International Symposium of Applied Genomics 2006
本シンポジウムは特定領域ゲノム研究班の応用ゲノム領域の企画により毎年一回行われている国際シンポジウムである。今回のテーマの一つが、Structural Variation in the Human Genomeであったが、Nature論文がでて一月も立たっていない、絶妙なタイミングでのシンポジウム開催となった(Redon et al, Nature 2006)。Dr. Stephen W. Scherer (The Hospital for Sick Children, Tronto), Dr. Charles Lee、Dr.油谷の3人の先生方は、いずれもNature論文のCo-Authorであり、同じスライドを使っている部分もあった。
Dr. Schererの話の中では、自閉症の研究が興味深かった。翌日にはサテライトシンポジウムで自閉症に焦点を絞った話をする予定のようであったが、このシンポジウムでは、Copy Number Variation (CNV)の一般的な話が中心だった。翌日の発表の抄録によると、1749名の患者で染色体異常が見られ、7.4%に染色体異常があったとのこと。また、354家系でCNVを調べたところ、1090個のCNVが見られ、コピー数減少が42%、増加が58%であった。2回以上見られたものは、51個あった。CNVの10%がde novoのものであった。また、男児3人が全て自閉症という家系で、PATCHD3(?)という遺伝子について、母親がホモの欠失、父親が正常、男児3人が皆欠失であった。また、複数のde novo CNVを持つ患者もいた。連鎖解析は、CNVが見られた患者を除いて行わねばならないことが指摘されていた。
Dr.Leeは、一般的な話が中心で、BACアレイと500K SNPチップでは見つかるCNVの大きさが違うこと、CNVはゲノムの12%をしめており、ヒトのゲノムは99.9%同じだなどというのはもはや間違いである、正常なゲノム、という概念は難しくなった、などと述べた。また、例えば両親があるCNVについて、コピー数が1/3、2/2だった場合、両親とも正常なコピー数となるが、その子は1/2または3/2と異常になってしまうなどの例を挙げていた。その他、病気との関連が疑われる遺伝子でCNVがあるものをいくつか紹介しており、DISC1にCNVがあることも紹介していた。
次のDr. Tim Aitman (MRC, Imperial College Faculty of Medicine, UK)は、前2者と異なり、特定の病気、遺伝子に焦点を絞った、臨床的な見地からの発表であった。自然発症高血圧ラット(SHR)は、メタボリックシドローム(インシュリン耐性を基盤とした、高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病の複合症候群)を呈する。その原因を連鎖解析と遺伝子発現解析により同定したところ、Cd36(トロンボスポンジン受容体などとも呼ばれる)という遺伝子の欠失が原因であることが分かった(Aitman et al Nat Genet. 1999)。これは、Cd36のトランスジェニックマウスとの交配で改善した。日本人では約6%にCd36の点変異による機能欠損が見られ、これが日本人に糖尿病が多い原因の一つと思われる。
また、Wister-Kyotoラットの連鎖解析では、Fcgr-rsの欠損が見られ、これがWister-Kyotoラットにおけるマクロファージの過活性と糸球体腎炎の原因と考えられた。ヒトでもFCGR3BのCNVがあり、これがSLEにおける腎炎と関連していた(Aitman et al Nature 2006)。これは、CNVと疾患の関連を示した数少ない報告の一つである。