ゴミの山から宝を見つける
−NDBを用いた慢性硬膜下血腫の疫学研究−

ビッグデータという名のゴミの山から宝を見つけ出すにはそれなりの工夫が必要である.たとえば厚労省のNDBデータを利用する時の最大の問題である,「保険病名によるコンタミネーション」をどうやって回避するか?big dataに内在するそんなbig challengeに対し,明確な回答を出した上で行われた,頑健性の高い疫学研究である.治療法のコードを用いるという方法がどんな疾患の疫学研究にも適用できるわけではないが,NDBを利用してpeer reviewに耐える論文を書こうと考えている研究者に選択肢を示した功績は大である.
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慢性硬膜下⾎腫発⽣頻度、既定概念の15−30倍 ⼈⼝10万対30⼈、⽇医総研がNDBデータ分析 キャリアブレインマネジメント 2019年01⽉11⽇

⽇本⼈の慢性硬膜下⾎腫の発⽣頻度は⼈⼝10万⼈対30⼈程度であることが分かった。これまで10万⼈対1−2⼈で⾼齢男性に多いとされてきたが、それらの概念を⼤きく覆す結果だ。⽇本医師会総合政策研究機構が、厚⽣労働省のNDBデータを分析し、ワーキングペーパーで明らかにした。その発症と抗凝固薬や抗てんかん薬、精神神経⽤薬、泌尿器科⽤薬との関連についても調べ、それら薬剤の使⽤群と⾮使⽤群との間で有意差が認められた。

NDBデータはレセプト情報が基本だが、その病名から慢性硬膜下⾎腫を⾒たのではなく、慢性硬膜下⾎腫に対して実施される⼿術として、慢性硬膜下⾎腫洗浄・除去術(穿頭)と慢性硬膜下⾎腫穿孔洗浄術の算定回数を集計したとしている。その重症度を問わず、治療法は⼿術であること、また、診療⾏為として特定できる独⽴した診療⾏為コードとなっているため、「特異度、感度ともに極めて⾼いリアル・タイム・データ」だという。

集計の結果は、⼈⼝10万⼈対発症数が2016年は男性39.4⼈、⼥性18.5⼈となった。10年は男性35.3⼈、⼥性16.7⼈で、共に増加傾向にある。年齢階級別では、39歳以下でも男性0.8⼈、⼥性0.3⼈と発症しており、男性は50歳から2桁、75歳から3桁となり、90歳以上では450.3という数字になる。⼥性も65歳から2桁、85歳から3桁となり、90歳以上では137.7⼈となる。

都道府県別では男⼥を合わせた数値を⽰しており、最も少ないのは沖縄で21.7⼈。埼⽟22.7⼈、東京23.9⼈、⻘森24.2⼈、神奈川24.3⼈も少ない。⼀⽅、発症数が最も多いのは⿃取の44.2⼈で、沖縄の2倍以上となっている。以下、宮崎40.1⼈、⾼知39.9⼈、⿅児島39.2⼈、⾹川38.3⼈などと続く。全国平均は⽰していないが、都道府県順で中間となる23位の静岡30.3⼈、24位の富⼭30.7⼈が平均に近いと考えられる。

慢性硬膜下⾎腫は、⾼齢の男性に多く、年間発⽣頻度は⼈⼝10万対1−2⼈とされてきたが、発⽣頻度は15倍から30倍にも達していること、男性に多いが⼥性も相当数あることなど、これまでの概念を覆す結果となった。また、⾼齢者ほど発⽣頻度は⾼く、年々増加していることは確認された。さらに、⼊院期間が⾼齢になるほど⻑くなることを確認、⼊院期間の⻑期化は予後が必ずしも良くないことを⽰すとしている。

⽇医総研資料
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臨床研究領域でのNDBの活用「促進すべき」  日医総研WP 日刊薬業 2019/1/22 11:00   
 日医総研はこのほど、ワーキングペーパー(WP)「レセプト情報等データベースオンサイトリサーチセンター第三者利用」を公表した。NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を実際に活用した事例を踏まえながら「レセプトでは、診断のための検査を実施する際に、確定前の診断名を記載することになるため、臨床的な研究においては、こういった乖離があることを前提とし、診療行為から必要な情報を抽出することによってNDBを有効に活用することができると考えられる」「NDBを用いることにより、臨床上の病態、病像の一端を検出できることが分かった」などと説明。その上で「わが国においても、広く臨床研究領域でのNDBの活用を促進すべきではないか」と訴えている。

 今回、オンサイトリサーチセンターでの第三者利用の模擬申し出の受け付けが開始されたことから、NDBのデータについて、疾患抽出の蓋然性が高い慢性硬膜下血腫を対象疾患とし、「関連する可能性のある事象の分析」への活用を試みた。

 WPでは、慢性硬膜下血腫について「ごく一部には手術を施行しない例もあるが、手術人数はほぼ患者数とみることができる」「頭部外傷の中でも、ほぼ重症度を問わず治療法は手術であり、診療行為として特定できる独立した診療行為コードとなっており、特異度、感度ともに極めて高い『リアルタイムデータ』として確実に捕捉できる。さらに施行した月が特定できるため、観察期間における発生数として集計可能である」と説明している。

 今回、2016年の慢性硬膜下血腫手術発生分に対し、15年1月から16年12月までの2年間を対象期間として、DPC、医科、または調剤レセプトの医薬品レコードファイル上に、該当医薬品内服薬が挙がっている症例を集計するなどした。

 その結果▽血液の凝固・線溶系に作用する医薬品(抗凝固薬・抗血小板薬)▽ふらつきなどを引き起こしやすい薬効医薬品(抗てんかん薬・催眠鎮静剤・抗不安剤、精神神経用剤、泌尿器科用薬)―について、使用群と非使用群を比較したところ、使用群の方が慢性硬膜下血腫との関連性が有意に高いことが分かった。WPでは「こういった薬剤の使用に当たっては、慢性硬膜下血腫の発症リスクが高まっていることを念頭に置くことが重要と考えられた」と分析している。

 オンサイトリサーチセンターを活用するメリットや課題にも言及。利点については「NDB上の診療行為等から診断、患者抽出は可能であり、それによって超高齢社会における新たな病態を明らかにできることが分かった。NDBは臨床研究においても極めて有用であると言える」などと強調した。一方で「オンサイトリサーチセンターを活用するためには、巨大なデータベースを自力で使いこなすことが求められているが、それでは臨床研究者が活用するには限界がある。国民全体の財産をわが国の臨床研究における国際競争力を高めるために活用するためには、(NDBのデータを抽出するための)プログラミングなどについての支援体制を整備するとともに、使用したプログラムは国に帰属するものとして蓄積共用に資すべきではないか」と指摘した。【MEDIFAX】
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