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現在進行中の研究テーマ

(1)Shear stressを感知するセンサー分子(イオンチャネル)のノックアウトマウスの作製と生理機能解析
(2)Shear stressで活性化される転写因子群の包括的解析
(3)幹細胞を対象にした血管細胞の分化・管腔形成に及ぼす機械的刺激の効果の検討
(4)培養血管細胞と高分子と機械的刺激を組み合わせたハイブリッド型人工血管の開発

Shear stressに対する内皮細胞応答

_NowPrinting.jpgクリックすると拡大します。内皮細胞がshear stressに反応して多くの細胞機能を変化させることを明らかにした。例えば、培養内皮層に人工的に剥離部をつくると、周辺の内皮細胞が遊走・増殖して剥離部を修復するが、shear stressは内皮細胞の遊走・増殖を刺激し剥離部再生を促進した(Micorvasc Res 1987, Biorheology 1990)。また、shear stressが内皮細胞の一酸化窒素(NO)の産生を、shear stressの強さ依存性に亢進させること(BBRC 1994)、及び抗血栓活性を発揮するトロンボモデュリンの細胞膜発現量を増加させること(BBRC 1994)を観察した。併せて、shear stressが内皮細胞と白血球との接着に関わる接着分子VCAM-1(vascular cell adhesion mokecule-1)の細胞膜発現量を減少させ、リンパ球の接着を抑制することを示した(BBRC 1993, Am J Physiol 1994)。共同研究によりshear stressがNOと同様血管拡張作用を持つC-型利尿ペプチド、アドレノメデュリンのmRNA レベルを上昇させること(Hypertension 1997)、また、新しく発見された酸化型低比重リポ蛋白受容体の蛋白およびmRNA レベルを増加させること(Circ Res 1998)を明らかにした。最近、ヒトの末梢血を流れる内皮前駆細胞がshear stressに反応して増殖、分化、管腔形成能が亢進することを観察した(J Appl Physiol 2003)。また、shear stressがマウスの胚性幹細胞(ES細胞)を内皮細胞へ分化誘導する効果があることを明らかにした(Am J Physiol 2005)。このことを応用し、ポリマーの管にES細胞を播種し拍動性のshear stressを与えることで生体の血管に近い組織を持つハイブリッドの人工血管の開発を行うことができた(J Artif Organs 2005)。

Shear stressによる内皮細胞の遺伝子制御機構

gene.jpgクリックすると拡大します。Shear stressが内皮細胞の遺伝子の発現を転写調節あるいは転写後調節することを明らかにした。転写調節に関しては、VCAM-1遺伝子の発現がshear stressで抑制を受けるが、それには遺伝子プロモータに2個並んで存在する転写因子AP-1結合エレメント(TGACTCA)がshear stress応答配列として働いていることを示した(Am J Physiol 1997)。転写後調節に関しては、顆粒級・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)の遺伝子発現がshear stressで増加するが、その効果は転写ではなくmRNAの安定化を介していることを明らかにした(Cric Res 1998)。また既知の遺伝子だけでなく多くの未知の遺伝子もshear stressに感受性のあることをmRNAのdifferential display法で示した(BBRC 1996)。共同研究によりshear stressに反応するG蛋白受容体ファミリーに属する未知の遺伝子をクローニングした(BBRC 1997)。また、流れで誘発されるCa2+ 反応に関わるP2X4プリノセプターの発現がshear stressで抑制を受けるが、これは転写因子SP1が関連した転写抑制に基づくことを明らかにした(Am J Physiol 2001)。さらにDNAマイクロアレイ解析で遺伝子全体の約3%(約600の遺伝子に相当)がshear stressに応答することを観察した(J Athero Thromb 2003)。最近、遺伝子に対するshear stressの作用が層流と乱流で異なることを明らかにした。線溶と血管のリモデリングに関わるウロキナーゼ型のプラスミノーゲン・アクチベータ(uPA)の遺伝子の発現は層流で低下し、乱流で増加した。層流は転写因子GATA6を活性化し転写を抑制するとともにmRNAの分解速度を速める効果が認められた。一方、乱流は転写には影響せずmRNAの安定化を起こす作用が確認された(Am J Physiol 2004)。

Shear stressの感知・情報伝達機構

内皮細胞がshear stressを感知して、その情報を細胞内部に伝達する機構に関して、セカンドメッセンジャーであるCa2+を介する情報伝達経路のあることを初めて明らかにした(In Vitro Cell Dev Biol 1988)。強い機械的刺激(バルーンによる摩擦)は単独で内皮細胞内にCa2+上昇反応を起こす(Biorheology 1994)が、弱い機械的刺激であるshear stressは細胞外ATPの存在を必要とし、とくにATP濃度が500 nM付近でshear stressの強さに依存したCa2+上昇反応の起こることを発見した(BBRC 1991)。このCa2+反応は流速依存性に増加する細胞膜へのATPの到達量の増加ではなく機械的刺激であるshear stressに依存することを流れ負荷に使う潅流液の粘性を変える独自の実験方法で確認した(BBRC 1993)。さらに、このCa2+反応が細胞の辺縁の局所から開始し、Ca2+波として細胞全体に伝搬して行くこと、この開始点はカベオリンが密に分布する場所であることから、流れ刺激の情報が細胞膜の陥入構造物であるカベオラから入力される可能性を示した(Proc Natl Acad Sci 1998)。また、共同研究で、こうしたCa2+を介する情報伝達にミオシン軽鎖キナーゼが深く関わっていることを明らかにした(FASEB J 1998)。肺動脈内皮細胞にATP作動性カチオンチャネルのP2X4が優勢的に発現し(Am J Physiol 2000)、それが流れ刺激で起こるCa2+ 流入に中心的な役割を果たすこと(Circ Res 2000)、さらにP2X4を介したCa2+ 反応に流れ刺激によって放出されるATPが関わることを示した(Am J Phsiol 2003)。最近、P2X4の遺伝子欠損マウスの作製に成功した。P2X4欠損マウスの内皮細胞ではshear stressによるCa2+ 流入反応が起こらずNO産生が抑制されていた。このため血流増加による血管拡張反応が障害され血圧が上昇していた。また、血流を変化させたときに生じる血管のリモデリングも障害を受けていた。このことから、P2X4を介する血流刺激の情報伝達は循環系の調節に個体レベルで重要な役割を果たしていることが示された(Nat Med 2006)。

微小循環の血流作用と酸素動態の解析

Kroghの研究以来1世紀近く、生命活動を維持する上で最も重要な物質である酸素は、毛細血管から組織へ供給されると考えられている。我々は独自に開発した光学的測定法(Med Biol Eng Comput 1999)により、毛細血管の前に位置する細動脈においても既に血中酸素濃度は低下し、かつ細動脈壁で大きな酸素濃度勾配が存在することを明らかにした(J Appl Physiol 2001)。これらの結果と毛細血管血流制御の非線形を基に、骨格筋では毛細血管のみが唯一酸素供給の場ではなく、細動脈も組織への酸素供給源として機能していることを示した(Eur J Appl Physiol 2005)。しかし、この細動脈での血中酸素濃度の低下は、組織への酸素拡散のみでは説明できず、新たに細動脈血管壁自身による酸素消費を検討した結果、血管壁での酸素消費率は、これまでのin vitro実験系による報告値より遙かに大きく、細動脈での酸素濃度勾配の形成に強く関与していることが示された(Am J Physiol 2005a)。また、血管壁の酸素消費率は、血管平滑筋の仕事量に依存し、下流側細動脈より上流側で、さらには血管拡張時(血管平滑筋弛緩時)より収縮時の方が高いことを明らかにした(Am J Physiol 2005b)。






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