第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

教育・特別講演4 ズーノーシス・医師からのアプローチ オウム病・Q 熱を例に
 
岸本寿男
岡山県環境保健センター
 
  ヒトに感染する病原体の6 割がズーノーシスであり、新興・再興感染症の中で、ズーノーシスの占める割合はさらに高く、しかもベクターやリザーバー、感染経路などが多種多様である。それらのズーノーシスに臨床現場で迅速に対応するためには、医療関係者と獣医療関係者が共通認識をもつことが重要であり、とくに診断・治療・予防でのアプローチにおいてヒトの臨床医師と、動物の
臨床獣医師との連携と協力が欠かせない。ここでは、オウム病とQ 熱について、演者らが関わった感染事例を紹介し、それらの対応の中で明らかとなった課題や今後の展望について述べたい。
 
【オウム病】
  オウム病は Chlamydophila psittaci  による人獣共通感染症で、主に感染鳥の排泄物中の菌体を吸入して感染し発症する。1〜2 週間の潜伏期の後、突然の高熱、咳、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などを呈し、重症肺炎例で初期治療が不適切な場合には、髄膜炎、多臓器不全、DICを呈し、致死的となることもある。感染症法では4 類全数届出感染症で、年間40 例前後が届けられ、家族発症も多い。推定感染源としての鳥種は、インコが約6 割、ハトが1 割、ついでオウムなどで、これらの健常なトリの保菌率も数%と一定の割合で認めており、感染リスクは常に存在する。
  また近年我が国で動物展示施設における集団発生が3 件相次いで起こり、大きな問題となった。これを契機にズーノーシス予防の重要性が再確認され、動物展示施設におけるガイドラインが作成されるに至ったが、その中でも医師、獣医師が担う役割は大きく位置付けられている。またオウム病の診断法については、多くの課題があり、今後より簡便で正確な検査法の開発、普及が望まれている。集団発生事例の紹介と合わせて課題を提示する。
 
【Q 熱】
  Q 熱はCoxiella burnetii の感染に起因する人獣共通感染症であり、主に家畜やペット、野生動物の排泄物や分泌物のエアゾルを吸入して感染、発症する。急性Q 熱は肝炎や不明熱など多彩な病像を呈するが、多くは上気道炎や気管支炎、肺炎など呼吸器感染症の病態を示す。予後は基本的に良好であるが、脳炎や髄膜炎等の合併症もあり、急性Q 熱の一部は心内膜炎など治療が困難な慢性Q 熱に移行する。欧米においては、Q 熱は市中肺炎の数%程度を占める一般的な起炎菌としてよく認識されている。感染症法では4 類全数届出感染症で、近年では毎年数名程度の患者が報告されており、時に輸入例の報告もみられているが、国内における実態や病像に関しては疫学的なデータが不足しており未だ不明な点が多い。国内感染が示唆される例でも感染源が特定できない症例が多く、ペットや家畜、野生動物の保菌状況等、疫学的な調査によるリスク評価が望まれている。近年慢性疲労症候群様患者における関与を示唆する報告や、食品等を介した感染の潜在的危険性を指摘する報告もみられるが、臨床の現場で利用できる客観性と再現性の高い診断システムが確立されていないことが、過剰診断や混乱を招いている大きな要因でもある。今後、より優れた診断法の確立と、実態の解明を進める必要がある。
 
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