COVID-19の致死率は0.2%未満
-我々は決して間違ってはいない-

テドロス事務局長は(4月)13日の会見で新型コロナの致死率ついては、2009年に流行した新型インフルエンザより「10倍高い」と警告した。(新型コロナ、回復者に免疫あるか不明 WHOが警告 日経 2020/4/14

それが何であれ、
あんたが言うこととは違うところに全て真実があるとみんな思っている。

致死率0.2%未満の「衝撃」?
致死率と対単位人口死亡数の違いは?なぜアイスランドなのか?致死率算出の実際では我々はどうするのか?

2020/4/26追記 やはり致死率は0.2%未満
抗体検査は真の致死率を知るための有力なツールである。まだ特に検査キット登場初期なので、感度や、検査対象集団の事前確率というバイアスの影響が大きいが、今後の検討、特にアイスランドでの抗体検査の結果が待たれる

感染者数、実際は50倍超か 米加州でコロナ抗体検査 2020/4/20 11:23
【ロサンゼルス=共同】米スタンフォード大などの研究チームは19日までに、西部カリフォルニア州サンタクララ郡の住民を対象に新型コロナウイルスの抗体 検査を行った結果を公表した。ウイルスに感染した人は4月初めの時点で同郡の人口の推計2.5~4.2%に上り、確認されている感染者の50~85倍に及 んでいる可能性があるとしている。研究チームは「実際の感染者は報告されている数よりもずっと多いことを示唆している」と指摘。推計を基にした致死率は0.1~0.2%と算出した。研究チームは同郡の保健当局と協力し、ドライブスルーの検査場3カ所を設けて4月3~4日に検査を実施。住民3330人を対象に血液を採取し、感染すると免疫反応により体内でつくられる抗体の有無を調べた。性別や人種などの要素を踏まえ、1日までに感染した人は同郡で推計4万8千~8万1千人に上ると分析。同日時点で実際に感染が報告された人は956人だった。研究チームは報告書で、交流サイトのフェイスブックを通じて参加を募り、検査には車も必要だったことなどから被験者には一定の偏りが生じ得ると説明している。

致死率0.2%未満の「衝撃」?
上記タイトルを見た時の、あなたの気持ちはどうだっただろうか?このページを読み進めるかどうかを判断するにあたって、下記の選択肢がきっと役立つに違いない。

1.けしからん。こんな数字を表に出されたら、我が社のデマ記事が売れなくなる。こんなページは絶対読まない。読みたくない。ましてや報道なんか絶対にするもんか。報道しない自由を存分に発揮して、裁判真理教同様に葬ってやる。
2.ラッキー!!これで安心して終息打ち上げリベンジパーティを企画できる。でも「0.2%なんて真っ赤な嘘だ。世界最高権威であるブルッキングス研究所の報告書にはCOVID-19はスペイン風邪の再来とある。我々が既に人類滅亡に備えているのもそのためだ。検査をけちっている日本なんぞは真っ先に滅亡する。生き残るのは世界一の規制当局FDAを擁する世界一の軍事大国だけだ」って某国の偉い人が言ったらどうしよう。まっ、その時はパーティの予約をキャンセルすればいいや。
3. 感慨深い。ここまで現場で頑張ってきた甲斐があった。でもWHOが信頼できないことはもちろん、どの国のどこの機関もデータを持っていない現状で、どうやって致死率を算出したのか是非知りたい。
4.どうにも怪しい。想定の範囲内の下限を超えている。データの出処は?(←下記を読む前に、あなたの「想定の範囲」とやらを導き出した根拠を教えてもらいたい)
5.高いか低いかはどうでもいい。データの出処は?(←前もって自分なりの予想を用意しておくと、この後を読んでの勉強の効率がずっと良くなりますよ)

なので、1,2の人は以下を読む必要がない。そもそもそういう人は何が書いてあるのか理解できないだろうし。3-5の方々はどうぞ()内のアンケートに答えた上で以下を御覧あれ。ただし、その前に、「致死率」と「対単位人口あたりの死亡数」の違いを確認しておこう。なお、単位人口当たりの死亡数を「死亡率」と呼ぶことがあるが、下記の理由で好ましくない

致死率と対単位人口死亡数の違いは?
致死率は、病気にかかって症状が出た人(患者)のうち死亡する可能性という、前向き指標である。特に流行期は分母である患者数を固定するのが不可能なので、致死率を算出したとしても、あくまで暫定値に留まる。流行初期ほど軽症患者の把握が難しいので、暫定致死率は高くなりがちで、以後終息に近づくにつれて下がっていくのが一般的である。それに対して単位人口(10万あるいは100万)当たりの死亡数は、その国の人口を分母にした死亡者数という、後ろ向き指標である。単位人口当たりの死亡数は分母が動かないので、流行期間中でも、特定の国、地域で経過を追うのにも、また各国、地域での流行の状況を横断的に比較するにも有用な指標である。病気の脅威度を考える上で、この二つの指標は明確に区別して使う必要がある。繰り返すが,時に単位人口当たりの死亡数を「死亡率」と称することがあるが、致死率との混同を招くので、好ましくない。

なぜアイスランドなのか?
データの出処は皆さんにお馴染みのCOVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICである(なお,このサイトにある日本のデータは信用しないこと)。採用したのはアイスランドのデータ。同国のCOVID-19への対応の詳細については、「アイスランドは本当に優等生なのか?」を参照のこと。なぜアイスランドを選んだのかは、多くの人には直観的にわかってもらえるだろう。以下は,学生,研修医向けの説明。

流行の最中のデータの問題点は,現場の混乱,検査キットの不足といった,それこそリアルワールド特有のバイアスが入りまくることである.
1.無症状病原体保有者を十分補足できない→その結果分母が小さくなってしまう→見かけ上致死率が高く出るバイアス:これも立派な感染者で,致死率の分母に入る.実際に毎日報道される数字の中には無症状病原体保有者が1/3含まれている。たとえば,4/12の厚労省のデータでは,感染者 6616名中,患者(有症状者)4257名=無症状性病原体保有者は2359名(36%)
2.PCR検査対象が死亡リスクの高い集団に絞り込まれてしまう→これも致死率の過大評価に繋がる。極端なことを言えば,呼吸困難を起こしている事例だけを検査すれば致死率は100%に近くなってしまう。
3.検査キットの感度が低ければ低いほど分母が小さくなってしまう=見逃しが多くなる。

その点,人口35万のアイスランドの現状は,現場の混乱がなく(国内は日本同様ロックダウンしてない),かつPCR検査が国民の10人に一人弱行われている環境なので,1,2のバイアスコントロールは世界最良.これがアイスランドを選んだ理由である。さらに,アイスランドは小国の利点を生かし,保健・医療,民族系統(genealogy)及びbiobankが有機的に結びついたナショナル・データベースを持っており,米国NIHと共同研究体制を組んでいる。このような体制があれば,今回の感染終息後に十分な感度を持った抗体検査を用いれば,真の致死率を導き出すことも可能となる。

致死率算出に必要なのはかけ算と割り算だけ
「データ」と言っても必要なのは、検査陽性者数と死亡数だけで、用いる計算はかけ算と割り算だけである。2020年4月10日(日本時間)現在、検査陽性者数1648、死亡数6 だから、致死率を単純計算すると6/1648=0.36%。ただしPCR検査の感度は現場の感覚ではどんなに贔屓目に見ても70%プライマリ・ケア連合学会発行の初期診療の手引きでも60%程度との評価なので、ここは保守的に60%の感度とすると、偽陰性者を含めた感染者数は1648x10÷6=2747。これを分母とすると、6/2747=0.22%となる。これは、「あの」WHOの当初の評価2%の1/10である。しかし、WHOの名誉のために断っておくが、上述した通り、時が経ち検査の偽陰性者や軽症者の割合が明らかになるにつれて(つまり分母が大きくなるにつれて、致死率がより低くなっていくのは当然であり、もちろんそのことはWHOでも(ごく一部の偉い人を除けば)わかっている。

もちろんアイスランドとて、アイスランド人全員を検査したわけではない。2020年4月10日の時点での検査件数は32663件(COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC)。一人に複数回検査することもある点を考慮すると、検査を受けたのは36万人の国民の10人に1人にも満たない。従って、今回得られた0.2%という数字も、今後さらに下がる可能性がある。タイトルに0.2%未満としたのもそのためである。(上記日経記事↑参照

なお,アイスランドと雖も上記のバイアスを完全に排除できているわけではないので,現時点でリアルワールドで得られるベストエビデンスが「0.2%未満」となる.最終的な致死率算出には感染終息後,十分な感度を持った検査による抗体保有者の疫学調査(1,2のバイアスを排除できるので,0.2%より低い致死率が得られる)を待たねばならない。日本はとてもそこまでやれないだろうが,アイスランドは上述のようにそこまでできる体制を整えている。.

では我々はどうするか?
調べるのが面倒だという物臭のために(ったく手の掛かること):類縁疾患の致死率は次の通りスペインフル:2.5%、SARS:全年齢平均で10%前後で,高齢者でより高くなる、MERS(出典略):どの記事にも35%とやたらと高い数字が書いてあるだけ。その後のフォローはなされていない模様。アジア・インフルエンザ(H2N2型、1957-58)0.5%香港・インフルエンザ(H3N2型, 1968)、2009年新型インフルエンザ(A/H1N1型)ともに 0.1%以下 (病原性別 新型インフルエンザの分類

上記の「相場観」から言うと、致死率0.2%未満は既知の脅威である。それにもかかわらず、COVID-19パンデミックでは、我々はかつてのインフルエンザパンデミックをはるかに凌ぐ対応を強いられている。その理由は単一ではない。人口の高齢化、医療サービスに対する受療行動の変化(患者側がサービス提供者に対しより父権的な態度・行動を求める)、ネットの発達でパニックが起こりやすくなっている等、複数あるが、我々がコントロールできる原因に集中し、コントロールできない原因を考慮の外に置くと、やるべきことが見えてくる。そしてそれは既に行われている。

SARS-CoV-2の一番厄介なところはあの手この手を使って入院期間を長引かせる、より具体的に言うと、重症者用の大切な病床が中等症~軽症者に長期間に渡って占拠される点にある。それに対抗するため、退院の判断基準の緩和、後方病床確保手段としての市中病院でのCOVID-19患者の受け入れ拡大、精神科で言うところの「ハーフウェイハウス」施設の拡大(例:ホテルの借り上げ)という施策が既に行われている。もちろんこの方針は正しい。医療崩壊を防ぐためには、今後はこれらの方針をどんどん進めていく。「致死率0.2%未満」は、我々が決して間違ってはいないことを教えてくれている。なお、感染爆発の際の最大の課題については別ページを参照のこと→呼吸器使用のトリアージ

参考記事
日本の死亡率が低かったのは何故か?日経メディカル (2010/07/24):新型インフルエンザパンデミック2009では、日本の対人口10万死亡数が他の先進諸国に比べて際だって少なかったことについての議論。ただし、「3日間、長野県軽井沢でシンポジウムを開き、H1N1パンデミックのこれまでと今後について、泊り込みで議論したが→議論は収束しなかった

厚生労働省 新型インフルエンザの診療に関する研修 2011年11月6日 岡部信彦先生のスライドより.

We could be vastly overestimating the death rate for COVID-19. Here's why (特に医療職以外の人向け。医療職にとっては常識的なことが書いてあるが、英語の勉強にはなるかも)

アイスランドは本当に優等生なのか?
呼吸器使用のトリアージ
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