第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

13 ロシアのボルガ川流域におけるハンタウイルス感染症の疫学的研究
 
○苅和 宏明1)、瀬戸 隆弘1)、Evgeniy A. Tkachenko2)、Vyacheslav G. Morozov3)、Alexander E. Balakiev2)
谷川 洋一1)、中村 一郎4)、橋本 信夫1)、吉松 組子5)
宮下 大輔1)、中内 美名1)、好井 健太郎1)、有川 二郎5)、高島 郁夫1)
1)北海道大学大学院獣医学研究科公衆衛生学教室、2)Chumakov Institute of Polyomyelitis and Viral Encephalitidis, Moscow, Russia, 3)Medical Company “Hepatolog” Incorporated, Samara, Russia,
4)北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター, 5)北海道大学大学院医学研究科微生物学講座病原微生物学分野
 
【目的と意義】
  ハンタウイルスはブニヤウイルス科に属するRNAウイルスであり、S、M、Lの3分節に分かれたマイナス一本鎖RNAをゲノムとする。本ウイルスは野生げっ歯類を宿主とし、人に感染すると腎症候性出血熱(HFRS)やハンタウイルス肺症候群(HPS)等の重篤な疾患を引き起こす。ロシアのボルガ川流域では本ウイルスによるHFRSの流行がしばしば起こっていることから、病原巣動物の特定と分布しているウイルスの性状解析を目的としたげっ歯類の疫学調査を実施した。また、当地のHFRS患者血清中の抗ハンタウイルス抗体について各種ハンタウイルスに対する反応性を調べ、流行中のウイルス血清型を推測した。
 
【材料と方法】
 2005年8月、ロシア、サマラ市郊外の森林にてげっ歯類145匹を捕獲し、血液及び各種臓器を採取した。また、2005年サマラ州で発生したHFRSと疑われる血清21例(組血清含む)について抗ハンタウイルス抗体の検索を行った。げっ歯類、HFRS患者中の抗ハンタウイルス抗体は酵素抗体法(ELISA)と蛍光抗体法(IFA)で検出した。また、げっ歯類の肺からRNAを抽出してRT-PCR法にてハンタウイルス遺伝子を検出し、SとM遺伝子の塩基配列を決定して遺伝子解析を行った。ハンタウイルスの急性感染期であると推定されるげっ歯類の肺乳剤をシリアンハムスターに接種し、接種12日目のハムスター肺乳剤をVeroE6細胞に重層することでウイルス分離を試みた。
 
【結果と考察】
  得られたげっ歯類血清145例のうち、ヨーロッパヤチネズミ(Myodes glareolus) 68例中6例(8.8%)から抗Puumala型ハンタウイルス抗体が検出された。しかし、その他のげっ歯類77例からは抗体は検出されなかった。RT-PCRではヨーロッパヤチネズミ68例のうち7例(うち抗体陽性4)からハンタウイルス遺伝子が検出された。抗体陰性でウイルス遺伝子陽性のげっ歯類3検体のうち2例からハンタウイルスが分離された。これらについて遺伝子解析を行ったところ、S遺伝子はPuumala型ハンタウイルスKazan株に約95%の一致率を示した。また、HFRS患者血清中の抗体はPuumala型ハンタウイルス抗原に一番強い反応性を示した。以上の結果からボルガ川流域で流行しているHFRSの原因ウイルスはヨーロッパヤチネズミが媒介するPuumala型ハンタウイルスによるものである可能性が強く示唆された。
 
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