Q: 主治医が『精神保健福祉法第32条』(通院医療費公費負担制度)を申請させてくれないのですが…。
私はうつ病で病院に通院しています。2月の中旬に会社を休職し、現在は自宅で療養しているのですが、病院の先生が『精神保健福祉法第32条』を認めてくれなくて困っております。以前は「まだ働けるのだから認定されないでしょう」と言われ、その時点では私も働いておりましたので、そういうものなのかな?と疑問に持つくらいでした。その後、症状が悪化し会社にも行けない状態になり、その時点で病院の先生に『精神保健福祉法第32条』は適用されますか?と聞いたところ、先生は「生活に苦しんでいる人くらいにならないと適用されないでしょう」と言いました。でも、現在月に2度通院し、お薬を処方してもらっているのですが、一回の診察とお薬で5000円近くかかってしまい、金銭的にも苦しくなってきました。(現在の保険証は社会保険です。)
どうすれば、『精神保健福祉法第32条』を適用してもらえるのでしょうか?
A: 通院医療費公費負担制度は、精神科の病気で病院や診療所に通院する際に、かかった医療費の自己負担分を公費で負担する制度です。この制度により通常、かかった医療費の自己負担分のうち、半分が公費でまかなわれ、半分が自己負担になります。自治体によっては、この半分も補助し、自己負担が0%になる場合もあります。
『精神保健福祉法第32条』の条文には、『都道府県は(中略)相当する額を負担することができる』とあるだけです。対象は『精神障害者』で、この定義は第5条にあり、『精神分裂病、中毒性精神病、精神薄弱、精神病質、その他の精神疾患を有する者をいう』と書かれており、うつ病は『その他の精神疾患』にはいる可能性があります。
ということで、法律上は「適用してもらえる可能性はある」以上のことは言えません。
経験的には、例えば「パニック障害」だと通りにくく、「うつ病」だと通る場合が多いように思います。(申請書といっても、結局人間が審査しているわけですから、審査する人によって、基準は一定している訳ではないと思います。)
最近は、パニック障害のように、一旦治ってしまえばほとんど社会生活の障害がなくなるような病気の方でも、気軽に申請される場合もあるようですが、やはり精神科医としては、統合失調症(精神分裂病)のように長期に続く疾患で、仕事ができない方などのための仕組み、というイメージはあります。また、(これは私の想像なので間違っているかも知れませんが)、行政側としては、医療費という『アメ』を出すことで、その地域の『精神障害者』の現状を把握し、病状を定期的に報告させようという、『管理』的な発想もあるのではないかと想像されます。
私は、仕事が出来なくなるような疾患であれば、是非とも公費負担を申請した方が良い、と勧めますが、軽微で一過性の精神疾患であれば、身体疾患と何ら変わりがないわけですし、他の病気では払わなければならない医療費を、精神疾患だからといって行政(結局は税金ですね)に負担させるのは変だなあ、と思い、あまりおすすめしていません。
うつ病で仕事を休まねばならない方であれば、申請の必要性があるし、申請すれば認められる可能性が高いと考えます。
主治医が、「生活に苦しんでいる人くらいにならないと適用されないでしょう」とおっしゃるのであれば、「欠勤が長引いて生活が苦しくなってきました」と説明しては如何でしょうか。あるいは、とりあえずあなたの住所の管轄保健所に行って、必要書類をもらってきて、書いてください、と医師に渡してみては如何でしょうか。審査するのは行政の方であって、医者の役割は申請書を書くだけですから、主治医としては頼まれれば書類を書かないわけには行かないでしょう。(穿った見方ですが、主治医の先生は、単に書類の手配をするのが面倒なだけかも知れません。特に、あなたの住んでいる都道府県がクリニックと違う場合、書類が用意されていない可能性もありますので。)
なお、こうした福祉制度については、メンタルヘルスアイのホームページ
http://www.mental.ne.jp/index.html
に詳しい情報があります。
追加
32条についての詳しい資料が、大久保クリニックのホームページ(http://www.o-clinic.com/vision/morgue/shishin.htm)の中の、精神保健福祉関連資料室(http://www.o-clinic.com/vision/morgue/)にあります。