第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


12 アフリカ東部・南部における炭疽の常在化と制御のための戦略
 
藤倉孝夫
財団法人日本シルバーボランティアズ 国際協力専門家
 
【目的】
  サハラ砂漠以南の東部・南部アフリカ諸国では野生動物、家畜、及びヒト集団の間で炭疽が常在化している。本報告ではこれらの地域での炭疽の現状について、気候的、文化人類学的、社会経済的などの観点から論じ、これまでに検討されてきた制御のための戦略について述べる。
 
【材料及び方法】
  本報告の知見はWHO/FAO人獣共通感染症専門部会 炭疽調査対策作業部会、及び国際協力機構(JAICA)ザンビア大学技術・教育協力計画への参加により得られた技術や知見による。
 
【結果】
  ケニア、タンザニア、ザンビア、南アフリカ共和国は熱帯、亜熱帯に位置し広大な領域に多種多様な野生動物が生息している。乾季、とくに旱魃年にはこれらの動物にとり飲用の水源が極度に不足することから、限局された水源へ動物集団が集中する。これにより、動物間の高度な接触密度と、水場の汚染の原因となる。このような状況が野生動物集団での炭疽の大規模な発生の要因とされている(例 1987年ザンビアでのカバ2600頭余の集団発生など)。牛を主体とした家畜は原野に放牧されており、野生動物との接触の機会も甚だ多く、また炭疽芽胞菌に汚染された広大な地域に飼養されている。ザンビア西部州では大河ザンベジ川の毎年雨季での氾濫により広大な流域一帯は炭疽菌による汚染に暴露されている。これによる家畜の炭疽による被害が絶えないが、伝統農村では野外で斃死した動物の肉を食する習慣があり、炭疽により斃死した動物を解体し、肉は食用に供されるばかりでなく、乾し肉や塩漬け肉として保存され、売買や贈答品の対象として遠距離まで運搬される。皮革も普く屋内で利用されている。これらはアフリカ東部・南部において共通して認められる様相であり、炭疽の伝播、常在化の主要な要因である。
  
【考察・結論】
  これらの諸国では対策として長年にわたり家畜に対して炭疽菌芽胞生ワクチン(Stern株)が製造され用いられてきた。これにより家畜の炭疽感染は徐々に減少し、これに関連し、ヒトへの感染も少数例を数えるのみとなった地域もある(南アフリカ共和国)。しかし野生動物集団では依然として炭疽の発生が絶えないことから、これらの動物集団へヘリコプターより炭疽ワクチンを装填したdisposable dartを発射し成功裏に対策が施されている(Kurger N.P.)。動物の腐肉を食する習慣があり、家畜へのワクチン接種に理解を示さない伝統農村の農民に対しては絵本などによる炭疽予防知識の普及に努めるなど、國際協力レベルでの支援が行われてきたが、対策戦略の推進にとり未だ課題が山積している。これらの課題に対してはさらなるoperation research開発と國際協力規模での支援が緊要である。
 
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