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2011年9月22日
2011年5月19日に開催された 平成23年度前期 産業歯科保健部会研修会の記録


 2011年5月19日(木)に第84回日本産業衛生学会 産業歯科保健部会 平成23年度前期研修会「歯科領域における心身医学」が学会会場であるホテルアジュール竹芝において開催されました。参加者は約60名でした。

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 本研修会ではまず、日本歯科心身医学会の理事長である豊福明先生(東京医科歯科大学教授)に、働く人たちの歯科心身症について、臨床上どのような問題があるのか、何が治療を難しくしているのか、それらを克服するためにどのような工夫が必要なのか、また今後何が求められているのかについてお話しいただきました。

 次に、東京医科歯科大学歯学部附属病院口腔外科などの大学病院において精神科医との連携による「リエゾン診療」に長く携わってこられた和気裕之先生に、顎関節症や舌痛症を中心とした患者評価とその結果に応じた医療連携についてお話しいただきました。

 以下に演者の事後抄録を掲載します。

(文責:東京医科歯科大学大学院 う蝕制御学分野 佐々木 好幸)

 

「働く人の歯科心身症」
 東京医科歯科大学大学院 歯科心身医学分野  豊福 明

歯科心身症の診療

 歯科受診患者の5-10%が歯科心身症であると言われている。本症の中では、舌痛症、非定型歯痛、口腔異常感症、咬合異常感、口臭症などが代表的疾患である。当科には、年間1万人超の本症患者が受診し、実質4,5名のスタッフで狭隘な診療室をフルに稼働している。なおこれらのうち約30%が精神科・心療内科からの紹介である。しかし当科の患者の約80%は精神科的には大きな問題は無いと看做されている。本症では、器質的変化にのみ原因を求めると治療に困窮し、歯科処置の繰り返しで症状がさらに拡大・固定・増悪し、治療がますます困難になってしまう。逆に「こころの病」「精神科へ」といった安易な排除が却って病状をこじらせることもある。口腔の愁訴でも精神疾患の部分症状である場合は鑑別し、適切な治療ルートに導き、精神科主治医と協力してその解決に最善を尽くすというスタンスをとっている。

働く人の歯科心身症の臨床上の問題点

 「働く人」が本症に罹患した場合、勤務に支障をきたす場合も多く、休職を余儀なくされるケースすらある。古典的な心身症理論に基づき「仕事を辞めれば治る」などという示唆を与える医療者もいる。しかし、多くは退職しても本症は一向に改善しない。患者は無駄に職を失う結果になる。

 確かに病状が職場と関連していると思われるケースでは、本症の治療の一環として休養を勧めることもしばしばある。一方で、職場では当の患者は「困った人」になっている場合もある。それゆえに復職のタイミングや段階的な負荷の掛け方が難しいことがしばしばある。

 休職や時間短縮勤務などが絡んでくる場合、患者の言い分だけでなく、職場の状況なども勘案しつつ、なるべくバランスの良い最適解を目指す方が、結果的に患者のためになることがある。働く人たちの笑顔を守るためには、患者の口腔内だけでなく、職場も含めた最適解を求める必要がある。特に休職や復職に関する調整などは、産業医の先生方に是非御協力をお願いしたいと切に願っている。

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「歯科心身症と精神科リエゾン診療 ―顎関節症・舌痛症―」
 みどり小児歯科院長  和気 裕之

 大学病院で実施してきた精神科リエゾン診療の経験を基に"歯科心身症"の評価と対応法を述べた。歯科心身症の代表的な病態は、舌痛症、顎関節症、口臭恐怖症である(和気:心身医49,2009)。心身症には狭義と広義の概念が存在し、狭義は身体疾患の中でストレスにより発症・増悪し、かつ、精神疾患を除外した病態である。広義は心身医学的な対応を要する全ての疾患を指し、身体症状を呈する精神疾患を慎重に鑑別する必要がある。

 顎関節症は、多因子性でありその中では行動学的因子(ブラキシズムやTooth contacting habit:TCH)と心理社会・精神医学的因子(社会活動での緊張や疲労、不安や抑うつ、神経症的性格傾向等)が重要である。臨床では中核群と周辺群の存在を理解する必要がある(和気:65回日口科学会・抄録集,2011)。中核群は、素因(顎関節・咀嚼筋の脆弱性等)に、ブラキシズム、TCH、ストレス、筋緊張の亢進、咬合・姿勢・睡眠の異常等の因子が重なることで、筋筋膜痛、滑膜炎、円板転位等が起こり発症する。治療はNSAIDs、認知行動療法、運動療法等で効果は比較的得られやすい。一方、周辺群は顎関節症の症候があり、慢性疼痛、不定愁訴、咬合違和感等の病態で、精神医学的な評価と対応を要し難治性である。すなわち中核群は狭義心身症に該当し、周辺群は広義心身症に相当する。顎関節症症状を訴える患者が来院した場合は、まず、傾聴と共感を基本とする医療面接を行う。続く鑑別診断では、心身両面からの診査を実施する。そして、顎関節症と診断した場合は、一般臨床医は主に中核群を対象とし、周辺群は精神科との連携や高次医療機関へ依頼するべきであろう。

 舌痛症は、他覚所見が見つからず、食事等の刺激で誘発されない特徴がある。ガン恐怖や抑うつ症状が認められる場合は、心気症・疼痛性障害・うつ病等に伴う舌痛と捉えることが可能であり、それぞれに準じた対応を要する。

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