北米看護系大学院−留学案内


V. 体験記

修士課程:

1997年の4月から1999年の5月まで私が在籍していたのは,修士課程(Master's of Science:MS)Medical-Surgical/Adult Health Nursingの分野でした。ミネソタ州の看護婦免許は持たずに,研修先のプリセプターと一緒に「臨床実習」を行ないました。というのは,途中でPhDに目的を変更したためです。

CNSNPのそれぞれのコースにより,取得すべき科目や単位数は異なります。もしも,こちらのCNSNP(協会認定)の資格を取得したければ,CGFNSの試験と州の試験(State Board)を受けて免許を取ってから臨床実習に出なければなりません。

こちらの大学では,Plan Aという日本の修士課程に近い「研究」に重点を置くコースとPlan BというCNSNPの養成のため,「臨床実習」に重点を置くコースとがあります。多くの修士課程がこのような形式を取っており,医療費抑制やNP養成促進という政策の影響で後者(臨床実習重点)の比重が圧倒的に増えています。

こちらの授業の核となっている「理論」「研究」「倫理」の3本を履修し終わり,今は自分の研究や臨床(専門,先進)に応じたカリキュラムを取っています。授業は毎週1回(単位数によって2時間から3時間)で,読みものと書き物の宿題が山のように出ます。これらの授業を履修して痛感したのは,看護にはさまざまな理論やアプローチの仕方が必要だということです。看護は人間を対象に生理・心理・社会・文化・環境などの統合的な視点が必要です。特定の誰かの理論や研究の方法論が優れているということはなく,それぞれに向き・不向きがあり,それをよくわきまえた上で使うのがよいということを感じます。

こちらの授業に参加して新鮮に思ったのは,

  1. 常に小人数(といっても1020人くらい)で,授業は教官からの一方的なものではなく,予め読むことが指定された教科書や文献に基づき,臨床現場の体験・関心事も交えながらのディスカッションを展開する形式であること
  2. 参加者のうち,ほとんどが現場で働いている看護師,マネジャーたちで,20代から60代までと実に幅広い年齢層であること

2点でした。こちらの教育に対する考え方は,「一生かけて学ぶ」という意識が強いように感じます。もっとも,最近は大学教官の間では,早め早めに課程を修了するよう学生に促す場合が増えています。それというのも,極端な例では5060歳になって修士や博士課程を卒業するケースもあり,自己実現という観点からはその努力に敬服の念を払えるものの,修了後にその能力を十分に発揮して社会に貢献する機会や期間が限られてしまうためです。

博士課程

私の場合,19989月から20033月まで博士課程に在籍したので,4年半程度かかったことになります。そのうち最初の8ヶ月は修士課程を終わらすことに専念し,途中の1年程度は研究の方向性を見極めるために多様な活動をしていました。ですから効率よく早く修了できる人は,3年で卒業することも可能と思いますが,現実には少ないようです。ある卒業生のアドバイスによると,早く終わら せるためには,要領よく必要最小限のことをやること,あまり欲張らないことだそうです。それとも 「研究者scholar」としての腕と頭を磨くためには,何でも興味のある授業は片っ端から 取って,学会や研究に参加する機会(RAとか研究実習)にはどんどん参加すること,そして論文も興味のあることをとことん突き詰めて一生懸命に取り組むような場合は,56年があっという間に過ぎてしまうだろうとのことです。

コースの構成:
大学院や学部の規定によりいろいろと異なるかもしれませんが,ミネソタ大学看護学部の場合,次のような「旧」「新」カリキュラムがあります。

「旧カリキュラム」:2001年くらいまでは,副専攻(minor)または関連科目(related course work)の規定単位数は決められていたものの,看護の科目については単位数は特に決まっていませんでした。その代わり「倫理」「理論」「研究」の3部門に関して,それぞれ予備試験(written preliminary exam8時間のエッセイ式筆記試験)に合格することが必要でした。多くの学生はそれらの予備試験の準備にかなりの時間とエネルギーを割いていました。その後,博士論文の研究に関する文献レビューのベーパーとその口頭試験(oral preliminary exam)に受かることが必要でした。そして晴れてcandidate(候補者)として,さらに研究計画書を練り直し,実際の論文のデータ収集や論文を書くのはかなり後になってから,というケースが多かったようです。

「新カリキュラム」:2002年からは,より論文の準備に重点を置いた方式になりました。「3部門」の予備試験は廃止となるかわりに,研究に重点を置いたコースワークとなり,必修科目の占める割合が増えました。総合的・批判的(comprehensive/critical)レビューベーパーが第一次の予備試験となり,研究計画書に近いもの(研究のおおまかな方向性を書いたプロスペクタス"prospectus")が第二次の予備試験になりました。そのため,学生はコースの最初の方から論文のテーマを中心に勉強を進めることが出来るようです。このような「研究重点カリキュラム」は,全米の看護博士課程の傾向でもあるようです。論文のデータ収集,分析,論文の書き上げを経て,最終口頭試験(final oral defense)をパスすれば,晴れてPhDの学位が授与されます。

Graduate Assistantship

大学院の学生には,Graduate AssistantshipTeaching AssistantResearch AssistantAdministrative Fellowなど)というパートタイムの「仕事」につくことが可能です。25%FTE(Full time equivalent:常勤換算),つまり10時間/週の仕事をすると,授業料(週の住居人residentの授業料)と医療保険の半額免除の得点が,ミネソタ大学では得られます。20時間/(50%FTE)をすると,授業料と医療保険が全額免除になります。それ以外に,時給1218ドル(学位,経験,仕事の内容・自立度による)が出ます。

F-1ビザの留学生は,学期中は「オンキャンパス」 の仕事のみ,20時間/週上限で許されています。それ以外の夏休みなどは,オフキャンパスもできますし,20時間を越えても働けます。しかし,大学のInternational Student Affairsなどで許可をもらう必要があります。

Graduate School Fellowship

大学院博士課程の学生には,入学初期の1-2年間または論文を仕上げる最後の年にフェローシップという奨学制度があります。ミネソタ大学全学部でそれぞれ応募者の内部選考があり,その中から全学で上位数十名が選ばれます。フェローに選ばれると,月約1,000ドル×9ヶ月の支給と授業料・医療保険免除の特典が得られます。その代わり,1年または最長1年半で論文を仕上げて卒業しなければなりません。

遠隔授業・教育

大学院,特に修士のNPとかCNSのプログラムは,遠隔地居住の学生が多いことなどから,遠隔教育が発達してきました。Interactive Television (ITV)というテレビ中継授業や,インターネットに基づいた授業などが増えています。WebCT(World Wide Web Course Tool)というUNIXに基づくシステムがカナダで開発され,アメリカや欧州などでもこのWebCTを使った授業がたくさん行われています。これは,科目に登録した学生がパスワードを使ってサイトに入り,教材を読み宿題(レポートやweb上の掲示板を使ったディスカッションなど)を行うというものです。学生は,受身的に講義を聴きノートを取るのではなく,自発的にどんどんディスカッションなどに参加することが求められます。大きく分けて2種類のWeb授業形態があり,Webだけによる授業(Web-based course)と,従来の教室における授業に加えて補足的にWebを用いる授業(Web-enhanced course)があります。前者の「Webだけ」という場合でも,ミネソタ大学看護学部では,学期の最初と最後の2回は必ずface-to-face classと言って,教室に一同が会し顔を見ながらの授業を行います。最初は授業全般のオリエンテーションに加え,技術的なオリエンテーション(デモンストレーション)も必要です。

24時間毎日サイトにアクセスすることが出来るので,臨床で働きながらの学生や家庭を持つ学生には,時間の融通が利いて好評です。しかし,技術的な問題も幾つかあり,今後のバージョンアップとともに使い勝手がよくなることと期待しています。学生のクレームとしては,掲示板にポストしたと思った記事が消えてしまったり,サイトサーバーへのアクセスが混雑して時々レスポンスが遅いなどという声を聞きます。長い記事を掲示板に書くときは,予めワープロを使って作成し,自分のハードディスクに保存した上で,コピー&ペーストで投稿することを勧めています。

サイトの構築や準備は非常に時間が掛かりますが,もともとHTMLなどの細かい知識がなくても教官が自分で教材を作れるようになっており,インタラクティブな画面でサイトやファイルを作り上げていきます。ですから,HTMLのソフトやFTPなどは不要なのです。しかし,細かい設定やより高度なことを目指すには,教官とTAが何ヶ月も掛けて準備することが必要です。また,最後に「生徒」として実際にログインして,テスト・ラン(試行運用)することが必要です。外部・内部ハイパーリンクの設定,マルチメディアの準備(用語集,索引,発音や会話のサウンド,ビデオなどを取り入れることが出来る),クイズやアンケートなどのインタラクティブな教材,などなどがあります。学ぶ側にとっては,とても学習効率・効果が高そうなものばかりです。CAIの効果の研究などでも分かっているように,主体的に授業に「参加」することは「受身」よりもはるかに学習効果があります。

PhDの学生グループ

ミネソタ大学看護学部の博士課程には,OPSN(Organization for PhD Students in Nursing)という学生の自主グループがあります。このグループは,看護の博士課程の学生と学部の教官・管理部門の人たちとのコミュニケーションの推進と,博士課程の学生のサポートグループの役目を担っています。そのグループの責任者(President)の役(とは言え「庶務」と「企画係」を合わせたような役割)を,2000-2001年勤めました。博士の学生は勤務していたり,家族(小さいお子さん)が居られる場合も多く,全員が一同に会することは難しいため,コミュニケーションはメールでのやり取りや,メーリングリストで情報を流すことが多い状況でした。

随時追加・更新していきます。


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2013-11-05
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注:このページの内容は和多忙個人の見解です。