第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

7 北海道のスズメ(Passer montanus) 大量死事例より分離された
Salmonella Typhimurium DT40の病原性と病理発生に関する検討
 
○添田 琴恵1)、政岡 智佳2)、鈴木 智2)、仁和 岳史2)、加藤 行男2)、石原 ともえ3)、宇根 有美1)
1)麻布大学獣医学部病理学研究室、2)麻布大学獣医学部公衆衛生学第2研究室3)神奈川県衛生研究所微生物部
 
【はじめに】
  2005‐2006年冬に北海道でスズメが大量死し、その数は1,500羽を越えた。我々はこの大量死の原因を究明するために、流行当時および2007年冬の小規模流行時の検体を入手、疫学的、病理学的および微生物学的に検索し、Salmonella Typhimurium (以下ST)が原因であると特定した。また、本STのファージ型が、今までヒトおよび動物を含めて国内で検出されたことがないDT40であることを明らかにした。そこで、スズメ由来STファージ型40 (以下ST40)の病原性を検討し、スズメのサルモネラ症の病理発生を明らかにすることを目的として、スズメと同じフィンチ類に属し、入手し易いブンチョウを用いて、次の実験を行った。
 
【実験1】
  ブンチョウ(成鳥)を4群に分け、ST40を単回経口接種した。その結果、1群対照(生食)と2群(3.1log10CFU、n=3):死亡例なし、3群(5.1 log 10CFU、n=6):8日〜19日目までに全羽死亡、4群(7.1 log 10CFU、n=3):2羽死亡。死亡個体では接種後7日目から下痢を発症したが、他の個体は発症しなかった。すべての死亡個体で肉眼的に肝・脾腫と肝の白色結節形成がみられ、組織学的に肝の多発性巣状壊死、全身諸臓器の血管内に無反応性の菌塊形成と時に血栓形性が観察された。なお、スズメで高率に観察された偽膜性そ嚢炎はみられなかった。STは肝臓、脾臓、そ嚢、腸管と死亡直前のスワブから分離された。生き残った個体の臓器からSTは分離されず、ST関連病変もなかった。 
 
【実験2】
  ST40の病原性を明らかにするため、ヒトの食中毒患者より分離されたST(以下HST)を対照とし、それぞれブンチョウの幼鳥2羽、成鳥4羽に単回経口接種した。その結果、1群(ST 40、5.1 log 10CFU):安楽死もしくは死亡3/6、発症のみ2羽、2群HST(4.7 log 10CFU):成鳥1羽が発症したが死亡例なし。死亡個体の病理像は実験1と同様であった。すべての死亡個体の臓器からSTが分離されたが、生残個体の臓器および実験に供した全個体のクロアカスワブからSTは検出されなかった。
 
【考察】
  ST40はブンチョウに対し用量依存性に致死性に働くものと考えられた。死亡個体の病理像はそ嚢炎が認められなかったことを除けば、スズメのサルモネラ症とほぼ同様であった。また、生残個体からSTが分離されなかったことから、少なくともブンチョウ体内では感染維持がなされないものと推察された。さらに、死亡率、発症率と有病率から、ST40は少なくともヒト由来STより病原性が高いと判断された。ST40が自然界でどのように維持され、集団発生に結びつくのか、さらなる検討が必要と考える。
 
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