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2014年10月27日
平成25年度産業歯科保健部会後期・関東産業歯科保健部会合同研修会の記録


  平成26年2月15日(土)に、平成25年度産業歯科保健部会後期・関東産業歯科保健部会 合同研修会が東京医科歯科大学において開催されました。テーマは「口腔領域の東洋医学」であり、馴染みの少ない東洋医学について産業歯科保健スタッフの知識を深める機会として企画しました。

  産業歯科保健の診療現場において、一部の舌痛症、顎関節症、顔面痛、口腔乾燥症など、西洋医学的な治療では奏効しない疾患が少なからず存在します。このような患者を診る機会が生じたときに、代替医療は選択肢のひとつになり得ます。そこで、本研修会では漢方薬治療や鍼灸治療の総論をお話しいただき、東洋医学の基礎を学ぶことを目標としました。実際に私達が患者にそのような医療を提供できるようになるためには、更なる研鑽が必要ですが、このような治療法の存在を知っているだけでも大きな意味があると考えます。

  講演は、座長の導入の後、別部智司先生による「口腔疾患での漢方治療」、海老原義也先生による「口腔疾患への鍼灸治療」の2つの講演が行われました。前日からの大雪の影響もあり、参加者は約20名と少ないなか、活発な質疑が行われました。

   座長: 松木 一美(日本歯科衛生士会) 佐々木好幸(東京医科歯科大学)
       (文責: 佐々木好幸)


 以下に演者による事後抄録を掲載します。



 講演 1.「口腔領域の東洋医学、現在の漢方薬治療について」

      別部 智司(別部歯科医院院長、横浜市開業)

  平成24年4月に発行された日本歯科医師会健康保険適応薬剤で、漢方薬は7製剤明記された。各都道府県で使用拡大はまちまちであるが、これらを中心に漢方医学の基礎と臨床について述べた。

  漢方医学は病気の症状や症候を詳細に観察して、医術として発展してきた治療学と言える。典型的診断法は東洋医学四診法を用いて六病位を考え、気血水論、八網弁証論、五臓論などを用いて証を決定するが、近年では中医学も混在する場合もあるり、身体の不調和に対して漢方薬を用いて治療する。主に生理機能の歪みが及ぼす全身の病状に対して処方を決める治療法で、バランスを整える治療となる。

  実際に用いる7製剤は煎じ薬ではなく、エキス顆粒製剤であり簡便に服用出来る。医療保険での使用においては先の証を立てる方法ではなく、病名により使い分けする事が義務付けられており、些か異様である。本稿では出典の記載通りの病名用いておおよそ以下の様に使用する。

  歯牙痛、抜歯後の疼痛、歯齦炎などでは立効散が適応となる。口内炎では急性期では半夏瀉心湯が、慢性期では黄連湯が、急性症状が続く場合には茵?蒿湯が適応となる。口渇では体液のバランスの不調和よる症状では五苓散が適応となり、脱水症状に起因する場合には白虎加人参湯が適応される。歯槽膿漏や歯齦炎などの化膿性炎では排膿散及湯が適応となる。漢方薬の用法、用量は通常、白虎加人参湯が9.0g/日で、その他の6製剤は7.5g/日となり、2?3回に分割して食前又は食間に経口投与する。年齢、体重、症状により適宜増減する。使用期間で頓服以外は、概ね2週間は様子をみて、症状に応じて投与期間を決め、薬効が期待出来なければ変更も考慮する。漢方薬は薬剤である以上、稀ではあるが副作用もある事を念頭に使用する。



 講演 2.「鍼灸の総論」「口腔疾患への鍼灸治療」

      海老原義也(鍼灸整骨院TAIU)

  鍼灸医学は約2000年前の中国で体系化され、6世紀頃に日本へ輸入され主要な医学の一つとして行われていたが、明治に入ってからは戦傷や感染症への治療に効果が高い西洋医学の採用により衰退していった。

  しかし1970年代以降世界保健機関(WHO)や米国国立衛生研究所(NIH)が鍼灸医学を評価する声明を出してから日本でも鍼灸医学が再評価され、現在日本の80の医科大学と付属施設のうち32施設で鍼灸治療が行われている。

  歯科領域では歯痛への鍼灸治療が有名であるが近年は顎関節症に対する鍼灸治療が注目されている。日本では顎関節症に対する鍼灸治療の認知度は低いが欧米では自己開口訓練、口腔内スプリント療法と共に行われている。

  ここでは当院で行っている顎関節症に対する鍼灸治療を紹介する。

  鍼は長さ30o、太さ0.14oのシルバー製を使用し、お灸は糸状に捻ったものを使用する。施術間隔は週に一回とする。

  顎関節症患者の40〜80パーセントは頸肩こりを訴えていて、鍼灸治療ではこの頸肩こりが治療点となる。通常頸肩こりは複数個所あるがその中で押圧した時に開口時痛が緩和し開口域が拡がる場所を探し、その場所に鍼を1〜2o刺入し患者に5回程度自己開口運動させてから抜鍼する。

  次に開口時に自覚痛を感じる顎関節付近に鍼を1〜2o刺入し、もう一度自己開口運動をさせる。

  鍼で効果が弱い場合には刺鍼した部位にお灸をして最後に円皮鍼を貼った。

  この方法を用いて当院の顎関節症患者6名を施術した結果、早い人で1回の施術で、最長で6回の施術で全員が症状の改善を認めた。

  顎関節症のように鍼灸治療の効果が期待できる口腔疾患については歯科医師と鍼灸師が連携した診療体制の構築が望まれる。


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  以上


 

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