第6回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


[教育講演] インフルエンザの流行状況
 
岡部信彦
国立感染症研究所感染症情報センター
  インフルエンザとは、ある一群の症状を呈するヒトの病気に対してつけられた名称(病名)である。突如として現れて瞬く間に広がり、数カ月のうちに消えていく、咳と高熱のみられるインフルエンザらしき流行病はギリシャ・ローマ時代からあり、紀元前412年のヒポクラテスとリブイの書物には「ある日突然多数の住民が高熱を出し、震えがきて咳が盛んになった。たちまち村中にこの不思議な病は広がり、住民たちは脅えたが、あっという間に去っていった」という記載がある。その流行は周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの星占いたちはこれを星や寒気の影響によるものと考え、influence(影響)すなわちinfluenzaと呼ぶようになったといわれている。わが国においてインフルエンザに近い名称としては、天保6年(1835年)に出版された医書「医療生始」に、インフリュエンザ(印弗魯英撤)という病名が見られる。明治24年発行の愛氏内科全書(翻訳)には「流行性感冒;インフルエンザの多くは疾風の如く速く蔓延し、多くの人類を侵襲し、しばしば大流行になる。その持続は不定であるが、しばしば数週のうちに終わる・・・」と記載されている。
 細菌学、ウイルス学などの発達によって、その原因が病原体であることが明らかになってきたものがある。ヒトのインフルエンザウイルスは、1933年Smith, Andrews, Laidlowらによって初めて分離されている。インフルエンザという疾患の原因の多くは共通したウイルスによるものであり、そのウイルスをインフルエンザウイルスと称するようになったといえる。しかしインフルエンザウイルス発見のきっかけとなったのは、Shopeによるブタからのウイルス分離(1931年)であるといわれている。細菌学、ウイルス学などの発達によって、その原因が病原体であることが明らかになってきたものがある。ヒトのインフルエンザウイルスは、1933年Smith, Andrews, Laidlowらによって初めて分離されている。インフルエンザという疾患の原因の多くは共通したウイルスによるものであり、そのウイルスをインフルエンザウイルスと称するようになったといえる。しかしインフルエンザウイルス発見のきっかけとなったのは、Shopeによるブタからのウイルス分離(1931年)であるといわれている。
  ヒトのインフルエンザは、身近な感染症としてわが国に限らず地球上のあらゆるところ(熱帯地域においても)で毎年流行が見られ、多くの人がインフルエンザに罹患している。そのほとんどは自然に回復するが、罹患数が多いため、一方ではインフルエンザに関連した肺炎その他で死亡している人も多い(特に高齢者)。我が国では、流行の大小によって差はあるが、毎年おおよそ人口の10%前後が、インフルエンザ様疾患で医療機関を訪れると推計されている。
  インフルエンザウイルスのうちヒトの間で流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型インフルエンザウイルスの表面には2種類の糖蛋白、赤血球凝集素(HA)とノイラミニデース(NA)があり、HAは15、NAには9つの亜型があり、同じ亜型の中でわずかな変化が常に見られている。これを連続抗原変異(antigenic drift)、または小変異という。いわばウイルスのマイナーチェンジである。同じ亜型の中で連続抗原変異を続けながら10数年から数10年単位でA型インフルエンザの流行が続くが、突然大きくその姿を変え、まったく別の亜型に取って代わることがある。これを不連続抗原変異(antigenic shift)、または大変異という。いわばフルモデルチェンジであるといえる。
  1918年に始まったスペイン型インフルエンザ(H1N1)はイタリア型に姿を変え39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に代わり、流行は11年続いた。その後1968年には香港型インフルエンザウイルス(H3N2)が現われ、ついで1977年ソ連型(H1N1)が加わっている。現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっている。すなわち、人類は20世紀に、ソ連型(H1N1)を入れれば4回、これを入れなければ3回の新型インフルエンザの登場を経験していることになる。そしてA(H3N2)は1968年以来35年以上、A(H1N1)は1977年以来25年以上、その中で連続抗原変異を続けながら少しずつ変化をして現在に至っていることになる。
  これまでのインフルエンザの変化の歴史を見れば、現在はいつA型インフルエンザの不連続変異がおこり、新型インフルエンザが登場してもおかしくない状況にあるといえる。しかしこれが、来年なのか、数年先なのかの予測は誰も正確な答を持ちあわせていない。
  新型インフルエンザウイルスが出現すれば、人々は当然過去にこのウイルスの感染を受けたことがないため抗体もなく、一時に新しいウイルスの感染を受ける人が多くなり地球規模での大流行(pandemic)となる。しかも現在では交通の発達、人口の増加・集中、生活様式など過去の流行時とは比べようもない著しい変化を遂げており、新型ウイルスが出現した際にはこれまでにない拡大速度の早い、大規模な流行の発生と、それに伴う健康被害の増大、そして社会生活への大きな影響がもたらされることが懸念されている。
 本研究会の講演では、ヒトのインフルエンザ(seasonal influenza)の現状、鳥インフルエンザ(avian influenza)の流行とそのインパクト、そしてヒトにとって新たなインフルエンザウイルスによるパンデミック(pandemic influenza)などについて、お話申し上げる予定である。本研究会の講演では、ヒトのインフルエンザ(seasonal influenza)の現状、鳥インフルエンザ(avian influenza)の流行とそのインパクト、そしてヒトにとって新たなインフルエンザウイルスによるパンデミック(pandemic influenza)などについて、お話申し上げる予定である。
 
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