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ミニシンポジウム


神経と行動

-- 弱電気魚ニューロエソロジー研究の新展開 --


 日時 : 1999年10月1日(金),  午後2時より午後5時半まで
 場所 : 帝京大学医学部基礎棟12階,第二会議室
 (JR埼京線十条駅下車徒歩10分)

  

 脳神経系の情報処理機構を研究する方法の 一つに,動物の行動を手がかりとしてその神経生理学的な解析を進め,神経回路網に内在する 普遍的な原理を見いだす手法がある。たとえば,電気魚の混信回避行動(JAR: Jamming Avoidance Response)やコオモリの超音波を用いたエコーロケーション,メンフクロウの 両耳入力時間差に基づく音源定位などである。これらの研究は’時間差を測定する’ことに おいて,聴覚系に普遍的な神経構築とアルゴリズムの基盤があることを明らかにしている。 弱電気魚の神経と行動研究では,JAR以外にも脳の高次機能を解明する萌芽的な研究は多い。 このシンポジウムでは,電気魚の行動解析に多くの業績を上げられたCarl D. Hopkins博士, Heiligenberg 博士と共にJARの解明を行った川崎雅司博士をお招きし,モルミルスのEOD (Electric Organ Discharges) の進化について,またEODの寄与しない電気的定位などに ついて講演を予定している。さらに若い研究者も加えて,最近の電気魚の研究について発 表・討論を行う予定である。多くの方のご参加をお待ちいたします。 (なお発表・討論は原則として英語を使用します。)

共催:日本比較生理生化学会,ニューロエソロジー談話会
後援:文部省科学研究費補助金特定領域研究(A)「総合脳」 



プログラム


神経と行動  -- 弱電気魚ニューロエソロジー研究の新展開 --

 

セッション1:EODの進化と電気的定位:  2:00ー3:40
         司会:菅原美子(帝京大学)

 2:00 - 2:50: Carl D. Hopkins(コーネル大学)       
         Evolution of electrogenesis and the origin of signal diversity among electric fish. 

 2:50 - 3:40: 川崎 雅司 (バージニア大学)  
         A new mode of electrolocation? Gymnarchus niloticusmaintains weaker discharges in the absence of EODs.

       (コーヒーブレイク) 

セッション2:電気感覚の情報処理過程をめぐる新しい視点: 4:00ー5:30
         司会:川崎雅司(バージニア大学)

 4:00 - 4:25: 滝沢 由美 (統計数理研究所)  
         The EOD responses to amplitude modulation in Eigenmannia.

 4:25 - 4:50: 樫森 与志喜(電気通信大学)
         A neural mechanism of hyperaccurate detection of phase advance and delay of weakly electric fish.

 4:50 - 5:15: 菅原 美子 (帝京大学) 
         Modules hypothesis of signal processing in the mormyrid electrosensory lobe. .


 5:15 - 5:30: 総合討論  


講演要旨


セッション1:EODの進化と電気的定位:

Carl D. Hopkins(コーネル大学)

Evolution of electrogenesis and the origin of signal diversity among electric fish.

The African mormyroid electric fish are the largest group of electric fish known. With over 200 species, the group is remarkable in the ways it has adapted to living in different aquatic conditions. All mormyroid generate electric discharges. How did the diversity of electric signals arise? To answer this question, we construct a new molecular phylogeny for 43 species of African mormyroid electric fishes derived from the 12S, 16S, and cytochrome b genes and the nuclear RAG2 gene. From this, we reconstruct the evolution of the complex electric organs of these fishes. A reconstruction of electrocyte evolution based on our best-supported phylogenetic tree suggests that electrocytes with penetrating stalks evolved once early in the history of the mormyrids followed by multiple reversals to electrocytes with non-penetrating stalks. Several speculations are presented to explain the evolution of signal diversity among mormyrids including diversity arising by female choice, diversity to avoid predators, and diversity to avoid signal overlap with conspecifics.


川崎 雅司 (バージニア大学)

A new mode of electrolocation? Gymnarchus niloticus maintains weaker discharges in the absence of EODs.

 電気魚は自然な行動パタンとして電気器官からの発電を停止することができる。アフリカ産の ウェーヴ種 Gymnarchusにおいても、新奇な刺激提示に対し電気器官の完全な停止がおこる。し かしながらこの間、微弱な正弦波上の電気信号が体のまわりで観察される。この信号の強度は 通常の発電の10分の一程度で、発電周波数は電気器官が停止する前の周波数に近い。体の各 部での信号は位相にづれがあるものの完全に同期している。体の一部を空中に引き上げると、 その部分は、他の部分とわずかに異なる周波数で発振をはじめる。同調発振をする電気受容器 がこの信号を作り出すらしい。中脳の半円隆起のニューロンの応答を調べたところ、同じニュ ーロンが、電気器官からの発電があるときでも中断しているときでも同様に電気定位の物体に 応答することがわかった。電気器官の中断中でも、Gymnarchus は電気定位の能力を保持してい る可能性がある。


セッション2:電気感覚の情報処理過程をめぐる新しい視点:

滝沢 由美 (統計数理研究所)

The EOD responses to amplitude modulation in Eigenmannia.


樫森 与志喜(電気通信大学)

A neural mechanism of hyperaccurate detection of phase advance and delay of weakly electric fish.

 弱電気魚EigenmanniaやGymnarchusは、自分のEODと近くの魚のEODに よって生じた混信信号の位相差を1マイクロ秒以下の精度で検出できることが 知られている。また、Gymnarchusの電気感覚側線葉(ELL)やEigenmanniaの 半円隆起(TS)の神経細胞でさえ、マイクロ秒の時間差の検知ができる。 神経細胞は通常、ミリ秒のオーダーで応答することを考えれば、このような マイクロ秒の時間差検知能力は、驚異的である。我々は、このような中枢での マイクロ秒の時間差検知能力がどのような機構で実現されているのかを調 べるため、解剖学的な知見に基ずいた位相の進み、遅れを検知する神経細胞 モデルを提案する。  このモデルでは、位相の遅れと進みの検知には、giant cellからの入力と複数個の spherical cells からの入力を受けるsmall cell がgiant cell からの入力延線の 大きさによって位相の遅れあるいは進みを検知することになる。 我々のモデルでは、位相の遅進検出の高い精度は、giant cell の自励発振に 連動した出力の積算とノイズの効果により生じる。また、位相差のオフセットに対する アダプテーションについても統一的な説明を与える。これらの機能と 解剖学的な構造との関連についても、いくつかの示唆を与える。


菅原 美子 (帝京大学)

Modules hypothesis of signal processing in the mormyrid electrosensory lobe.

 モルミリ目・象鼻魚(Gnathonemus petersii)はパルス型放電をする弱電気魚である。 尾部の電気器官の放電(EOD)により体周囲に電場を形成し,電気的定位や電気的交信を行う。 体表の3種類の電気受容器のうち電気的定位には,低周波から高周波に応答するモルミロマ スト電気受容器が主に働く。この受容器系での感覚入力制御機序について報告する。  電気受容器からの感覚情報は,電気感覚葉(ELL)で二次感覚ニューロンに伝えられる際, 電気器官支配の随伴放電(EOCD)や上位感覚中枢および固有受容器からの下行性出力によって, 可塑的に制御される。ELLに存在する2種類の二次ニューロン(LG/LF cell)と2種類の介在 ニューロン (MG1/MG2 cell) は,興奮性及び抑制性の二つのモジュールを構成して,感覚入力 に対してpositive-ONイメージとnegative-OFFイメージを同時に形成することが示唆されている。 in vivoおよびin vitroでの結果を基に,モジュール仮説について検討する。




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