教育・特別講演6-2 ネコひっかき病の臨床 |
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吉田 博 |
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公立八女総合病院 |
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【目的】 |
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ネコひっかき病(cat scratch disease:CSD)はネコのひっかき傷や咬傷が原因となり,受傷部位の所属リンパ節腫大や発熱を主徴とする感染症である。1992 年にグラム陰性桿菌であるBartonella henselae が病原体であることが判明した。抗体検査で血清学的にB.henselae の感染が確認されたCSD の臨床症状と検査所見ならびに治療経過について検討したので報告する。 |
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【対象と方法】 |
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対象は1996 年から2006 年までに公立八女総合病院で臨床的にCSDと診断した97 例のなかで,IFA やEIA による抗体検査でB.henselae の感染が証明された63 例を解析の対象とした。 |
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【結果と考察】 |
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月別のCSD の発生数では,7 月から増加し,10 月がピークであり,12
月から減少傾向を示した。年齢は0 歳から83 歳に広く分布し,男女比は1:1.2
で女性に多かった。女性は40 歳代が多く,男性は30 歳未満が多かった。 |
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CSD63 例の感染源は61 例(96.8%)がネコであり,その2/3 が1 歳未満の子猫であった。感染経路はひっかき傷が31
例(49.2%),咬傷が2 例(3.2%),ネコ蚤刺傷が2 例(3.2%),残りの26例(41.2%)は単なる接触のみで感染したと思われる症例であった。受傷部位は手指や手首などの上肢が77.1%と多く,下肢は14.3%であった。 |
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CSD の主症状であるリンパ節腫大は60 例(95.2%)に認められ,発熱は23
例(36.5%)に認められた。リンパ節腫大は腋窩部が最も多く31 ヵ所(51.7%),次いで鼠径部が19
ヵ所(31.7%),頸部が13 ヵ所(21.7%),肘関節が10 ヵ所(16.7%)であった。潜伏期の平均は18.9±13.2
日であり,最短で4 日,最長で50 日であった。 |
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全ての63 例に対し抗菌薬で治療したが,治癒までの平均日数は44.2±34.3 日であり,最短で7日,最長で180 日であった。特に,アジスロマイシンは3 日間の投与のみで完治する症例もみられた。 |
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わが国では,欧米に比して,動物由来感染症に対する認識が薄く,医師が正確に診断できないことも少なくない。CSD
と診断するために最も大切なことは,本症ではないかと疑うことであり,逆に念頭にないと診断できない感染症診断のピットフォールである。 |
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