第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 | 研究会目次 |
[教育講演] 動物園のニホンザルにおける結核の発生について | |
宮下 実 1),長瀬健二郎 1),榊原安昭 1),○高橋雅之 1),市川久雄 1), 竹田正人 1),高見一利 1),西岡 真 1),園田義昭 2) |
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1)大阪市天王寺動植物公園事務所 2)社団法人天王寺動物園協会 |
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【はじめに】 | |
今や動物園・水族館においては種の保存と環境教育が大きな社会的使命となっている。このため各施設においては希少種を含む多種多様な動物を教育的配慮の下で飼育・展示し、これらの動物を見るために不特定多数の人々が訪れる場所となっている。一方、種々の人と動物の共通感染症が近年発生し、その対策が急がれているところであるが、実験動物や畜産関係の動物飼育施設と異なる問題点を持っているのが動物園・水族館の現状である。 | |
天王寺動物園は年間の入場者数約150万人、飼育展示動物は約300種1600点を数え、また、大阪市の都心に位置する典型的な都市型動物園である。その天王寺動物園において2004年にニホンザルの結核発生を認めた。都市型動物園における人と動物の共通感染症アウトブレイクの一例として当園での対応を中心に、その概要を報告する。 | |
【概要】 | |
2004年7月29日、飼育展示中のニホンザル(雌6歳)が死亡し、剖検所見で抗酸菌感染症(結核を含む)を疑う結節性の肺病変を認めたため、細菌および病理検査を外部検査機関に依頼した。7月31日には検査機関より肺病巣部の塗抹染色により抗酸菌を認めた旨の報告があった。この報告を受け、動物園獣医師で協議した結果、菌種同定までは時間を要するが、結核を想定し、次のような方針をとることにした。 | |
1.動物園職員および所管局(大阪市ゆとりとみどり振興局)への抗酸菌症発生の報告と対策の説明 2.大阪市保健所感染症対策課等公衆衛生部局への抗酸菌症発生の報告と協力要請 3.発症サルと同居のニホンザル全頭の捕獲と隔離・検査 4.適切な時期の情報公開(プレスリリース) |
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上記の方針に従い、菌種同定までの間、作業を粛々と進める中で、まず初期に公衆衛生部局の協力により感染症、殊に結核の専門家である医師から実際にニホンザル飼育施設の視察を受けた。ニホンザル飼育施設が入園客とニホンザルの間にポリカーボネイト製バリアを有していること、あるいは屋外にあって太陽光線が十分に当たる環境にあり、かつ、ニホンザルが飼育係員に近づくこともないなど、施設構造上あるいは動物と人との距離などの点から入園客や飼育係員にサルから人への感染はまずないとの見解を得た。また、念のためニホンザルに関連する作業に従事した関係者5名に対し、保健所の指導に基づき胸部x線撮影とツベルクリン皮内反応検査を実施したが、現在までのところ、両検査から結核を疑う職員は出ていない。 |
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10月4日には培養検査で結核菌であることが確定したため、2004年10月5日にニホンザルの結核発生と展示中止に関する報道発表を行った。 | |
その後、捕獲隔離していたニホンザルのうち1頭が死亡し、剖検により結核の疑いが濃厚となってきたため、他の隔離中のニホンザルに対し、抗結核薬(INHおよびRFP)による治療を10月25日から開始した。しかし、薬剤を嫌がる個体の存在や、日によって投与を受付けない場合があったりし、確実な投薬ができないことから、治療の有効性が確保できないばかりか、危険な薬剤耐性菌を生じてしまう可能性が懸念されだした。また、隔離入院によるストレスにともなう異常行動や薬剤の副作用により、治療継続がニホンザルにとって苦痛となっていること、ツベルクリン皮内反応等の複数の検査で全頭結核の疑いがぬぐいきれないこと、さらに担当獣医師に感染の危険性が高まってきたことなどの状況から治療を断念することとした。苦渋の決断ながら隔離していたニホンザル全頭の安楽死処分を決定し、2005年3月25日にこの決定を報道発表した。 | |
今回の一連の報道に関し、安全性に関する説明やニホンザルの安楽死が止むを得ない状況であった説明のQ&Aを作成し、市民からの問い合わせ等に対応したが、おおむね反応は冷静であり、入園者数への影響は見られなかった。 | |
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