くの関係者がご参加頂けるように2024年11月30日(土)、12月01日(日)の週末2日間、会場はさいたま市大宮駅から徒歩3分の大宮ソニックシティとさせて頂きました。懇親会は国内に2か所しかない鉄道博物館で開催させて頂く予定です。深秋の埼玉県で、皆さんとお会いできることを楽しみにしております。