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2007年9月21日
第80回日本産業衛生学会総会 産業歯科保健部会設立記念フォーラム
および 第17回職域口腔保健研究会の記録
産業衛生学会 産業保健部会 監事
日本原子力研究開発機構箕輪診療所 伊藤 博明
昨年仙台の第79回日本産業衛生学会において産業歯科保健フォーラムが開催されました。「職域における歯科保健のあり方を考える―産業歯科保健部会立ち上 げに向けて」と題して各分野でご活躍の5名の先生方からそれぞれの分野での役割、また期待すべきこと、企業からみた歯科保健事業についてのお話をいただき ました。その後十分な検討が重ねられ、理事会でも承認いただき、日本産業衛生学会で4番目の部会として産業歯科保健部会が誕生いたしました。

写真平成19年4月25日大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて総会につづいて記念すべき産業歯科保健部会設立後第1回産業歯科保健フォーラムが開催されました。

 まず、産業歯科保健部会長藤田雄三 先生より、承認いただきました学会長清水英佑先生をはじめ理事の先生方への深甚よりの謝意、部会として産業歯科保健が健康全体に及ぼす影響、勤労者を取り 巻くさまざまな環境要因と口腔保健との関係を明らかにし、現場で具体化する推進体制と手法の確立、さらには他職種から多くの参加を得て、相互理解のもと進 めていく協力・連携の必要性。また、4月24日現在216名の産業歯科保健部会員の参加が得られているとの話がありました。ついで、学会長清水英佑先生よ り今後の期待、ならびにご祝辞をいただきました。

 この後「産業歯科保健フォーラム―部会設立にあたって―」と題して、産業歯科保健に関する各団体・学会の代表者よりそれぞれのお立場で産業歯科保健にどのように取り組むのか、その中で本部会にはどのような期待があるのかについて話を伺いました。

 まず、社団法人日本歯科医師会会長大久保満男先生から「新たな産業歯科保健への展望」と題して、一日の三分の一、起きている時間の半分を過ごす働 く場が、その人々にとって生活の場であると考え、このような生活という視点を包含した労働の場ということを再確認し、食べること、会話すること、生活する 力を支援する医療・保健を担っていくことの大切さ、そして新たな可能性を考えるヒントとなる静岡県大仁町(現:伊豆の国市)での自分の健康を自分で守る視 点で住民参加の形で展開され、今も継続している歯周病予防事業の事例をお示しいただき、誇りと使命感を持って前向きにやっていただきたいとエールを送って くださいました。

 そして、社団法人日本歯科衛生士会会長金澤紀子先生からは「産業保健活動における歯科衛生士の役割」と題して、産業歯科保健活動における歯科衛生 士の人材育成の推進を図るとともに、産業医、産業看護師等の他の専門職と連携した保健指導の必要性、さらには事後措置が必要になった方々をかかりつけ歯科 としてフォローアップしていけるようなネットワークづくりの重要性についてお話いただきました。
 次いで日本口腔衛生学会理事長中垣晴男先生(愛知学院大学教授)には、関連学会として産業歯科保健の研究に関しての展望について「産業歯科保健と 歯の健康づくり」という演題で話していただきました。歯科に関する正しい生活習慣はすべての領域の正しい生活習慣と同様であり、歯科や口腔の健康状態は本 人が自覚しやすく、改善努力により効果があがりやすいという利点もあり、歯や口腔の健康や生活習慣の他の領域、全身の健康づくりの指標となりえます。 THPだけでなく「健康日本21」でいうヘルスプロモーションにおいても歯科は非常に重要な位置にあるといえます。今後は疾病の予防でなく健康を対象にし ていく研究や活動の展開「健康創造」が必要です。また、産業歯科保健のターゲットとしては「8020運動を知っていますか」「かかりつけ歯科があります か」という設問で他の年代と比較して"少ない"という結果を示した20〜40歳に重点を置いたほうがより効率がよいと思われるなどのアドバイスをいただき ました。30代からより重篤な歯周炎に罹患している方が増えていることが当事業所の職員のデータからもわかっておりますので、やはり若年者を対象にした行 動変容につながるような保健プログラムの開発・実施などの対策が重要になろうと思います。

また、財団法人ライオン歯科衛生研究所片倉豊樹副理事長からは、長く産業歯科保健に取り組んできた代表的な健診団体のひとつとして「産業歯科保健 活動の期待される役割と展望」と題して、産業歯科保健活動の効果として 継続的な実施は歯科医療費および通院回数の抑制に寄与していることをお示しいただき、歯科保健関係者は産業医、産業看護職さらには企業のステークホルダー (利害関係者)などと連携し、生活習慣病予防などとの関連を含め、活動の有用性に関するEBMを蓄積してその価値を広く情報提供しながらニーズを高め、さ らにコミュニケーションを図りながらともに成長しそれぞれの利益を実現していく必要があり、今後活動を常に進化させその存在価値を高めていく努力の継続の 必要性についてお話いただきました。
 最後に産業歯科保健部会副部会長の加藤元先生から「産業歯科保健部会の今後の展望」と題して、まず産業歯科保健活動が広まっていかない阻害因子について下記のようにいくつか説明がありました。

【産業歯科保健活動の阻害因子】

  • 法的基盤が希薄
  • 歯科が産業保健の視点で捉えにくい
  • 産業保健スタッフとの連携が不十分
  • 社員の認識不足
産業歯科保健部会では、これら阻害因子を一つ一つ解決させるべく産業歯科保健について系統的に、継続的に、そして組織的に学術的な研究、研鑽を重ねて、専 門職の職能向上と、他職種との連携を図ることにより産業歯科保健活動を充実、発展させ、勤労者の口腔保健を促進させ、ひいては産業保健全体の発展につなが る活動をしていくことを目的としています。
 産業歯科保健部会では、これから紹介する5つの事項を柱として今後研究し、解決を図っていきたいと考えています。

1.口腔保健活動の推進
 1-1ヘルスプロモーション型の歯科保健活動を推進する手法の確立
  ・一次予防に寄与できる歯科健診や予防支援の方法についての検討
  ・生化学検査の検証とその応用(唾液、歯肉溝浸出液等)
 1-2口腔の健康指標・効果測定指標の策定
 1-3活動意義の明確化
  ・保健行動、身体的評価    ・労働生産性
  ・医療費抑制効果       ・全身の健康維持の促進への寄与
  ・他疾患の発見のきっかけ   ・CSR 企業イメージ
 1-4海外派遣労働者の歯科健康管理
  ・海外派遣労働者の歯科問題の把握
  ・海外の歯科に関する情報提供 ・渡航前健診に歯科健診を導入
2.労働と関連した歯科の健康障害の解明
  ・勤労者をとりまく様々な環境要因との関連について→作業関連疾患
  ・業務に起因する歯科疾患の解明
3.職業性歯科疾患の研究と歯科健診実施の促進
  ・酸蝕症など職業性疾患の実態調査、特殊健診・事後措置の研修
4.職域としての歯科医院・歯科技工所・歯科教育機関などの安全衛生
  ・労働条件、3管理、粉塵、アマルガム、アスベスト等の調査・研究
5.連携
 5-1産業歯科保健と地域歯科保健の連携
   共通の理念・指標・手法を共有
 5-2研究者、産業医、産業看護職、衛生技術者等との連携
  ・保健活動の連携、学術的な調査・研究の連携

と部会の持つ役割、果たすべき役割についてわかりやすくご提示いただきました。
 産業歯科保健フォーラム終了後、1時間少々の休憩の後の午後6時より第17回職域口腔保健研究会(自由集会)が開催されました。

 まず、財団法人ライオン歯科衛生研究所武井典子先生より「肥満と咀嚼の関連性」についていくつか報告がなされました。詳しくお知りになりたい方は、どうぞ本文末の【参考文献】をご覧下さい。

T.就業者の肥満と食習慣に関する研究1)
 食べ方に関する「早食い」「よく噛む」「一口に食べる量」および食事の内容に関する「野菜の摂取」の項目とBMIとの比較で有意差が認められ、生活習慣 病のリスク要因である健康診断結果(BP,GOT,GPT,γ-GTP,TG,FBS)と食習慣との関連性も認められ、生活習慣病の予防には食べ方を含む 食習慣に関する健康教育の必要性が示唆された。

U.肥満予防のための「健康つくりセミナー」の効果2)
 肥満は「健康つくりセミナー」を通しての健康教育およびフォローアップにより改善することが明らかとなった。

V.咀嚼方法の違いによる食事前後の生化学検査の比較3,4)
 よく噛むことによって少ない摂取量で満腹感が得られた。また、血糖値の上昇は食事方法による違いは認められないが、よく噛むことによりインスリンの分泌量を少なく抑えられることが示された。

W.咀嚼機能訓練ガムの肥満の改善への効果5)
 ガムを継続的に咀嚼した群でBMIの平均改善値が高い傾向が示された。

など興味ある報告がなされました。

 次いで日本歯科大学東京短期大学福田雅臣教授から「2色ガムから見えてくる歯科保健活動」と題して、平成16〜18年度日本歯科医師会産業保健委 員会(桜庭幸夫委員長)で事業所における歯科保健事業構築のためのワーキンググループを立ち上げ、事業所における新しい歯科健診のあり方について検討を行 い、2色ガムによる口腔機能検査法(混合能力診査)と歯・口の機能や疾病・障害に関わる質問票を併用した歯科健康診査法を主要検討項目とし、この自由集会 では検討されてきた健診内容および口腔機能検査法の条件設定についてのお話に続き、2色ガムを用いた事例の報告があり、2色ガムを用いた診査法は短時間で の実施が可能であり視覚的に評価可能であるため受診者への理解も得やすく、歯科健診後の保健指導にも有用であり、受診者との双方向性のコミュニケーション が可能であるとまとめられています。
 続いて東京歯科大学社会歯科学研究室石井拓男教授から「医療制度改革と 産業歯科保健活動」と題して、平成18年6月14日に制定された医療制度改革関連法という極めて大きな法改正があり、その趣旨は

  1. 安心信頼の医療の確保と予防の重視
  2. 医療費の適正化と総合的な推進
  3. 超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系
の実現の3つを柱とするものであった。産業保健とのかかわりを考えると、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するため の計画の作成、健康診査等の実施という考え方と労働災害防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずるための対策 の推進という根本的な姿勢の違いを調整しなくてはならないという大きな課題が立ちはだかっているというお話があり、いくつかの質疑応答で幕を閉じました。

 今後の産業歯科保健が進むべき方向性を考える上で有意義なイブニングを過ごすことができたように思います。

 自由集会後、30名を超える方の参加を得て、会議場近くの高架下の居酒屋2階で懇親会が盛大に催され、おいしい料理と適度なアルコールも手伝い語らいの中で、夜が深まるとともに志を同じくする仲間との友好が一層深まりました。

 最後に産業歯科保健部会設立にあたり多大なご尽力をいただきました藤田雄三部会長、加藤元副部会長をはじめとする幹事会の先生方に深甚より感謝いたしますとともに、当日フォーラム、自由集会に参加いただきました日本労働衛生研究協議会の会員の先生方に深謝いたします。
【参考文献】
1)武井典子、伊藤健三、渋谷耕司、石井拓男ら:就業者の食習慣と生活習慣病のリスク要因について、口腔衛生学会誌、51(4)、702−703,2001.
2)渋谷耕司、武井典子、小笠原妙子、石井拓男:就業者の食習慣と肥満に関する研究〜肥満予防のためのセミナーの効果〜、平成14年度8020公募研究事業研究報告書、財団法人8020推進財団、142−148,2002.
3,4)石井拓男、武井典子、折津政江、柳沢幸江、小笠原妙子、渋谷耕司:咀嚼と肥満の関連性に関する研究、平成14年度厚生労働科学研究費補助金報告書、
       3);353−356、2003、 4);345−349、2004.
5)石井拓男、武井典子、折津政江、柳沢幸江、小笠原妙子、村越倫明、渋谷耕司:平成16年度厚生労働科学研究「咀嚼と肥満の関連性に関する研究、平成16年度総括・分担研究報告書、75−81、2005.

【報告者への連絡先】
〒319-1113那珂郡東海村照沼1230-2日本原子力研究開発機構箕輪診療所
産業歯科保健部会設立記念フォーラム
および 職域口腔保健研究会(自由集会)の写真は

こちら

第80回 日本産業衛生学会 産業歯科保健部会設立記念フォーラム
日時 平成19年4月25日(水)14時〜16時30分
場所 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)特別会議場
   大阪市北区中之島5丁目3番51号
フォーラムタイトル
   「産業歯科保健の未来 − 部会設立にあたって −」
座長 藤田 雄三(神戸製鋼)
   雫石 聰(大阪大学教授)
 1.(社)日本歯科医師会会長 大久保満男先生
   「新たな産業歯科保健への展望」
 2.(社)日本歯科衛生士会会長 金沢紀子先生
   「産業歯科保健活動における歯科衛生士の役割」
 3.日本口腔衛生学会理事長 中垣晴男先生(愛知学院大学教授)
   「産業歯科保健と歯の健康づくり(口腔衛生学の立場から)」
 4.ライオン歯科衛生研究所副理事長 片倉豊樹先生
   「産業歯科保健活動の期待される役割と展望」
 5.産業歯科保健部会副部会長  加藤元先生
   日本アイ・ビー・エム 箱崎健康支援センター 予防歯科
   「産業歯科保健部会の今後の展望」

職域口腔保健研究会(自由集会)
日時:平成19年4月25日(水)18時〜20時
場所:大阪国際会議場(グランキューブ大阪) 1010〜1012
内容: テーマ 「食行動と肥満」
演者
ライオン歯科衛生研究所研究部主任 武井典子先生
東京歯科大学教授   石井拓男先生
日本歯科大学教授   福田雅臣先生
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