医療事故裁判のレビュー

「少しのことにも先達(せんだち)はあらまほしきことなり」(徒然草 第五十二段 仁和寺にある法師)

2015年10月19日,アマゾンは,同年4月に「偽レビュー販売やめろ」訴訟を起こしたのに引き続き,今度は1114人の偽レビュアーを訴えました(関連記事).それほど,ネット上に掲載される商品のレビューは影響力が大きくなっています.店頭にない書籍の購入の参考情報は,新聞の書評欄が頼りだった時代は遠く過ぎ去りました.みなさんも,書籍,日用品,家電製品,食品といった消費財ばかりでなく,飲食や,宿泊といったサービスを利用する際にも,優れた先達によるユーザーレビューを活用しているでしょう.商品・サービス提供者による宣伝よりも利益相反の影響がはるかに少ないですし,多くユーザーレビューを見比べて自分なりの判断を下すことができます.もちろんアマゾンが問題にしているように,偽レビューやステルスマーケティング類のレビューもたくさんあるでしょうが,「だまされまい」という緊張感でレビューの品質を見極める作業はユーザーリテラシーを育成することにつながり,むしろ楽しいものです.

問題は商品,サービスによっては,必ずしもユーザーレビューが見つかるとは限らないことです.不動産・建築,保険商品,金融商品,そして医療.命,人生,お金といった重要なサービスにはユーザーレビューがありません.少しのことにも先達はあらまほしきことなのですから,大切なことにはなおのことユーザーレビューが必要なのに,どうしてユーザーレビューがないのでしょうか?ユーザーによって,受ける・期待するサービス内容が全く異なるから,他人においそれと助言できないこと,自分の大切な秘密を明かすことになること,いろいろ理由は考えられますが,自分の人生や多額のお金や命が関わってくる商品・サービスですから,その商品・サービスの購入にあたっては,何とかしてユーザーレビューなり,当該領域に精通していながらも中立の立場にある専門家の意見なりが聴きたいと思うわけです.たとえば診療所・病院ならば,実際に通院している・したことのある人の口コミが今でも有力な「ユーザーレビュー」となっています.

裁判はそれを受ける人の人生を左右する極めて重要なサービスですが,適切なユーザーレビューにお目にかかることはまずないと言っていいでしょう.裁判についてユーザーレビューが見つからない理由は,上記に挙げたように,医療を始めとしたサービスについてユーザーレビューが少ない理由の他にも,裁判特有の理由が考えられます.まず,そもそも,ほとんどの市民は裁判をサービスではなく「お白州」であり,被疑者は「推定有罪」という「信仰」を検察,マスメディアとともに共有しています.さらには,検察官も裁判官も税金で禄を喰む国家公務員であって,市民に奉仕する義務があること.彼らには公僕としての基本的な責務があること,たとえば市民に対して業務の透明性と説明責任を負うことこと.そういった法的リテラシーの基本中の基本を,市民のほとんどが忘れてしまっている,というより,そもそもそういう教育を生まれてこの方受けたことがないのです.これは裁判のユーザーレビュー以前の問題です.

では,裁判のユーザーレビューなんて,日本では夢のまた夢なのでしょうか?ご心配には及びません.裁判があり,その裁判を公共サービスと捉えるユーザーがいれば,自然とそこにユーザーレビューが生まれます.そうして生まれたレビューは多くの人に読まれるでしょう.なぜなら,裁判はそれを受ける人の人生を左右する極めて重要なサービスであり,レビューの潜在需要が極めて高いからです.問題はレビューの質です.レビュアーについては,利益相反を含めたレビュアーの属性(経歴,所属組織,業務内容,専門分野等)が開示されていることが最低限の必要条件です.レビューの公開形式としては,いつでも誰でも無料で見られることが望ましく,レビューの内容については,そこで言及するサービスの提供者・関係者,刑事裁判だったら,被告人,弁護人,検察官,裁判官の氏名が明らかにされていることが必須です.以上の条件を満たさなければ,レビューとは認められない.そう思って私は自分のコラムの記事を執筆しています.

この点,裁判に関する報道は決してレビューになり得ません.医療事故裁判で言えば,刑事裁判の報道は検察の広報に過ぎませんし,民事訴訟の報道は常に医療機関・医療者に不利なバイアスに満ちています.たとえみのもんたがテレビ画面から完全に姿を消したとしても,このような「みのもんたスピリッツ」を生かした医療事故裁判報道は続きます.その最大の特徴は,隠蔽体質です.北陵クリニック事件,高濃度カリウム製剤誤投与事故,ウログラフィン誤使用事故,いずれの医療事故裁判でも,本質的な事故原因の数々が隠蔽されましたが,マスメディアはどの事件についても一切完全黙秘を続けています.北陵クリニック事件における神経難病患者の生命の危険についても同様です.この隠蔽体質は,医療事故裁判に限りません.マスメディアはそもそも検察官の名前すら公表しようとしません公判検事の名前を公表してはいけないなんて法令はどこにもないのに.赤字解消にために少年事件の実名報道は平気でやるくせに.腰抜け記者どもが.

私が医療事故裁判のユーザーレビューを心がけるのは,私自身が仙台地検の検察官から,そしてその検察官に騙された仙台地裁の裁判官から,藪医者,嘘つき呼ばわりされるという,司法過誤の被害者であるばかりでなく,ミトコンドリア病患者さんが不整脈による突然死の危険に晒されたまま何の治療も受けられずに放置されているからです.→医療事故ビジネス

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