研究内容(受験生の方へ)

図1
図1
図2
図2

人の感覚、運動、思考、感情などの働きは神経回路によって営まれています。神経回路は、神経細胞がいくつも連なって出来ていて、情報を伝達したり計算したりしています。単純な例としては、脊髄反射があります。感覚情報に対応して適切な運動を引き起こすという反射のための神経回路が、脊髄に存在するのです。感覚、運動、思考、感情などのより複雑な現象は、大脳を含んだより複雑な神経回路により成り立っていると考えられています。しかし、大脳の神経回路は特に複雑で、解明されている部分が非常に限られます。


このラボでは、MRI(磁気共鳴画像法)を用いて、大脳を中心としたヒトの認知機能を実現する神経回路を解明しようとしています(図1)。MRIはテレビでもよく登場しますが、円筒形の医療機器で、脳や体幹のスライスを撮像することができます。見かけ上よく似たものにCTがあり、CTはX線照射による被ばくがありますが、MRIは磁場を使うので、基本的に無害です(ただし、ペースメーカーなど体内に金属を持つ方などの例外もあります)。MRIを使うと、例えば暗算などの認知課題を遂行中の脳活動を測定することができ、脳のどの部位がその課題と関係するのかがわかります(図2)。

図3
図3

MRIの画像は神経細胞を直接見るだけの空間解像度がありませんが、最近の技術的進歩は目覚ましく、神経回路をマクロ的に見ることができるようになりました。神経細胞の代わりに、機能単位と考えられる領域(Parcelといわれています)を同定することができるようになり(図3)、このParcelを構成要素として、マクロ的神経回路を組み立てることができるというわけです。特に、MRIは脳全体をカバーできるため、マクロ的な神経回路の全体像を知ることができるのではないかと考えています。

図4
図4

MRIを使ってマクロ的神経回路をある程度解明できるとしても、これを別の方法で検証する必要があります。TMS(経頭蓋磁気刺激法)は、ある瞬間に脳に軽い磁気刺激を与えて、神経回路の働きをその瞬間だけ妨げることができます(図4)。TMSは運用基準が確立した手法で、安全に使用することができます(一部の刺激に弱い体質の方は対象外となります)。例えば暗算を行うための神経回路にTMSを作用させると、その瞬間だけ暗算にかかる時間が長くなるはずです。このように、MRIとTMSを組み合わせて、人の感覚、運動、思考、感情などの大脳が関わる心の働きを少しでも解明できればと考えています。