15回 国際精神科遺伝学会 World Congress on Psychiatric Genetics

2007107-11日、ニューヨーク

 

 本学会への参加は3年ぶりである。今年はGenome Wide Association Study (GWAS)のデータが出そろうと思い、情報収集のため出席しようと思っていたら、6月にNatureWTCCCGWAS論文が出て、いよいよ盛り上がった状況での開催であった。

 場所は、ニューヨークのど真ん中タイムズスクエアで、会場のホテルの一階がブロードウェイミュージカルのハーフプライスチケット売り場で、隣の劇場ではライオンキングを演っているという、誠に誘惑の多い場所である。

 

 オープニングセレモニーでは、ジェームズ・ワトソン博士による開会の辞があった。英語が聞き取れない部分が多かったが、ご子息が統合失調症であるために精神疾患のゲノム研究に期待しているという話、自身のゲノムを454社の装置で解析したが、ApoEの情報だけは公開しないで欲しいと言っていること、自分のシーケンスがわかったところで今のところ生活には影響ない、というような話などをされていた。

 その後のプレナリーレクチャーでは、Dr. Moses Chaoによるニューロトロフィンの総説の話があり、BDNFVal/Metノックインマウスが、不安様行動を示し、SSRIで改善するという昨年のScience論文の内容に加え、MetアリルではSortilinというシャペロン蛋白がBDNFproドメインにくっつかなくなること、BDNFG蛋白結合型受容体(アデノシン、PACAP)とのクロストークなどについて話した。また、BDNFそのものの臨床応用については、アルツハイマー病、ALS、末梢ニューロパチーなどの経験から、副作用が強くあまり有望でないことを話した。

 ワトソン博士が、Met/Metキャリアのヒトの表現型は、と質問し、Dr. Chaoは記憶の低下などがあるが、人種差があり、アジアではMetも多い、などと説明した。この多型と表現型の関係が日本で見つかっていたら、Metが不安と関係あるのではなく、Valrisk taking behaviorと関係するという話になったでしょう、と言いたかった。

次のプレナリーはDr. Mary Ellen Hattenで、神経発生やGenSatについての話であった。扁桃体特異的な遺伝子発現様式を取る遺伝子として、UrocortinLamininβ3PLC-deltaなどの例を紹介していた。

 

双極性障害のGWAS

その次は、いよいよ今回の参加の主目的である、双極性障害のWhole Genome Association Study (GWAS)のセッションで、いきなりクライマックスという感じである。

現在動いている(あるいは終了した)双極性障害のGWAS5つある。概要を表にまとめた。

 

発表者                  主なサンプル                                方法                     主な注目遺伝子   

N. Craddock        WTCCC               BP 1868 C 2938  Affy 500K           Palb2

P. Sklar                STEP-BD/UCL    BP 1461 C 960    Affy 500K           MYO5BEGFR 

L. Scott                Pritzker/NIMH    BP 1203 C 792    Illumina 550K    MAN2A, PKCe

A. Baum              NIMH                  BP 413 C 563      Pooling                DGKH

S. Cichon             German               BP 702 C 1356    Illumina 550K    秘密      

 

Dr. Craddockは、top geneの中に、2Baumらのリストと重なっているものがあること(DFNB31RNPEPL1)、Baumらが最も注目したDGKHは確認されなかったことなどについて紹介した。また、Top 100の遺伝子のGeneOntology解析(結果はイマイチ)なども紹介した。なお、この研究での最大のOR2で、p値は10-7程度である。

Sklarは、MYO5B の他、CDH7EGFRなど、有意な遺伝子のリストを提示し、MYO5BEGFRGluR1のカーゴとして働くことなどに言及した。最大の所見であるMYO5Bは、OR=1.5で、p=10-7程度である。既報のDGKHPalb2は確認されなかった。見いだされた遺伝子を有意な方から200個とって、NIMHのトリオサンプルで確認(?)した結果、確認されたのは9個であったという。WTCCCとのメタ分析では、CACNA1Cに注目していた。これは、totalサンプルでp=10-8となったが、OR1.18である。Sklarは、今後、2万人位のサンプルが必要だ、と述べ、我々日本の研究者を震撼させた。

Scottは、MAN2A, PKCeDiacylglycerol lipase aなどに着目したことや、WTCCCの結果との共通点がほとんどないことなどに言及した。

Baumは既にMol Psychiatry誌に掲載されたpooling法の結果を報告し、DGKHの他、SLC39A3(zincトランスポーター)(OR=1.27)JAM3などについて述べた。

Cichonは、p=10-7代は1個だけ、10-510-610個あったなどと報告。最も強い関連は1番染色体に認めたとしつつ、詳細な結果については隠した。(というか、フロアで聞いた話では、1週間前にデータが出たばかりでじっくり検討する暇がなかったとのこと)

上の表では、サンプル数などを簡略に記したが、どのグループも出てきた所見を別の大サンプルで確認するという作業をしており、共同研究の重要性が繰り返し述べられた。また、大サンプルで大量のSNPを解析する場合、quality controlが重要であること、同一人物と思われるデータを除外するなどのサンプルのチェックが必要であることなども述べられた。Cichonは、HWEにのっていること、MAF1%以上、95%以上でgenotypeできていることなどを条件にした結果、77%のみのgenotypeのみを使用しており、ずいぶんとSNP数が減っていた。特に、今回除外したMinor allele frequency1%以下のものにも、何か重要なものがあるかも知れない、と話した。

また、データ共有が重要で、出版前からデータを共有してメタ解析するなどの努力を進めていることや、優先権として研究者に1年間の猶予を与える他は、全データを基本的に公開する方針であることなどが述べられた。特にNIHの研究費で行われた研究では、データ公開はobligationであるとの発言が多くなされた。

また、今後の方向性として、サンプルを増やすべきか、疾患の定義を厳しくして均一な結果を得るよう努力すべきか、という二つの方向性があることが議論された。また、糖尿病などの撹乱因子も関与するのでは、という質問に対し、確かに関係するかも知れないが、共通の危険因子も存在する可能性があり、とりあえず気にせず解析すれば良いのでは、という話になっていた。

全体の印象としては、少なくとも、DSMの双極I型障害という診断基準を用いている限りにおいては、危険因子があったとしてもオッズ比2以下であり、多くは1.5以下であると思われた。GWASどうしの間で結果はあまり一致しておらず、今のところ確実と言えるものはない。出てきた遺伝子の機能についても、実にさまざまな遺伝子との関連が示されており、一定の方向は見えない。

個人的には、Scottの報告したMAN2Aが双生児のマイクロアレイで出てきた遺伝子の一つであることや, PKCeが死後脳研究から出てきたPDLIM5と相互作用する蛋白であること、Sklarの報告したEGFRは光マスキング効果にも関係し、表現型がPOLGマウスと類似していることなど、何となく気になるものもなくはないが、チームでの網羅的解析の結果を何年も見ていると、どんな遺伝子を見てもどこかで見た覚えがある気がしてしまい、よくわからない。

とりあえずの結論としては、GWAS研究が複数行われたことによって、双極性障害の原因が完全に解明されたとはいえない、というところだろうか。

 

その他のGWAS

 午後は、#2GWASの方法論に関するセッション、および#4のうつ病や抗うつ薬反応性についてのGWASのセッションに出た。

 方法論としては、imputedという、in silico genotypingにより新たな強い関連が出てくる場合があることなどが報告された。

また、rarevariantの場合、最近の変異であることが多く、その人口特異的に長いハプロタイプを共有していることが多いことから、SNPgenotypingによりこうしたrare variantについても研究できるのではないかと考えられた。こうした発想に基づいて、近親婚によるautozygosityのマッピングを行った結果、ポルトガルではアバディーンやスウェーデンよりautozygosityが多かったことや、統合失調症患者ではautozygosityがより多く見られ、距離も長かったこと、双極性障害ではこうした傾向は見られないことなどが報告された。ポルトガルの統合失調症のautozygosityマッピングでは、G72のある13q33がでてきた。(ちなみに、G72DAOAではなく、ミトコンドリア機能に関係している、と報告した人が筆者のPOLGのポスターを見に来た)

 うつ病に関しては、以下の2つのプロジェクトが動いているようだ。             

 

             

発表者                  主なサンプル                                     方法    主な注目遺伝子   

P. Sullivan           NESDA(オランダ)  Dep 1860 C 1860  ?      ?
S. Hamilton         STAR*D              (
米国)       Dep 1953 C 1727  Affy         CYP4A11                 

 

特にオランダは、1860-1860でスクリーニング、15000-6878名で二次解析、6000名のプロスペクティヴスタディー(双生児)で三次解析、というため息がでるようなサンプル数であった。

現在、うつ病のGWAS7つ動いているとのことで、これら7つのプロジェクトでコンソーシアムを作って、積極的にデータ共有をしている。これらのプロジェクトを合わせると、うつ病7000名、コントロール7000名となるとのこと。

いずれも、データはpreliminaryだ、ということで、ちょっと見せるのみ、という感じであった。

 

夜のNIMHの共同研究に関するワークショップでは、Dr. TischfieldによるNIMHの細胞管理の話が印象深かった。毎年4万以上のサンプルを受け入れ、世界の250のラボに年間12万以上のDNAを送っているとのこと。今後は、CNV解析やエピジェネティクス解析のために、血液のDNAも準備したいとのこと。また、液体窒素を自動的に補充するシステムや、DNA自動抽出機、サンプルの管理、安全管理などの詳細についても紹介した。

最近、irradiated feeder cell法を用いて、凍結したリンパ球からEBVトランスフォームしたリンパ芽球を作るテクニックが安定して動くようになったとのこと。家系が集まるかどうかわからないのに、毎度芽球化していると大変なので、サンプルが届いた時点では、リンパ球を凍結するだけにして、家系のサンプルがそろってから、芽球化するようにしているとのことであった。

 

2日目の朝は、Population Stratificationの論文で有名なDr. Pritchardによる教育講演があった。ヒトは厳しい環境の中で選択をうけてきた。ある多型を持つ者だけが生き残る、というようなpositive selectionの結果は、ゲノム領域の中で、この多型を含む領域だけが他の領域に比べて広い領域でハプロタイプが保たれている、という現象として検出することができる。このようなシグナルは、population毎に異なっている。日本人や欧系人では、6000年前、アフリカ人では1万年前にこうした選択があった証拠がある(人種名は正確ではありません)。以下のWebに遺伝子名を入力すると、その近辺のハプロタイプ保存の状況を調べられるようになっている。

http://haplotter.uchicago.edu/selection/

選択は、炭水化物や脂質の代謝、外来物質への対応性、皮膚の色素など、さまざまな表現型についてなされたと考えられる。例えば、色素沈着に関わる、イオンチャネルの遺伝子SLC24A5などが選択を受けた形跡がある。(下の図で青の欧系人のみで、このゲノム領域のハプロタイプ共有が強いことが示されている。)

関連があると同時にハプロタイプ共有があると、その所見の意味がより確実となる場合がある。(セロトニントランスポーターのあたりも日本人でよく保存されている。selectionがあったのか…?
 (追記: 上記の話題、初めて聞く話だなあ、とは思っておりましたが、1018日号のNatureに載りました

 http://www.nature.com/nature/journal/v449/n7164/abs/nature06250.html

 

午前のセッションはImaging GeneticsAnimal Modelに半々に出席。

Imaging Geneticsのセッションの最後には、Patrick Sullivanという、CINPの出席記で書いたMerikangasに次ぐ論客が登場し、Spurious genetic associations (偽の遺伝子関連)という刺激的なタイトルで発表。Replicationの定義をきちんとしないと、擬陽性所見が真実と見誤られてしまう危険があり、replicationとは、同じSNP、同じ表現型、同じ方向の関連、とすべきだ、と真っ当な意見を述べた。

その前に、Weinbergerは、False discovery in psychiatric imaging geneticsというタイトルで発表し、false positiveは少ないことをシミュレーションにより示した。Sullivanの論文(Biol Psychiatry 2007)がCOMTの関連研究の再現性を扱っていることから、Weinbergerが彼による批判の対象の一人であると思われるが、タイトルといい、内容といい、批判に対する反論も相当アグレッシブだなと感じた。

隣のanimal modelのセッションでは、Jacques Malletが、TPH1ノックアウトマウスの表現型が、母親のgenotypeにより異なることを指摘し、母体からくるセロトニンが、仔の脳発達に関与していることを示した。この話から、代理母の問題やら、精神疾患に関して、母親のgenotypeに関するWhole Genome Association Studyをすべきだと主張していて、ずいぶん風呂敷を広げる人だなと思った。

また、Tracey Petryshenは、PPIを使ったQTL解析(コンソミックマウスも併用)を行い、PPIに影響する遺伝子としてACERGS9がある、と報告した。PLoS Biologyに受理された吉川先生の論文とは違う遺伝子が出てきているようだが、彼らは全ゲノムを調べた訳ではなく、PPIが大きく異なるコンソミックマウスを出発点としたために、他の遺伝子を見落としたのだろう。

午後は、#12 GeneExpressionのセッションがあった。Carless Mらは、家系サンプル1240名でリンパ球の遺伝子発現解析とSNPチップ(?)により連鎖解析を行い、遺伝子発現に影響するSNPを探索し、NRG1DISC1DTBP1などにシグナルを認め、その後プロモータ領域のシーケンスにより、責任SNPを同定した。Nature Geneticsに似たような論文がでているが、いずれも関連研究であった。彼らは連鎖解析を導入することにより、もっと効率的に遺伝子発現に影響するSNPを拾い上げている印象だった。

LachmanらはChip-CHIP法で候補遺伝子の制御領域を調べていたが、苦労した割には最終productがイマイチな関連研究で、ちょっとしょぼかった。

Sutcliffe Jらは、以前セロトニントランスポーター領域と自閉症の連鎖を報告していた。これだけだと、あまり関心を引かないが、彼らはリシーケンシングの結果、自閉症患者が、尾崎先生の報告したI425Vを含む4つのまれな変異(G56AP465L, L550V)を有することを発見した。これらの変異を持っていても、発症するのは男性だけであった。更に、これらの変異が、膜へのトラフィックの亢進(P465L)、PKGおよびp38 MAPKによるリン酸化の変化(G56A)などを介して、いずれもセロトニンの取り込みが増える変異であることを見いだした。その結果、セロトニントランスポーターの活性亢進により、細胞外のセロトニン量が低下することが自閉症の原因となると考えた。これは未発表データのようだが(たぶん、近々どこかに載るのだろう)、結構大きな発見だと思う。Ozaki論文では、OCDとの連鎖と思っていたが、実はこの家系にはアスペルガーの患者もおり、「こだわり」「常同性」との関連があるのではないかと考察されていた。

その後は、気分障害のセッション(#15)。Cichonらは、双極性障害患者45名と対照群46名でTPH2をリシーケンシングし、まれな変異Pro 206Serを発見。これが患者897名中13名(1.5%)、対照群1335名中4(0.24%)に見いだされ、関連があると報告。変異を持つ患者で家族歴のわかる9名中、8名で家族歴があった。頻度がPOLGの結果と似ていて、思わず納得してしまうものであった。

ポスターセッションでは、GAINGenetic Association Information Network)による、うつ病のNIMHサンプルでのGWASの現状報告があった(#231)。うつ病のGWASgenotypeは、本年1112月にはWebhttp://www.fnih.org/GAIN2/home_new.shtml)で公開されるとのことであった。

#227には、双極性障害と15q25-26の連鎖の報告があり、POLGについて注意を喚起しておいた。

#226#217はいずれもREV-ERBαと双極性障害の関連を報告していた。

#283では、Dr.Agamが統合失調症患者202名でmtDNAのハプログループを解析。ハプログループH20.3% vs 13.3%)とHV(9.4% vs 4.9%)が有意に多いことを示した(Schizophrenia Researchに受理)。

夜の、From Genes to Drugsというワークショップは、製薬会社各社の研究者が壇上に上り、会場のgenetics研究者と対話するという珍しい企画であった。ほとんどスライドを使わない討論であったため、英語が十分聞き取れず内容は未消化。テーマは遺伝学と創薬研究のギャップをどう埋めるか、というもので、とにかくすごいギャップがあり、ほとんどつながりがない、という現状が浮き彫りにされた面の方が強かったように感じられた。製薬会社の研究者は、「アカデミアの遺伝学者との共同研究に関して我々はopenだ」という態度を示し、特に臨床試験において、マーカーによって層別解析する必要性は感じており、こうした方面での共同研究は十分にありうることを述べていた。しかし、このように「総論賛成」の立場を示しつつも、現在の遺伝学研究は再現性に乏しいこと、数千名のGWASで数百の関連遺伝子がでてきたとしても、一つ一つの影響が小さい中でどうやって創薬に結びつけるのか、など、シビアな見方をしており、口では協力しましょうと言いつつ、あまりgeneticsとのコラボを真剣に考えている様子ではなかった。製薬会社から見ると、Psychiatric Geneticsの研究は全くsolidではないと思われている風であった。

 

3日目の最初の講演は澤先生の元上司、Jons HopkinsDr. Christopher Rossであった。意外に高齢の方で驚いた。前半は変性疾患の教科書みたいでイマイチであったが、後半にはmutant DISC1inducible Tgマウスの話があった。攻撃性、社会的相互作用の低下、培養で神経突起進展の障害などが見られる。行動異常のうち、攻撃性やMK-801に対する反応の違いなどは、発達期とadultの両方でDISC1を発現させないと現れないことから、DISC1変異における表現型は神経発達障害という側面と、リアルタイムで異常を起こしている側面とが両方ある、という話だった。また、Poly:ICを加えることによって初めてでる異常(EPM)もあり、遺伝環境相互作用が推定された。これらのデータを見ていると、行動異常の何に着目するかによって、異なった結論が導き出される可能性があり、行動試験のどれが統合失調症に本質的ともいえない状況の中で、皆がそれぞれの行動試験の結果に基づいて統合失調症の発症メカニズムを考察する…という状況になりかねない懸念が感じられた。また、どの行動異常もSchizophreniaに特異的とは言えないことも、筆者としてはexciteしにくい部分である。それにしても、同じ大学からわずか1ヶ月違いで、似通った内容の論文が出るとは、何とも恐ろしい世界である…。(ちなみにRoss論文の主著者はSawaグループ論文の共著者になっている)。

次のAllen Rosesは、複雑疾患の遺伝子探索における産業界と大学の共同、というタイトルであったが、内容はアルツハイマー病研究の話だった。アルツハイマー病のGWASは既に5つ動いており、全てAPOC1APOEローカス付近)で強いシグナル(10-810-52)がでている。二つ目以降は、どれも10-7以下で、研究によって異なる。双極性障害では、この二番目以降のピークしかないということか…と再認識された。ただし、APOEのローカスにもう一つ別の遺伝子がある可能性があるのではないか、と考えて、解析しているという。この近傍の細かなシーケンスを調べ、進化系統樹を書くことによってその可能性を検討していたのだが、よくわからなかった。とくに、APOE遺伝子の隣にTOMM40(ミトコンドリア外膜の輸送蛋白)があり、これはAPPをミトコンドリア内に輸送する働きがあることから、関係がある可能性に着目した。

ApoE4がスパインを減らす作用があり、ミトコンドリアがスパイン形成に重要であること、Rosiglitazone(商品名アバンディア、本邦未発売)という、PPARγのアゴニストとしてインスリンへの感受性を高め、糖尿病に使われる薬が、ミトコンドリアの合成を促進し、シナプスを増やすことから、この薬がアルツハイマー病に効くのではないかと考えた。(ただし、この薬は最近心筋梗塞のリスクを高めることが明らかにされ、難しい状況になっている) Rosiglitazone のアルツハイマー病への臨床試験が行われ、Phase IIBで無効との結果がでていったん治験は中止となったが、ApoE4(-)の患者に限ると有効だということで、ApoEgenotypeを加味したPhase IIIの臨床試験を始めているという。

 

 次はCopy Number Variationのセッションであった。メンバーは昨年のApplied Genomics 2006とも重なりがあり、聴いたような内容が多かったので、Applied Genomics 2006の報告をご覧下さい。

 C. Leeによると、現在、Phase IICNV探索が行われていて、500bp以上のCNVを探索しているのだという。アミラーゼ遺伝子のCNVが食生活と関連しているという。

 E.Eichlerは、455名の精神遅滞者でCNVを探索。健常の親にないde novoCNVで、複数のMR者で見つかり、症状(顔貌など)に共通点がある、という基準で選び、17q21.3(特有の顔貌、タウMAPTを含む)、15q24.1-2(自閉症スペクトラムを伴う)、15q13.3CHRNAを含む、てんかん)などが報告された。

 J. Sebatは、点変異が10-610-8の確率でおきるのに対し、CNV10-410-6の確率でおきることから、CNVSNPよりも100de novoで起きやすいのだと話した。自閉症の10%de novo CNVを持っており、コントロールより頻度が多いが、欠失している遺伝子はさまざまで、オキシトシン(?)A2BP1NCBEsyntaxin1Aなどを含むCNVが発見されている(遺伝子名は不確実です)。欠失している遺伝子には、SNARE complex関連が多く、Gene Ontology解析では、vesicle exocytosis, outgrowth of neuritesが多かったという。このように、CNVの位置は症例によってばらばらであるが、欠失している分子のパスウェイに共通性を見いだせばよいのではないか、という方向性のようであった。

 最後のBurmeisterは、双極性障害と8q24(連鎖部位)のCNV、ということで、オッ!?と思うようなタイトルであったが、結局は双極性障害患者で8q24CNVが見つかったが、その頻度には健常者と差がなく、normal variantと考えられた、とのことであった。

 このあたりから少々体調を崩し、この日は一部しかでられなかった。

GlattによるDRD2の発表では、有波先生、糸川先生のCys311がメタ解析でも有意である(OR=1.3)ことに基づいて、台湾の計2400名の家系で、近傍の多数のSNPも含めてgenotypeし、family based association studyを行った。その結果、やはりCys311を含むハプロタイプが有意に関連していたと報告した。

アメリカの膨大な資金を投入した研究でも、機能的SNPと統合失調症に関して一致した結果が得られていない一方、この分野で初めてのBigな所見であったCys311Schizophreniaの関連が、長年の批判に耐え、再現性ある所見として認められたことは日本人として誠にうれしい。来年、本学会が日本で行われているが、ぜひこの仕事にスポットライトを当てて欲しいものだ。

夜のポスターでのエピジェネティクスのセッションでは、Petronisグループによる統合失調症患者の全ゲノム網羅的エピジェネティクス解析のポスターや、最近PLOS ONEに掲載された、年齢依存性の脳内DNAメチル化変化に関するすごい論文のポスターなどが出ていた。Tochigi先生の、リーリンはメチル化されていないとの発表については、隣のPetronis研のJ Millも、自分のところの結果でもそうだし、よく言ってくれた、との感じであった。

Dr. Robbin Murrayから、モーズレーの一卵性双生児双極性障害不一致例15ペアで、Araceli Rosaという人がDNAメチル化解析を行って、まもなく論文がでると聞いたが、詳細は不明である。

CNVに関しては、功刀研の尾関先生が、アレイCGH17p11PMP22の欠失を持つ患者を見いだしたことを報告した。PMP22SNP解析では関連はなく、354名の患者におけるスクリーニングでは他に欠失を持つ患者は見つからなかった(421)。この遺伝子はオリゴデンドロサイト/シュワン細胞の発達に必要な遺伝子で、シャルコーマリーツース病の原因遺伝子でもあり、その欠失は、HNPP(Hereditary neuropathy with liability to pressure palsies、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー)という疾患の原因とされている。HNPPでは中枢神経病変も見られSchizophreniaの合併例も報告されているという。最近、CMT病と精神疾患の家系について聞いたこともあるし、何か関係がありそうである。当チームでも、オリゴデンドロサイト機能障害について報告していることもあり、興味深いところであるが、全く一例のみで、なかなかこの先進めにくいようだ。

その他、CSHLDeutschらは、FTOという遺伝子が欠失した統合失調症家系を報告した。父親(Schizopid Personality)と一卵性双生児(SchizoPsychotic NOS)がこの欠失を持っていた。この遺伝子を含む大欠失のマウスが神経発達障害を示すことから考えても、この家系ではこの遺伝子が原因だろう、とのことであった(446)。この報告と尾関先生の報告では、その有望さには差がないと感じられ、PMP22もあきらめずに、より多数例での探索、HNPP患者の調査、PMP22ノックアウトマウスの行動解析など、頑張って進めて欲しいものだと思った。

 

 最終日は、ヒトゲノムプロジェクトを指揮した、Francis Collinsの話であった。Common diseaseの確実な遺伝子が20062007に急速にでてきたことなどを総説し、GWASの現状と課題について述べた。GAINプロジェクトに申し込み、受理された場合、十分な数の良質なサンプルがあれば、データを公開する条件で、GWAS用の経済的サポートが得られるとのことであった。GWASは糖尿病で既に成功しており、Bipolarについても、いくつか共通なものが出てきているなど、有望であると述べた。また、別のplatformを比較するためにimputationが使えることを紹介した。問題点としては、GWASでシグナルが出ても、LDの範囲にあるどのSNPが重要かわからないことだ、と述べた。聞き違いでなければ、NIHWellcome Trustが共同で、HapMap1000名のサンプルでwhole genomeを読むことを提案したいとのことであった。(10名でpersonal genomeプロジェクトが動いているとは聞いていたが、いきなり100倍とは現実的な話なのだろうか?) 

いずれにせよ、rare variantを調べるには、いずれ一人一人をシーケンスしなければならなくなる。454 Life Sciences社のハイスループットシーケンス装置は、ハイスループットではあるが、全ゲノムショットガンにしか使えないという難点があった。そこで、Hybridization Capture法により、特定の遺伝子配列部分だけをまず集め、これをショットガンシーケンスするという方法が述べられた。454のことを知った時、こういう方法が可能では…と思いついたが、そんなことはとっくにやっていたのか、と驚いた。また、エクソンの両端のプライマーでmultiplex PCRを使って増幅してからショットガンを行うことで、全エクソンのハイスループット解読を行う方法も提案された。いずれの方法を採用するかはともかく、5年以内には全エクソンの解読が1000ドルくらいで行えるようになるとの見通しが述べられた。また、各SNPについて、発現に影響するかのデータを全てアノテーションしたデータベースもいずれできるとのこと。また、NIH小分子探索のロードマップができ、研究者の申請を受けてピアレビューを行い、承認されると、NIHの持つ多数の化合物ライブラリから必要な化合物をハイスループットスクリーニングすることを請け負う、というような話だったと思う。(ちょっと理解不足です) ただし、得られたデータはPubChemで公開するとのこと。

全体に、今回のミーティングでは、データ共有へのアグレッシブな取り組みが随所で強調された。しかし、噂によると、こうした米国の取り組みに対して、ヨーロッパの研究者は必ずしも歓迎していないという。米国では、NIHグラントで行われた研究については、サンプルも生データも全て公開せよ、というポリシーを取っているため、研究者は公開せざるを得ない。そのために、データの先取権に不安を感じた米国の研究者が他国にも同じ態度を要求している、というのが現状ではなかろうか。もちろん、科学の進歩のためには米国流の公開のポリシーは良いことだと思う。

全体に、Collins氏は精神疾患のGWASの結果については楽観的である。糖尿病研究の最初の頃の状況もこんなものだった、と言い、しっかりしたデータがでつつあるとの認識で、威勢の良い話であった。なお、epigenetic markは遺伝するのか、という質問に、まれなケースでDNAメチル化状態が遺伝したとの報告もあるが、これはメチル化状態が近傍のSNPと関連しているために遺伝したように見えると考えるべきでは、と答えていた。

次のRonald W. Davisは、技術開発の話で、色々威勢のよい話がでて、とにかく何でも安くハイスループットにできるようになる、とのことであった。その話の中で、一番有用と思ったのは、血液から特定の細胞群を取り出すマイクロチップであった。血液のRNAを用いた診断では、どうしても細胞種の違いに影響される。これを避けるために、血液を注入するだけで特定の細胞種をキャプチャーできるようなチップを開発ずみとのことであった。

とにかく、5年位の単位で、ゲノム研究の技術がはるかに進み、一人一人の全ゲノム情報が読める時代が来ることは間違いないと思われた。このようなハイスループット時代になって、どこがハイスループットでないかを考えると、結局臨床の部分である。インフォームドコンセント、精神医学的診断、症状評価、採血までのところは、どうやってもハイスループットにはなり得ない。今後5年の間に、こちらを進めておかないと、技術革新後、日本は再び取り残されるのでは…と不安に感じた。他の領域であれば診療の片手間に採血することもできるのかも知れないが、診察の合間に構成面接を行っている時間などないし、精神科では困難な点が多い。専門の担当者がこうした仕事を行えるようにしないと進まないだろう。しかし、採血する病院でそれぞれ心理士を雇うといったことは全く現実的ではない。まずは、面接でなくても、テレビ電話等でインフォームドコンセントができ、郵便で爪を送ってもらえばすむように、ゲノム指針を改訂してもらうことが必要だと思う。

午前のプレナリーシンポジウムは、epigeneticsであった。最初のspeakerとして、がんでのメチル化異常を発見し、現在米国のepigeneticsのリーダー的存在であるFeinbergの講演が予定されていたが、本人は来ず、Feinbergと共に精神疾患のepigenetics研究を始めたらしい、Johns HopkinsPotashが話した。イルミナで807遺伝子の1505個のCpGについてメチル化を解析した、サンプルは100人分程度の健常者サンプル(スタンレー脳バンクやハーバード脳バンクを含む)。小脳と大脳にメチル化の差がある遺伝子として、HTR2A(セロトニン2A受容体)、HDAC7AEN2RASSF1GABRB3などが見いだされ、うちHTR2AHDAC7AEN2については独立サンプルでも確認された。この論文は、Am J Human Genetin pressとのこと。更に、Comprehensive High-throughput Array-based Restriction-endonuclease Methylation analysis (CHARM)という、MeDIP(メチル化DNA抗体を用いた方法HELP (メチル化感受性制限酵素)を用いた方法)、McrBCを用いた方法、の3つを併用して、全ゲノム網羅的DNAメチル化解析を行っているとのことであった。

次のEmma Whitlawは、Agoutiローカスのエピジェネティック遺伝を発見した人。今回は、精子のメチル化リプログラミングに関与する遺伝子(Momme D4, snf2h)のノックアウトマウスを作製し、ヘテロオスとヘテロメスの掛け合わせで生まれた野生型の仔が、野生型同士から生まれた仔から生まれた子と同じ遺伝子型にも関わらず、表現型が異常を示す、という例を報告した。筆者としては、これは単に父親が、精子形成異常という、遺伝子異常に対応した表現型を示すだけで、エピジェネティックなサインが遺伝するという話とは全く異なるのではないかと思った。

彼女が大変面白いケースを紹介した。ポルトガルのある女性が、自分の子どもの父親が、思い当たるどちらの男性の子どもかを知りたい、と遺伝子診断を依頼した。複雑なことに、この父親の可能性がある2人の男性は、一卵性双生児の関係にあった…。(その場ではひょっとして単なるジョークか思考実験かと思ったが、ちゃんと論文がでていた。) 論文によると、このケースでは、何と、2人の間にマイクロサテライトマーカーの違いが見られたのだという。(今までこの論文は知らなかったが、一卵性双生児間のゲノム配列差異を報告した数少ない論文の一つとなる。) 彼女の論点は、エピジェネティクス研究が進めば、こうしたケースでも鑑定ができるようになる、というような話だったが。

次のMalaspinaは、父親の高年齢が子の統合失調症のリスクになるというデータを発表した。このようなデータは既に5本(Zammit S Br J Psy 2003, Sipos A BMJ 2004, Malaspina D Arch Gen Psychiatry. 2001 , Byrne M, Arch Gen Psychiatry. 2003, Dalman C, Am J Psychiatry. 2002, Brown AS, Am J Psychiatry. 2002)のしっかりした論文がでており、確実だとのこと。彼女らは、これがエピジェネティクスによるものだと主張した。しかし、同じデータでde novo mutationだという人もいるし、高齢で結婚するような性格が遺伝するのだ等、他の解釈も可能である。また、父親の年齢は、自閉症、あるいは知能と相関するとのデータもある。なお、うつ病、双極性障害とは関連しない。

このメカニズムを探るため、現在、8週齢、100週齢のオスマウスから生まれた仔の行動試験を行っており、100週齢オスの仔の方が、学習能力(?よくわかりませんでした)が劣るなどのデータを示した。今後、F2世代にこの異常が受け継がれるかどうかで、エピジェネティクスかde novo mutationかを判断したいとのことであった。

その他、イスラエルの6日間戦争後に統合失調症が増加し、これは特に妊娠2ヶ月時に戦争を体験した人に多かった、とのデータからfetal programmingの関与を示唆した。全体に、彼女のプレゼンは仮説に満ちており、エピジェネティクスという言葉も茫漠と使っている感じで、話としては面白いものの、エピジェネティクスと関係ある話とは言い難かった。

最後に、Carmen Sapienzaという、癌におけるIGFのメチル化を研究している人が話したが、イントロから「Psychiatric Genetics学会に行くと言ったら何で君が?と言われた」などと話していた通り、がんの話に精神科遺伝学の豆知識を散りばめたイマイチな話だったので、割愛させていただく。

ということで、Epigenetic Mechanisms for Psychiatric Disordersというタイトルの割に、精神疾患のDNAメチル化の話が一つもないというやや不満なセッションであったが、Petronisは呼ばれたが来られなかったということなので、仕方がない。来年こそはこのテーマでちゃんとしたシンポジウムをやるべきだろう。

午後は統合失調症のWhole Genome Association Study (GWAS)のセッションがあった。

まずは、誰かわからない女性が、統合失調症GWASのコンソーシアムの現状について報告した。(抄録集にも、コンソーシアムの名しか書いていない) 6カ国の10施設による共同研究の、統合失調症3294名、対照群2904名で、500KSNPチップまたは1000K SNPチップによりGWASを行った。全体の2/3程度の段階での予備的な解析では、最も有意だったのはrs659655であった。遺伝子は出ていなかったが、隠したというより、周辺にESTしかなかったからだろう。これもgenome-wide significanceを満たすものではなかった。他に、rs6504867rs659655rs1165690GABRA3?)、rs12071951rs17795516(SETBP1?)(遺伝子名を示したもの以外はintergenic region)などの遺伝子リストが示されたが、すぐ次のスライドに進んでしまい、よくわからなかった。とにかくまだ解析が終わっていないとのことなので、もう少し待つしかない。

次のO’Donovanは、WTCCCのプロジェクトの一つとして、476名の統合失調症患者と、3000名のコントロールで第一次スクリーニング、トップの所見(10-5以下)について、更なる170名で確認、最後に患者1600名と対照群3700名で確認、という3段階で検討した。一次スクリーニングの結果、12の関連するクラスターが見られ、2番染色体に最も強いシグナルを認めた。RPGRIP1Lという小脳疾患の原因遺伝子や、11q14.1METT5D1KCNA4の間の領域、zinc finger proteinなどの他は、intergenic regionが多かった。rs9922369, rs6490121, rs1344706, rs16025654つがstage 3まで確認できた関連だったと思う。質問もあったが、NRG1DTNBP1などの既知の候補遺伝子は何も出てこなかった。

次は上海のBio-XLin Heで、200名の患者と200名の対照群での500Kチップの後、replication sampleには480名の患者と672名のコントロール、二次replication1034名の患者と1034名のコントロールを解析したwhole genomeレベルで有意となる1.5×10-7を超えるピークが38個見つかったが、WTCCCでも有意なものはなかった。10-4以下の103個に増やすと、このうち5つはWTCCCでもmarginalに有意であった。しかし、Replicationサンプルでも確認されたものはなかった。逆に、WTCCCで有意だった9個のマーカーを調べたところ、rs2890738のみがわずかに上海サンプルでも有意であった。

Todd Lenczは、Homozygosityマッピング(前述のautozygosityと同じだろう)という別のアプローチでの検討を行った。178名の患者と144名の対照群で、長くhomozygosityが続く場所(Runs of Homozygosity, ROH)をスクリーニングし、このような場所が339カ所あることを見いだした。患者ではこうした領域が有意に長く、染色体上9カ所に、患者で有意に長い部位を認めた(11q, 18q, 17q, 2q, 1q, 5q, 14q, 2, 8q)。特に、1qCAPONを含む領域(p=0.004)は注目された。他にも、PIK3C3NSFATF2NOS1APSCGDGPHNIMPAD1などを含む領域が注目された。これらは、前述のPrichardが述べたハプロタイプ共有が多い領域とも重なる。Weinbergerが、CNVと区別できるか、と質問し、完全には否定できないが、CNVのデータも参照して検討しているというようなことを述べていた。

次は、前述のPatrick Sullivanが、CATIE studyのサンプルのデータを報告した。このデータは、http://nimh.genetics.orgに申し込めば生データにアクセス可能とのことである。

738名の患者と733名の対照群で調べたが、FDRfalse discovery rate)で最小値が0.45で、whole genomeで有意となる場所はなかった。有意なシグナルの上位には、既知の候補遺伝子はなかった。COMTG72DTNBP1などは全く有意ではなく、NRG1FEZ1CACNA1AARMC3(DISC1)などはp<0.001で有意だった。NRG1の関連SNPHap ICEとは遠く離れた3’末にあったが、DISC1の関連SNPはまさに最初の家系のbreak pointにあった。Lencz 2007によるSchizophreniaGWAS論文の結果で有意だったrs 4129148CSF2RA (colony stimulating factor, receptor 2 alpha))は、有意ではなかった。

Sven Cichonは、493名の患者と1356名の対照群で検討した。ゲノムワイドで有意(10-7)なシグナルが一つ見つかり、染色体7番であった。その他に10-510-6のシグナルが10個あった。最も有意だった7番染色体のシグナルは、rs202159CUTL1であった。その他、rs7728107(KIAA0947)rs0282765(GABRA3)TSPYL5rs1076217PTPRE)などにシグナルを認めた。

以上、全体をまとめると、

     各研究とも、ゲノムワイドに有意なSNPはあっても数個(上海のみ多い)

     Replicationサンプルで確認できたと報告しているのはO’Donovanのみ

     最初のスクリーニング、あるいはreplicationなどででてきた遺伝子に、既知の候補遺伝子はない

     研究間で一致してみられるものはあったとしても非常に少ない

といった状況である。

この結果をどう見るか、見方は色々あるだろうが、いずれにしても、双極性障害とほぼ同じような結果といってよさそうだ。

 

 全体を通して、今回、3年ぶりに本学会に参加したことは、やはり有意義であったことは疑いない。GWASについては、予想通り、あるいはそれ以上の進展具合であった。

 GWASについては、quality controlの流れ(Minor allele frequency, HWE, call rate, QQ_plotなど)がほぼ確立しつつある。こうしたfilteringによるSNP解析率は7080%のようである。一方、データの解釈としては、条件を緩くして出てきた下位の遺伝子が研究間で重なっている場合(local confirmation)、これに意味があるかどうかについてはコンセンサスが得られていない。

筆者の印象としては、やはりGWASによるSNP解析で、双極性障害や統合失調症の原因解明を進めることには困難があるように感じられた。1家系での連鎖解析、ノンパラメトリック連鎖解析、候補遺伝子の機能的多型の関連解析、候補遺伝子のハプロタイプ解析、家系内関連研究など、方法論が変わるたびに起きてきたことが、また繰り返されているとの印象が否めない。ではどの方向に進むべきか、というと難しいが、網羅的遺伝子発現解析やDNAメチル化解析による関連分子カスケードの同定、まれな変異に着目した動物モデルへの展開など、我々のアプローチにも活路が見いだされる可能性があると信じたい。

GWASのデータを用いて、whole genome CNV解析を行っている研究はまだなかったが、実はこれこそが、今後最も期待される領域の一つである。CNVの解析については、SNPよりも更に微妙な面があり、容易にコンセンサスは得られないと思われる。今回は日本におけるGWASはまだ報告されなかったが、こうした解析のプラットフォームが整ってから満を持して行うというのも、コストの低下やSNPの高密度化、CNVに特化した最新のアレイを使用できることなど、色々メリットがあり、ぜひ日本でも同程度の規模の研究が行われるべきであろう。