III. ライフスタイル

III-1. 地位の獲得

図15.昇格時の年齢
昇格年齢:助手から講師への昇格は、35歳までの早い時期の人(17名中6名)と、41〜50歳の遅い時期の人(9名)とがある。後者ではかなり年齢が高くなるまで助手におかれていたことがうかがえる(図15)。これに対し助教授への昇格は、16名中の半数が36歳から40歳の間であり、それ以外の年齢では少ない。教授への昇格は36歳から40歳の間に始まり、年齢とともに増加し、46歳から50歳までが8名で最多であり、51歳以後が6名であった。講師以上に在籍する人がそれ以前の地位から現在の地位に昇格するのに要した年数は、5年以内が54.2%であるが、5年以上10年以内が22.1%、10年以上かかった人が23.7%であった。

ポジションを得るには良い上司・指導教官に恵まれることが重要


 ポジションを得るきっかけ:上司、指導教官が57.3%と圧倒的に多く、ついで公募が13.6%であった。家族らの紹介が3.6%、個人交渉が8.2%ある。

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現在の状態では、良い上司、指導教官に恵まれることが、ポジションを得て研究生活を持続する上で重要であることがあきらかである。しかし、このことは、指導教官・上司によって人事が左右されることを意味し、いったん上司・指導教官との人間関係に問題が生じた時には大きな困難が予想される。
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III-2.家族

全国平均より低い有配偶者率

1)婚姻状態

図16.年齢別有配偶者率
 同居配偶者のある人は回答者146名中70名、47.9%である。配偶者がいるものの別居または単身赴任中の人は10名5.8%である。両者あわせて配偶者のいる人は54.8%である。有配偶者の割合を年齢別に見ると図16のようになる。参考のために1995年の国勢調査の結果も示す。
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有配偶者率は31〜35歳の年代で急上昇するが、55歳ぐらいまで増大は続き、晩婚傾向があることがわかる。すべての年齢層において女性生理学会会員の有配偶者率は全国平均より低い。高学歴女性は結婚年齢が高齢化するといわれているので、一部はそれをあらわしているであろう(ただし、全国平均の方は統計をとった年が1995年である。この4年の間にもかなり結婚をめぐる状況は変わってきており、全国平均の婚姻率も多少下がっていると予想される。全国平均は1995年の国勢調査をもとにした。ただし、年齢層の取り方が1歳若い方にずれている)。また、61歳以上の年齢層では、母集団が少ない点に問題がある。この年齢層の有配偶者率が極端に少ない。その年代の人たちにとっては研究を続けながら結婚するのは極端に難しかったということをあらわしているのではないか。それに比べれば、最近は多少とも女性研究者を取り巻く環境は良くなってきているということであろうか。しかし、全国平均よりも15%程度有配偶者率が低いのは、まだまだ女性研究者を取り巻く状況は厳しいということであろう。
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2-1)こども

子どもがいる人は148名の回答者のうち66名で、44.6%にあたる(図17)。子どもの数は図18の通り。

図17.子どもの有無

図18.子どもの数

 第一子の出産年齢は平均で29.3歳(23〜41歳)である。第二子は31.1歳(26〜41歳)で、第三子は33.3歳である。平成10年度の厚生省の人口動態統計によると、 第一子出産年齢が平均27.8歳、第二子が30.1歳、第三子が32.1歳である。結婚年齢同様、生理学会女性会員の方が出産年齢も高い。 

2-2)子どもと研究活動

出産・育児で研究を中断した人23%、中断後に職場に復帰できた人はその半数にとどまる

 産前・産後の休暇をのぞいて出産・育児で研究を中断した人は、子どものある人66人のうち15人22.7%であった。中断期間(積算)は1年までが4人、2年までが2人、3年までが4人で、最長は8年、平均で2.8年であった(回答数13)。中断後に元の職場に復帰できた人は回答した12名のうち半数の6名にとどまり、別の職場に変わった人5名、現在就職先を探している人1名である。元の職場に復帰した人のうち、1名をのぞいて中断期間は3年までであり、一方、別の職場に変わった人は全員中断期間が3年以上であった。中断期間が長いほど職場復帰が難しくなることがわかる。出産・育児期の研究継続の難しさを反映している。このアンケートには出産・育児で研究をやめてしまった人は含まれていないので、中断後に復帰できなかった人の実数はもっと多いはずである。

子供が理由で学会参加を見合わせたことのある人が5割りもある

図19.学会参加の見合わせ経験

子どもが理由で学会研究会への参加を見合わせたことのある人は、図19のごとく子どものある回答者64名のうち32名50%と高率であった。

 その時の子どもの年齢は10歳までが9名でもっとも多く、もっとも高い年齢は15歳で、平均では5.1歳であった。この年齢の子どもを育てている時期に数日間の外出がいかに難しいかを物語っている。参加を見送った理由としては「子どもを預けられるところがなかった」が最多で17名、次が病気であった。多面的な保育支援体制整備の必要性がここからも明らかである。

III-3.看護・介護経験

1)介護経験者

 回答者148名中家庭内看護介護(以下介護とする)の分析に有効な回答は147名であった。介護経験者は29名(19.7%)で、そのうち6名は複数の人を介護していた。また現在介護中が6名あった。介護経験の有無によって回答者を2群に分け、平均年齢・博士号の有無・研究技術分野・各種研究費や助成金交付の有無・配偶者の有無・子どもの有無を比較したところ、平均年齢をのぞいて有意差はなかった(介護経験あり:50.3歳 介護経験なし:40.4歳 p<0.001)。例数が少なかったことと、介護経験は多くの場合にキャリア形成の後に生じているので、これらのパラメーターに差を生じなかったものと思われる。

2)介護の対象と介護期間

図20.介護の対象と介護期間
 介護経験者延べ29名と現在介護中の6名計35名について図20に示す。6名の複数介護経験者の内容は、自分の両親2名、自分の親と夫の親2名、夫の親と夫1名、夫の両親1名であった。育児問題と異なり介護は婚姻に関係なく生じる。配偶者のいない65名中、介護経験者は12名あり、11名(1名は複数介護)が自分の両親を介護していた。一方配偶者のいる80名では、介護経験者17名中自分の両親を介護していたのは8名(1名は複数介護)であったが、介護を要する人が、夫・子ども・夫の両親と広がっていた。

3)介護負担の割合と研究生活への影響

介護負担が重いと研究生活の継続は難しい

図21.家庭内で負担した看護介護の割合

 全介護に対して自分が受け持った割合は、半数が「3割まで」であった(図21)。夫の介護経験者
3名の介護負担割合は重く、それぞれ8、9、10割であった。

 研究生活への影響をみると、仕事を中断した人は4名あった。介護を要したのは自分の両親3名、その他1名である。中断した人の介護期間は1年未満3名、10年1名、介護負担の割合はそれぞれ6〜8割であった。職を続ける上では、介護期間の長さよりも負担割合の大きさが、重要なファクターになるとも考えられる。中断後の状況は、元の職場1名、 別の職場2名、求職中1名であった。

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 介護経験者のうち25名は、研究を続けながら介護をしていることになる。厚生省「国民生活基礎調査」(1998年)によれば、20〜60代の男性介護者では83%が仕事と両立しているのに比べ、女性は43%にとどまっている。また総務庁「就業構造基本調査」(1997年)によると、家族介護・看護のために離職した人は97年の1年間で男性1万1千人、女性9万人にのぼる。年代別にみると女性では50代次いで40代が多く、ことに50代では自己都合により退職した人の7人に1人が介護・看護を理由としている。介護のために職場から離れてしまった女性研究者が存在するはずである。育児問題とも併せてその実態を知ることが今後必要と思われる。
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