P-4 飼育下ニホンザル(Macaca fuscata ) 群における破傷風の集団発生 |
|
○中野朋美1)、中村進一1)、山本明彦2)、高橋元秀2)、宇根有美1) |
1)麻布大・獣医・病理、2)国立感染症研究所細菌第二部 |
|
【はじめに】 |
|
破傷風はC.tetani の芽胞が体内に侵入して発症する創傷性感染症である。診断は破傷風特有な症状により臨床的に行われることが多く、菌分離および病理学的診断は困難である。破傷風は致死率の高い人獣共通感染症であり、通常散発的に発生し、集団発生はほとんどない。また、国内において確定診断されたサルの破傷風の報告はない。今回、ニホンザル飼育施設において破傷風の集団発生と考えられる事例に遭遇したので、その発生状況を把握し、疫学調査および病理学的検索を実施した。 |
|
【発生状況】 |
|
常時60 頭前後を飼育し、例年、闘争や老齢により数頭の損耗がある施設で、2007
年4 月から2009 年6 月までの約2 年間に22 頭のサルが死亡し、2007 年の4 頭から2008
年には15 頭と急増した。特に11 月と12 月の繁殖期に集中して11 頭が死亡した。臨床症状は、63.6%(14/22)が急死で、死亡時には硬直や後弓反張などの特徴的な姿勢がみられた。そこで、2008
年12 月15 日(No.1)、2009 年1 月7 日(No.2)、6 月6 日(No.3)に死亡した3
頭を病性鑑定した。なお、18%(4/22)に外傷が確認されたが、残りは目立った外傷を確認できなかった。 |
|
【結果】 |
|
No.1: |
2008 年12 月11 日から強直を示し、意識はあるが体動不可能、発症より5 日目に死亡した。 |
|
|
No.2: |
2009 年1 月6 日に全身性痙攣を起こし、口から泡を出し、舌も出した状態で横臥しているのを発見、翌日に死亡した。 |
|
|
No.3: |
歩様異常がみられ、2009 年6 月5 日に発熱(39.8℃)、硬直が現れたため、抗生剤、筋弛緩薬、抗毒素血清治療を開始したが、次第に強直が進行し、刺激により硬直は顕著になり、翌早朝に斃死しているのを発見した。 |
|
|
3 頭とも全身諸臓器に著変はなかった。No.2 は左肩甲骨および左内股に創傷が存在。No.3
は右後肢趾端に化膿性痂皮形成を伴う外傷が存在し、本病巣より破傷風菌が分離され、PCR
法にて破傷風毒素遺伝子が検出された。また、マウスを用いた毒素原性試験においても破傷風毒素活性を確認した。また、本施設内外の破傷風汚染状況を調査したところ、施設内部土壌などの50%超から破傷風が分離され、これらの一部の分子生物学的検査結果がサル分離菌と一致した。さらに、2009
年11 月以降、全頭に2 回の破傷風ワクチン接種を行った結果、現在まで破傷風の発生はない。 |
|
【考察】 |
|
以上のように病性鑑定した3 頭に破傷風特有の症状がみられ、うち1 頭から毒素遺伝子、毒素産生能を有するC.tetani
が分離されたこと、比較的短期間に例年比200%増の死亡がみられ、うち63.3%に特徴的な外形が観察されこと、ワクチン接種後発症例がみられないことから、本事例をニホンザル群にみられた「破傷風の集団発生」と診断した。 |
|
|
国内外で、集団発生の様相を呈する破傷風の報告はほとんどなく、わずかにプエルトリコ事例があるのみで、サルの繁殖期での発生が多いとの記載に留まり、原因は明らかにされていない。 |
|
|
1960 年から飼育を続けている施設で、いつ、どのように施設が破傷風菌に汚染され、2007
年の突然の流行に結びついたか、不明であるが、サルを取り巻く環境が高濃度に破傷風菌によって汚染されている状況下で繁殖期の闘争が感染の機会を増大し、破傷風の流行となったものと推察した。 |
|
←前のページ/次のページ→ |