教育・特別講演8-1 カプノサイトファーガ症の現状 |
|
|
今岡浩一、鈴木道雄 |
|
国立感染症研究所・獣医科学部 |
|
【はじめに緒言】 |
|
米国では、日本の約5 倍(6,000 万匹ほど)の犬が飼われているが、年間470
万人が犬にかまれ、80 万人が医療機関を受診し、6,000 人が入院するという調査報告がある。日本では、環境省による年間6,300
件という報告があるが、実際はより多くの咬傷事故があると推定される。 |
|
|
犬咬傷の4〜20%、猫咬傷の20〜50%で、傷口から侵入した病原体により感染症を発症すると言われている。もちろん、ブドウ球菌や連鎖球菌など人の皮膚などに常在している菌によることが多いが、それら以外に、犬の口腔内常在菌であるパスツレラ菌、猫が保菌するバルトネラ菌、また今回取り上げたカプノサイトファーガ(Capnocytophaga )菌による感染症もある。 |
|
【カプノサイトファーガ症】 |
|
犬・猫の口腔内常在菌であるC. canimorsus (カニモルサス)、C. cynodegmi (サイノデグミ)による感染症で、臨床的にはC. canimorsus が重要である。犬・猫咬傷、掻傷により感染し、犬咬傷によることが最も多い。我々の調査では犬の74%、猫の57%がC. canimorsus を口腔内に保菌していた。ただし、犬・猫は症状を示さない。 |
|
|
犬咬傷に伴う感染症であるパスツレラ症は感染部位が早期に強く腫脹するケースが多く、そのため明らかに感染を確認・同定でき、すみやかに処置をとりやすい。猫掻傷では、猫ひっかき病(バルトネラ)が重要であるが、こちらも局所から所属リンパ節の炎症・腫脹が認められることが多い。それに対してカプノサイトファーガ症は、局所症状を欠くことも多く、発熱、腹痛、倦怠感などの一般的症状から、重症例では急激に敗血症や髄膜炎に進展することがあるため、対応に急を要する。死亡例では救急搬送後、一両日中の致死も多い。潜伏期は2〜14
日でパスツレラ症よりも長く、菌の増殖も遅く、傷口がすでに治癒している場合もあり、犬・猫咬傷、猫掻傷との関連がわかりにくいことがある。 |
|
|
世界中で250 例ほどの患者報告と、まれではあるが、敗血症や心内膜炎を発症したときの死亡率は約30%といわれる。髄膜炎を発症する場合もあるが、こちらの方が予後は良いようである。ただし、報告の大半は重症例であり、軽症者を含めた実感染者数は、もっと多いと思われる。1976年に最初の症例が文献報告されてから、まだ30
年ほどしかたっていないことから、新しい感染症であると思われがちだが、単に原因菌が特定されるようになっただけのことであり、人が犬・猫とともに暮らすようになったはるか昔から疾患は存在していたと考えられる。 |
|
|
我々は、学会報告等がなされた国内症例を中心に調査した結果、1993
年を最初に18 症例を見いだした。16 例が重篤な症状を示し、6 例が亡くなっており、致死率は33%となる。しかしながら、一般的に種々の原因によりもたらされる重症敗血症は、元来、高齢者に多く、致死率も平均30%程度である。したがって、カプノサイトファーガ症が、致死率が特に高いと言うことではない。18例のうち猫からの感染が7
例と多いのが日本の特徴のようである。 |
|
|
易感染者としては、いわゆる免疫学的弱者(高齢者、脾臓摘出者、アルコール依存症、糖尿病、ステロイド使用者など)があるが、健常者の感染・発症も認められる。ただし、年齢構成は男女ともに明らかに40
才代以上に多く、若年層の患者は少ない。また、患者は男性が多い。 |
|
|
厚生労働省では、本疾患を正しく認知し、対応・予防に役立てて貰うため情報提供(Q&A)を行った
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/capnocytophaga.html)。 |
|
←前のページ/次のページ→ |