HELICS指針:HOT基準番号・YJコードについて

1. 医薬品HOTコードマスター

HELICS協議会が発足して最初にHELICS指針として採択された標準が「医薬品HOTコードマスター」です。1990年代後半、複数の医薬品コードの対応付けを可能とする管理番号として、「HOT基準番号」が策定され、2003年には「医薬品HOTコードマスター」がHELICS指針となり、同年、厚生労働省標準規格として承認されています。「HOT基準番号」は「HOTコード」ともよばれます。医薬品HOTコードマスターは次のように説明されます。

「新しい医薬品コードを開発することは混乱を生じさせることにもなるため、既存コード群の対応テ-ブルを用意し、医療機関等で使用頻度の高い 4 種類の医薬品コード、即ち、薬価基準収載医薬品コード(厚生労働省コード)、個別医薬品コード(YJ コード)、レセプト電算処理システム用コード(支払基金コード)、流通取引コード(JAN コード)を 13 桁の管理番号(通称 HOT コード)で横断的に対応づけた、医薬品 HOT コードマスターを開発しました。」[1]

HOT基準番号の構成

HOT基準番号は13 桁からなり、その内訳は以下のとおりです。

  1. 処方用 7桁(CD1桁を含む)
  2. 会社用 2桁
  3. 調剤用 2桁
  4. 物流用 2桁

各番号はシーケンシャルに付与されます。13桁コードはJAN コード(GS1コードに移行中)と 1 対 1 に対応し、13桁のHOT基準番号は一意性が永久的に保証されます。HOT基準番号は、医療機関等で目的別に利用される複数の医薬品コードを横断的に対応づけたもので、利用目的に応じて、7桁(HOT7)、9桁(HOT9)、11桁(HOT11)、13桁(HOT13)と使い分けることができます。HOT基準番号を、様々な医薬品コードのうちの一つと捉えることは正しくなく、HOT基準番号に類する機能を有するコードは他にはありません。

HOT基準番号(HOTコード)の用途

HOTコードは、そのコード設計の基本方針にあるとおり、様々な活用が可能です。医療施設内での複数医薬品コードの対応マスターとしての活用のみならず、例えば、複数の連携施設に渡る薬剤共通マスターの管理に、多施設共同の臨床データベースにおける薬剤の情報管理に活用されている他、今後は、例えば電子カルテ情報共有サービス側で、YJコードやレセプトコードをHOTコードに変換しておくことにより、病院、診療所、薬局でHOTコードマスターの情報を容易に活用できるようになることも考えられます。

2. 個別医薬品コード (YJコード) リスト

我が国には厚生労働省 医政局医薬産業振興・医療情報企画課(旧医政局経済課)が管理する「薬価基準収載医薬品コード」(以下、「薬価基準コード」)があります※1。

個別医薬品コード(YJコード)の構成

「個別医薬品コード」(以下、「YJコード」)は、薬価基準コードと同じコード体系をもち、以下の6つの要素から構成される12桁のコードです。(なお、 YJコードの「YJ」は薬価情報(Yakka Joho)の頭文字とされています。)

  1. 薬効分類 (4桁)
  2. 投与経路・及び成分 (3桁)
  3. 剤形 (1桁)
  4. 同一分類内別規格単位番号 (1桁)
  5. 同一分類規格単位内の銘柄番号 (2桁)
  6. チェックデジット (1桁)

同じコード体系をもつ「薬価基準コード」と「YJコード」という二つのコードが存在する理由は、薬価基準コードが、薬価に着目したコードであり、個々の銘柄の識別を意図したコードではないことによります。薬価基準コードは「薬価基準の告示名称 1つに対して1つ」設定されます。多くの医薬品は、一般名が同じでも銘柄ごとに異なる薬価が定められ、銘柄が薬価基準に収載されていますが(これを「銘柄別収載方式」といいます)、中には「統一名収載品目」とよばれ、一般名称のみが官報に告示され銘柄は告示されないものがあります※2。
「統一名収載品目」の場合は一般名称が同じ医薬品は、要素 5. の部分は銘柄が区別されません。これに対し、統一名収載医薬品の場合も、薬価基準コードでは区別されない複数の銘柄を識別できるようにしたのが、YJコードです。したがって、コード要素 1.~4. は薬価基準コードとYJコードは同じであり、統一名収載の場合は要素 5. が両者で異なります。

※1 我が国の保険診療に使用できる医療用医薬品は、その品目と単価が薬価基準として官報に告示され、官報に告示された医薬品は「薬価基準収載医薬品」とよばれます。「薬価基準収載医薬品」に付されているコードが「薬価基準収載医薬品コード」です。

※2 一般名称のみが官報に告示され、銘柄は告示されない医薬品には、日本薬局方収載医薬品(局方品)、生物学的製剤基準収載医薬品の一部(ワクチン・血液製剤など)、生薬の一部、一般名収載品目などがあります。

個別医薬品コード(YJコード)の用途

YJコードは、厚生労働省が定める薬価基準コードをベースとすることから、医療施設にはデファクトとして導入されています。施設内の薬品マスターに登録して、施設における処方、採用した医薬品の情報の管理に利用さている他、近年は、医療データの二次利用、電子処方箋などでの利用があります。また、医薬品添付文書での収載、医薬品の情報に関するデータベースでの活用などが知られています。

3. 医療DXの時代の医薬品コード

現在、我が国では国策として、医療施設、薬局が電子的に医薬品コードの付された処方や調剤情報をやり取りし、患者さんがマイナポータルから得た情報をPHRに記録して、スマホを医療施設に持参するという本格的な医療DXの時代が始まっています。一つの医療施設内だけであれば、医療従事者は採用薬を把握していますが、例えば患者さんが持参する処方の医薬品に関する情報は、名称には表記揺れがあるなどによりコードに頼る場面が生じます。YJコードは一つのデファクトとして医療施設に入っていますが、YJコードではなくレセプトコードが付いている場合には、診療現場ではYJコードを知りたいかもしれません。さらに患者さんが持参した情報の医薬品のYJコードは既に削除されていて、ただちに見当たらないかもしれません。こうした場合、病院医薬品情報室(DI 室)に質問が寄せられることになります。このとき、HOTコードマスターがあれば、一つの医薬品コードが他の医薬品コードのどれに対応するかを、ただちに調べることができます。

しかし、複数の医薬品コードの関係は大変複雑であり、変更・削除などの厳密な履歴管理をはじめとする統合的管理のためには、ナショナルドラッグマスターが必要であると考えます。ナショナルドラッグマスターは、ウェブ検索可能なシステムとして提供されることが望まれます。この考え方の基本となるのが、HOTコードマスターです。

HOTコード、YJコード、レセプトコード、GTINなどの関係等については、研究報告書や論文で記載されており、例えば文献[2]には詳細な説明がありますので、必要に応じてご参照ください。

参考文献

[1] HELICS協議会HELICS指針一覧「医薬品HOTコードマスター」医療情報標準化レポートより

[2] 永島里美、大江和彦. 医療用医薬品のコード体系の現状とそれにもとづくGS1 バーコード利用方法 - GS1 基準医薬品コード統合共通マスター(G-DUS マスター)の整備と活用 -、医療情報学、39(4)、205-216、2019.