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2020年12月16日
平成30年度 前期研修会の記録


  平成30年5月17日(木)〜19日(土)に第91回日本産業衛生学会が熊本市国際交流会館・熊本市民会館で開催され、産業歯科保健部会の平成30年度前期研修会が、5月18日(金)に開催されました。テーマは「ドライマウス」で、参加者は42名でした。


 【研修会の内容】

    テーマ: ドライマウス 〜働く人の未病と生活習慣病を見逃さないために〜

    座 長: 尾ア 哲則(日本大学歯学部 医療人間科学分野)

    演 者: 柿木 保明(九州歯科大学 老年障害者歯科学分野)


 以下に、学会講演集に掲載されました「座長の言葉」と「事前抄録」を、演者にご承諾をいただき、そのまま掲載させていただきます。


 【座長の言葉】

尾ア 哲則

日本大学歯学部 医療人間科学分野

  「ドライマウス」とは、唾液の量が減って口やのどが乾燥した状態を言うとされています。かなり多くの方がたが経験する可能性があるものと考えられていますが、歯科口腔領域の疾患としては、あまり大きく扱われることはありませんでした。しかし、「ドライマウス」になっている方にとっては、かなり厄介な状況であることは否定できません。さらにわが国では年金保険の給付年齢等の変更などが考慮されており、今まで以上に労働人口も高齢化していく今後を見据えて、このテーマを選んでみました。

  高齢者になると、唾液の分泌量が減り、また様々な疾患の治療用に服用している薬の副作用により、「ドライマウス」になりやすいといわれています。しかし、必ずしも高齢者だけでなく、働く年代の人々の中にも、近年見られるといわれています。

  なぜ、加齢の影響が低くても唾液の分泌量が減るのでしょうか。また、口腔領域以外の疾患あるいは生活習慣との関連も含め、原因から予防対策または治療まで、「ドライマウス」のすべてについて、九州歯科大学教授の柿木保明先生に、講演をしていただきます。


 [事前抄録]

ドライマウス〜働く人の未病と生活習慣病を見逃さないために〜

柿木 保明

九州歯科大学 老年障害者歯科学分野

  ドライマウスは、口腔乾燥あるいは口腔乾燥症の別称でもあり、高齢社会の到来とともに、臨床現場でも口腔乾燥感を訴える患者が増加してきているように思える。厚生労働省の調査研究事業においても、高齢者において口腔乾燥感を常時自覚している高齢者は27.6%であることが認められている。ドライマウスは、高齢者で多く見られるため、加齢による症状として認識されてきたが、近年では、加齢による唾液分泌低下はほとんどみられないとする報告が多くみられ、服用薬剤や生活習慣等との関連性についても指摘されている。

  ドライマウスは、口腔疾患だけでなく、義歯不適合や摂食嚥下障害、誤嚥性肺炎の発症とも関連していることが認められるようになり、重症例では発語障害で、口腔乾燥の訴え自体が表現できなくなることも多い。

  ドライマウスの症状は、唾液分泌量の低下や、口腔粘膜の保湿度低下、唾液の粘性亢進などで、いろいろな疾患や原因で生じ、口腔の乾燥感だけではなく、違和感や義歯不適合など様々な状態を含んでいることがあり、その対応も様々である。

  高温環境や発熱などの脱水状態では、体液の減少から唾液腺細胞から分泌される唾液量が減少して、唾液分泌低下をきたしやすくなる。また、寝たきり状態で自由に飲水ができなくなった場合なども、ドライマウスが生じるので注意が必要である。

  また、咀嚼機能低下や神経損傷、口呼吸などでもドライマウスが生じる。咀嚼機能が低下して咬筋などへの刺激がなくなると刺激時唾液も低下する。唾液量低下は、唾液腺への放射線照射による障害や唾液腺の外科処置などでもみられ、これは唾液腺細胞に対する直接のダメージや分泌抑制作用による。

  一方、唾液量が正常範囲でも、口呼吸や開口状態の患者では口腔乾燥を生じやすくなる場合がある。とくに、舌背部や口蓋部が乾燥すると自覚症状が強くなる傾向があり、高齢者では、薬剤性のドライマウスが多くみられる。降圧剤や安定剤、睡眠剤、鎮痛解熱剤など分泌抑制作用のある薬剤では、服用が短期間の場合には影響が少ないが、長期間の連用で、唾液分泌低下や口腔機能低下が生じ、ドライマウスも生じやすくなる。このような場合には、これまでは何の問題も生じなかったから薬剤性でないと判断するのは間違いで、長期間の連用で薬剤の影響が出てきたと理解すべきである。

  一方、水分摂取量が過剰な場合も、ドライマウスの症状を呈することがある。とくに1日2リットル以上の水分を摂取している場合には、水分代謝の異常から身体の浮腫が生じやすくなる。そのため、口腔内、舌にも浮腫を生じ、口腔機能不全の傾向から、唾液分泌の低下や分布異常が生じやすくなる。

  ドライマウスの評価は、一般に唾液量の計測で行うが、自覚症状があるにも関わらず唾液量が正常範囲の場合は、ストレスのせいや心身症と判断されることがあり、そのために、不利益を被っている患者も多い。

  同様に、食いしばりや歯軋り、舌痛症、顎関節症などもストレスと関連しているといわれるが、ストレスの病態を理解されずに、気のせいで片付けられている場合が多いように感じる。

  働く人の口腔健康管理では、歯と歯肉などが中心になることが多いが、口腔粘膜や唾液の分布、口腔周囲筋などについての観察も必要である。

  筋肉のコリは筋組織の浮腫状態でもあり、身体の水分代謝や分泌機能とも関連し、服用薬剤や生活習慣の影響を大きく受けている所見で、ドライマウスと関連している場合も多い。このような状態では、舌の浮腫状態や口腔内における唾液分布状態の異常として見られることがある。

  そこで今回は、舌や口腔粘膜の観察と評価から、唾液分泌や水分代謝の状態のほか全身状態の程度を理解することで、未病や生活習慣の問題点を把握し、働く人々の健康に寄与する方法についてお話できれば幸いです。

以上。


演者



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